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【スポーツ回顧録】ヤンキース松井秀喜の完璧な東京ドーム凱旋=ゴジラ再上陸

【スポーツ回顧録】ヤンキース松井秀喜の完璧な東京ドーム凱旋=ゴジラ再上陸
写真は2004年3月31日、同じく東京ドームで行われたタンパベイ・デビルレイズ戦でホームランを放った松井秀喜(C)Getty Images

ぶったまげた。度肝抜かれた。驚いた。

松井秀喜の凱旋帰国第1打席ホームランは、そう表現するしかない劇的な1発だった。美しい弧を描いた松井の打球は、物静かに幕を開けたこの日のゲームがゆえに、5万5000の観衆にことさら鮮明に刻み込まれたに違いない。

※これは2004年3月28日、東京ドームで行われたニューヨーク・ヤンキース vs 読売ジャイアンツのオープン戦ルポである。

49年ぶりに来日を果たしたニューヨーク・ヤンキースの1回表の攻撃は、高橋尚成の前に三者凡退。1番のケニー・ロフトンから、ミスター・ヤンキースのデレク・ジーター、A-RODことアレックス・ロドリゲスまで、1塁ゴロ、センターフライ、セカンドフライと、「真の」世界最強打線は、意外なほどあっけないスタートを切った。

その裏、巨人の攻撃も文字通り沈黙。仁志敏久清水隆行江藤智は、ヤンキースのホセ・コントレラスの前に三者三振。あわや9球で終わりかと思わせた奪三振ショーだった。30日に公式戦の開幕をひかえたヤンキースは、マイク・ムシーナケビン・ブラウンの両エースを温存。それでも巨人打線はいいように手玉に取られた。

こうして始まったこの日のゲームで、松井は2回表の先頭打者としてステージに上がる。そして松井も2-2と追い込まれていた。一瞬間だけ「高橋もやるもんだな」と思った6球目は、左打者の肩口から入り外に逃げるカーブだった。松井がまるでホームラン競争でのスウィングですくい上げた打球はセンターの最深部へ。144メートルの特大ホームランだ。私は夢を見ているのかと自分の目を疑った。その打球が空を羽ばたいている間のシュールリアルな感覚は、東京ドームの誰もが感じ取っていたのではないだろうか。

メジャーデビュー後、初の凱旋帰国ゲーム。相手は古巣・巨人。打順にポジションも当時と同じ4番センター。かつてのホーム・東京ドームでの第1打席。そこでいきなり特大アーチだ。いったいなんと形容したらいいのだろう。なんて男だ。

昨年のメジャー・オープン戦初戦でもホームラン。その後、4月8日のヤンキースタジアム・デビュー戦ではグランドスラム。そしてこの日のホームラン。いったいこの男はどこまで野球ファンを驚愕させれば気が済むのだろうか。タフィ・ローズロベルト・ベタジーニ清原和博もかすんで見えた。ゴジラは本当に怪獣王だったのだ。

この試合、4回にポサダに3ラン、5回にはジーターにも2ランが飛び出し、ヤンキースが6対1で貫禄勝ちした。

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◆記憶に残る平成のスラッガー、松井秀喜の国民栄誉賞

■MLBでも力を発揮する完璧なクラッチヒッター

 昨年、松井がメジャーへと進出するにあたって新聞各社、各野球評論家はこぞって松井の成績予想を書きたてた。「ホームラン30本」、「打率3割」、「いや実は通用しない」などなど様々な数字がさまざまなメディアで飛び交っていた。はっきりと言えば、打点以外の部門では、松井はそうした予想の数字を下回った。

だが、それがどうした。松井は数々のここぞという場面で、強烈な印象を残し、メジャーで「記録」より「記憶」に残る男となった。打率.435は満塁時、得点圏打率も.355をマークしている。ジョー・トーレ監督は、そんな松井の勝負強さを知っていたからこそ、ワールドシリーズで4番を任せたのだろう。松井はまさに「クラッチヒッター」としての才能を開花させた。そして、その挨拶状がこの日のホームランだった。

翌日、日本のスポーツ番組にトーレ監督と登場した松井は、今季の自らの成績予想迫られ「ジョーの予想を上回ること」と答えた。ジョーの松井の成績予想は、打率297、25ホームラン、112打点。日本のマスコミ流に言えば、松井はこの数字を上回ると信じたい。だが、奇しくも松井とジョーは同じことを口にしていた。(個人成績の)数字なんか重要ではない。ワールドチャンピオンを獲得することこそが最重要なのだ、と。

夢のような松井のホームランを見たばかりだ。この際だから、思い切って夢を見よう。松井は今シーズン、ワールドシリーズでヤンキースの4番として大暴れし、ワールドチャンピオンの一員として、10月に再び帰国する。この日の松井の一発には、そんな大それた夢を託すだけの価値があると確信した。

注:ご存知の通り松井は2004年シーズンに31本のホームランを放ち、見事日本メディアの期待に応えた。これは2021年、大谷翔平に抜かれるまで日本人メジャー選手の最多ホームラン記録だった。

また2009年のワールドシリーズでは、13打数8安打3本塁打8打点、世界一を決めた第6戦で先制2ランを含む1試合6打点の大爆発。日本人として初めてワールドシリーズMVPに輝いた。2004年のこの時の私の確信は、現実のものとなった。

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MSNスポーツ 2004年3月29日掲載分に加筆・転載

◆大谷翔平、ゴジラ超え日本人最多となるシーズン32号 松井秀喜氏も「彼は真の長距離打者」

◆長嶋茂雄、松井秀喜、国民栄誉賞W受賞 昭和と平成のスラッガーを振り返る」

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著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨーク大学などで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。