北京五輪から新種目となったスキージャンプ団体混合では、高梨沙羅をはじめ女子5選手が失格となり、記録を取り消される波乱の中、後味の悪い結果となった。女子個人ノーマルヒルで4位となり惜しくもメダルに届かなかった高梨が、団体混合で大ジャンプを見せた後に失格となる不運に見舞われ、「わたしのせい」と自責の念にかられるなど、アスリートにとって精神的に大きな負担となっただけに看過されるべきでないだろう。
この問題について、長野五輪ノルディック複合の日本代表でもあり、1995年ノルディックスキー世界選手権団体金メダリストでもあるスポーツキャスターの荻原次晴さんは自身のFacebookにおいて非常に興味深い考察と厳しい意見を述べている。
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■悔しさ吐露「FISが足を引っ張るような形に…」
まず荻原さんは規定違反により「競技そのものより、違った形でスキージャンプがフォーカスされてしまい残念です。国際オリンピック委員会がジェンダー平等を推進する中で冬季五輪でも新種目として採用し、ともにジェンダー平等を進めなければいけない国際スキー連盟(FIS)が足を引っ張るような形になってしまいました」と自身が敬愛する冬季競技が、このような不本意な形で注目を集めた点について、悔しさを吐露。しかもそれが「ジェンダー平等」を掲げながら、むしろ逆効果になった点についても指摘した。
選手のボディサイズはシーズンインの歳にFISの計測員がインナーを着た状態で計測。そのデータをもとに大会ごとに検査を行い、その許容範囲は男子で最大3センチ、女子で4センチとなっており、高梨の場合、ボディサイズよりも6センチ大きかったため「2センチ大きかった」と失格となったとされている。このルールは素人が想像するよりも厳しく、荻原氏によると検査後にスーツに触ったら失格となるレベルであり「気合を入れるために胸を叩いたり太ももを叩いてもアウト!」とのこと。1試合につき1、2名の失格が出る場合もあるそうだ。
しかし荻原さんも「4人(※原文まま)も出ることは極めて異例です」と記し、ここから推測を加えている。
「今回は混合ということで、日頃から男子選手を見ている計測員と女子を担当している計測員が一緒になるという稀なケースです。(中略)女子担当者が男子のチェックの厳しさを目の当たりにし、『いつものやり方ではダメなようだ、男子担当者が見ている手前、女子も厳しく見ないと私の立場が…。』となった可能性があります。海外の女子選手が「いつもとは違った計測だった…。」というのはそのせいだと思います。五輪の魔物が女子担当者に襲い掛かったのです」。
■ジェンダー平等を進めるなら「女子もラージヒル!」
スーツは、専用ミシンを用い、選手の体型に合わせて解体、修正を繰り返す精巧なもの。荻原氏も、縫い目を解体しても再び合わせられるような特殊生地からできていると解説。普段のワールドカップ同様に着用したところ、上記のような理由により、計測担当が厳しく、それが失格者続出を招いたと元プレーヤーならではの推察を披露した。
その上で「『完全に体にフィットしたものでなければならない』とすれば、サーフィンのウェットスーツのようにしたらどうでしょう」とも提言。さらに「今回の件は日本のみならず、FISに対し力を持つドイツ、オーストリアなども激怒しています。このまま終わる問題ではありません」と苦言を呈した。
そして「なんとも後味の悪い混合でした。FISは本当にジェンダー平等を進めたいなら、女子もラージヒル!(女子はノーマルだけね、てのが許せない!) そして、次の五輪で! 『女子ノルディック複合』を新種目で採用しないなら僕は怒りますよ!」とその理不尽さに憤りをにじませ結んだ。
確かにジェンダー問題を持ち出すのであれば、団体複合のみならず、女子選手もノルディック複合、ジャンプ・ラージヒルが行われてもなんら問題はない。ノーマルヒルで4位だった高梨にもラージヒルというチャンスが残されたはずだ。
各選手の並ならぬ不断の努力に報いるためにも、FISおよび競技開催側は、自らも律し、確固たる説明可能な運用を期してほしい。
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文・SPREAD編集部