【スポーツ回顧録】「Che Spettacolo!」 バレンティーノ・ロッシの4連覇

バレンティーノ・ロッシ(2004年第15戦オーストラリアGPでの表彰台)(C)Getty Images

世界最高峰を極めるチャンピオンを決するにふさわしい、激しいレースを制した王者は、マシンの上から前方に乗り出し、カウルに記されたゼッケン46をいとおしそうに何度もなでた。

「2輪ロードレース世界選手権第15戦オーストラリアGPのMotoGP決勝は17日、フィリップアイランド・サーキット(1周4.448キロ)で行われ、ここまでポイント・リーダーに立っていたバレンティーノ・ロッシが優勝、今季8勝目を挙げ、最終戦を待たずに年間チャンピオンを獲得した」。

これまですべてのクラスでGPを制し、最高峰クラスでも3連覇を成し遂げていたロッシの走りを表現するには、あまりにもありきたりな一文だ。

だが、それまでの3連覇と異なり、新しいチーム、新しいマシン、新たな挑戦、今季の道のりは決して平坦ではなかった。誰よりもロッシが、それを痛感したはずだ。

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■歴史に残るラストラップの攻防

チャンピオン決めるこの一戦で、ロッシが見せた走りは、GP史において語り継がれるに足る鮮明な戦いだった。また、初のチャンピオンの座を狙ったセテ・ジベルノーの走りも見事だった。ラストラップにまで及んだそのバトルに、絶叫したファンも多かったことだろう。

チャンピオン獲得の条件は、もちろんロッシに有利ではあった。ロッシは、優勝もしくは2位で、無条件でチャンピオン獲得。これに対しジベルノーは、ロッシに6ポイント差をつけてフィニッシュしなければ、最終戦での可能性さえ失う。

チャンピオンへの執念を見せるかのようなジベルノーはポールポジションを獲得。2番手にロッシがつけるスタートとなった。1周目、順調にトップに躍り出たジベルノーとは対照的に、ロッシはコーナーでグラベルに飛び出し、一気に順位を落とす。チャンピオン痛恨のミス。

だが、ここで我々はロッシならではの走りの質の違いを目の当たりにする。5、6位でコースに復帰したロッシは、まだダートも落ちきらないタイヤをものともせず、続くコーナーでごぼう抜きを演じ2位にジャンプアップする。この爆発的な瞬発力は、ロッシのみが持ちえる武器だろう。

トップのジベルノーを追うロッシは、このままの2位でフィニッシュしたとしても、チャンピオン獲得が決まる。「2位キープもありえるな」、そう思った。

しかし、ホンダからヤマハへの移籍を選択することで自らに重荷を課したロッシは、そんな並のチャンピオンではなかった。残り9周でジベルノーに仕掛け、トップに躍り出る。さすがだ。

いつものレースならここでロッシがスパートをかけ、フィニッシュまで持ち込むパターンだ。しかし、必勝を期すジベルノーの走りも鮮やかだった。

置き去りにされるどころか、そのままロッシの背後にぴたりとつくと、残り5周となったメインストレートでロッシのスリップから飛び出し、トップを奪い返す。31度の路面温度、天候はドライ。しかも終盤での勝負を見据えて、リアにハードコンパウンドを選んだ上でのパッシングだった。

ロッシ相手のレースを考えれば、パッシングのチャンスは極端に少ない。

メインストレートを生かしてのパッシングは、ホンダのマシンを相手にヤマハのロッシが成しえない戦略だけに、勝利を考えるのであればラストラップの切り札としておくべきだったのではないだろうか。タイヤかマシンか、それとも自らのペース配分か、ここでロッシを抜いてしまったことが、振り返ればジベルノーの敗因だった。この展開がラストラップでの仕掛けに大きく影を落とす。

2位に落ちたロッシも、まだまだ言い訳が可能だった。優勝でも2位でも自動的にチャンピオン獲得。しかも、レース中に一度はジベルノーをパスし、チャンピオンとしての実力も披露し終えた。

このままフィニッシュしても誰もチャンピオンを責める者はなかっただろう。そして、リスクを冒す必要は皆無に見えた。

だが、ロッシは残りの周回ですべてのコーナーにおいて、ジベルノーの走りを見据えていた。ジベルノーの背後で、コーナーのたびにラインを取り変え、相手がどのコーナーでどのラインをトレースし、さらに自らのマシンをどのラインに滑り込ませればジベルノーより前に出ることができるか、丹念にビクトリーラインを頭の中で描いていたのだろう。

ジベルノー、ロッシの順でラストラップへ。予想されたとおりロッシはファーストスティントでしかける。得意のブレーキングでの飛び込み。観る者に、まるでジベルノーが急ブレーキでもかけたかのように思わせ、音もなくスパッと前に躍り出る。

だが、ジベルノーもまた追撃の手をまったく緩めない。イン側をおさえ気味にコースどりするロッシに対し、5コーナーの飛び込みで再びトップを奪い返す。それでもロッシは、まったくおさえた走りを見せる気はなかった。

「まずい、どちらかがコースアウトする結末か」と手に汗握る、そんなラップだ。

そしてクライマックスはやってきた。ロッシはやはり、それまでの周回でジベルノーのマシンの挙動を計算しつくしていたのだ。後半のスティント、ロッシは狙いを定めたかのように、ここでは抜かないだろうと思われるタイトな隙間にヤマハのマシンを放り込む。ロッシのマシンは、ハードブレーキングのために前後のホイールとも振られるのがよくわかる。

だが、ロッシはいつもどおりにマシンをコントロールし、ジベルノーの前へ。そして、そのままイン側をおさえ、ジベルノーの位置を十分に意識しながら最終コーナーを回りきる。ブルーのヤマハは一気に立ち上がると、最終出口からスピードを乗せて最後の勝負に挑む青いホンダを振り切りフィニッシュした。

落胆を見せるジベルノーを背後に、2004年のチャンピオンはマシンの上で頭を抱え込むように歓喜を爆発させる。ロッシはそのままカウル上に乗り出すと、ヘルメット越しにカウルにキスする仕草を連発。ゼッケン46を左手でいとおしそうに、何度も何度もなでた。

■「ヤマハの」ロッシにまつわる記録

ロッシの勝利は多くの記録的意味を持つに至った。

まず、旧500ccクラスから数え、トップカテゴリー4連覇。ヤマハ・ライダーによるGP連覇は、92年のウェイン・レイニー以来、12年ぶり。ロッシのシーズン8勝目は、ヤマハ・ライダーとしてシーズン最多勝利。過去の最多勝利数は、エディ・ローソン(88年ヤマハ、89年ホンダ)以来の史上2人目。最高峰クラスで4度目のタイトル獲得は史上7人目。最多は8回のジャコモ・アゴスティーニ、以下5回のミック・ドゥーハン、そして4回でマイク・ヘイルウッド、ジェフ・デューク、ローソン、ジョン・サーティースが並ぶ。最高峰クラス4連覇は、アゴスティーニ、ドゥーハン、ヘイルウッドに次ぐ4人目だ。

レース後、ロッシは「Che Spettacolo」とプリントされたヘルメットとTシャツでポディウムの頂点に立った。「Che Spettacolo」の意味は「What a show!」。文字通りSpettacoloな(ショータイムな)走りを見せ、ヤマハでのチャンピオン獲得を成し遂げたロッシに、今はただ賞賛を送りたい。

MSNスポーツ 2004年10月19日掲載分に加筆・転載

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著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨーク大学などで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。


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