【パラ陸上】4つの金メダルを持つ村岡桃佳、「ダイバーシティや共生社会」それらを現実のものとするためには… 【後編】

 

【パラ陸上】4つの金メダルを持つ村岡桃佳、「ダイバーシティや共生社会」それらを現実のものとするためには… 【後編】
パリ・パラリンピックも目指す冬季金メダリスト村岡桃佳

村岡桃佳は2014年、ソチ・パラリンピックに出場し大回転で5位入賞。18年の平昌パラリンピックでは日本選手団の旗手を務め、金メダル、銀メダル2つ、銅メダル2つと、計5つのメダルを獲得。パラ陸上競技で出場した21年の東京パラリンピックでは車いす女子100メートルで6位入賞。22年の北京パラリンピックでは、さらに3つの金メダルに銀メダルと、ここでも4つのメダルを奪取し、冬季パラリンピックで金メダル4つという日本人最多記録を持つに至る。

◆【前編】4つの金メダルを持つ村岡桃佳、人生の新しい扉を開いたスポーツとの出会い

■バリアフリー対応の難しさに遭遇することも

だが、東京パラリンピック開催を経てダイバーシティ、そして「共生社会」が実現したかと問われると、実感としてはなかなか難しいと村岡は語る。

たとえばタクシー。東京都内では、東京パラリンピックと前後しバリアフリーに特化したタクシーが普及。車いすの方でも簡単に利用、乗降できるように着脱式のスロープまで備えている。しかし実際には、スロープの着脱には知識と技術、経験を要するなど、タクシー会社でサービス実現のハードルは高く、中には車いすでのタクシー利用が受け入れられないケースもあったという。

こういったバリアフリー対応の難しさはタクシーだけではなく、路線バスを利用する際に乗車を受け入れてもらえなかったこともあったと村岡は語る。もしも同じように車いすを利用する方が乗車拒否に遭ってしまったら……そう考えたら、たまらずバス会社に問い合わせの電話を入れたくらいだ。

共生社会実現を目指す中、車いすの利用一つとっても世の中の対応にはバラつきがあり、実際に村岡のような場面に遭遇するケースは絶えない。

■子どもの頃からの夢を成し遂げた今後

4つの金メダルと獲得「夢はかなえた」と語る村岡桃佳

日本人最多となる冬季パラリンピックで4つの金メダルを獲得。すでに子どもの頃からの夢を叶えた村岡が今、陸上競技に取り組む意味とは何か。

「次のパリ・パラリンピックに出場したいという気持ちはもちろんありますが、それよりも単純に、もっと速くなりたい。モチベーションはずっと持続できるものではなく、どうしても気持ちに波があります。それでも日頃の練習の中でデータを見てトップスピードが上がったり、ちょっとした変化が目に見えたりすると、やはり走っていて楽しいと思える瞬間があります。大会に出場し記録が出せれば、モチベーションになります。車いすのレース中はひたすら車輪を回すので、ずっとうつむいて地面を眺めることになるんです。何のためにこんな苦しい思いをしているんだろうといつも思いますが、結局楽しいんですよね」。

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そんな中、22年7月にはNAGASEカップに出場。「WPA公認 NAGASEカップ パラ陸上競技大会」(NAGASEカップ)は、世界パラ陸上競技連盟(WPA=World Para Athletics)公認の競技会で、障害を持たないアスリートも同時に参加可能な「高みを目指すすべてのアスリート」に向け昨年、初開催された大会だ。車いすのアスリートの場合、同じレーン上を同時に走るわけではないが、健常、パラ問わずアスリートが一同に会し参加する大会はとても感慨深かったという。

「まったく一緒に同じトラックで『ヨーイドン』で走るのとは、また少し違うとは思います。それでも、同じ大会で同じトラックを使って競技に参加するのは、健常のアスリートとパラアスリートがそもそもお互いを知る機会になると思います」と大会を評価する。

その中でも村岡は特に印象に残ったエピソードも明かした。「私自身が競技場でウォーミングアップしている時、トラックではパラアスリートのレースが行われていました。その際、私の近くを健常者のアスリートが通りかかり、そのレースを眺めながら『はやっ!』と声を上げたんです。やはり記録とか、数値だけで競技を知るよりも、実際に目で見てわかるスピード感、目で見ないとわからない感覚があると思います。このつぶやきには、私もすごく嬉しい気持ちになりました。『そうでしょ? すごいかっこいいんだよ』と(笑)。お互いを知らないと、理解し合うのはどうしても難しいですよね。日頃、お互いを知る機会も少ないと思うので、こうした大会を作ってもらったのはとても嬉しいです。この大会を通じ、パラアスリートをもっといろんな方に知ってもらえたらいい。お互いに知る機会……それこそ共生社会の実現に向けた一つのきっかけと考えています」。

■パラスポーツはリハビリのためではない

「アスリートとして挑んでいる」矜持を語る村岡桃佳

一般のスポーツ・ファンは、パラスポーツをどのような目で観戦しているのだろうか。村岡はその点についてもこう指摘する。「パラスポーツは『障害者がリハビリのために頑張ってるんでしょ?』といった視点で捉えられることもあると思います。パラスポーツの魅力を伝えるには解説が必要といった難しさも。パラスポーツの魅力は、やはり実際に目の当たりにして単純に『すごい!』『かっこいい!』と思ってもらえたほうがより影響は大きい。私たちはアスリートとしてやっていますから、競技としての魅力、難しさ、かっこよさを、実際に観て感じてもらえたら嬉しい。その機会がある大会として、非常に意義深いと思います」。

さらに金メダリストである村岡は、アスリートの矜持も覗かせた。「パラスポーツだからという理由で『しょせんこのぐらいのレベルなのね』とは思われたくありません。私たちは本当に身を削って取り組んでいますし、トップとしてオリンピックに出場したアスリートと変わらないぐらいの挑戦をしています。そのレベルを比較することは難しいですが、少なくとも競技に取り組むマインドは同じか、もしくはそれ以上のつもりです。頂点を目指しているので、パラスポーツを『しょせんこのぐらいのレベル』と思われたくありません」。

パラアスリート、パラスポーツの位置づけについてもNAGASEカップには意義を感じるとも語った。「こうした大きい大会があれば、やはりトップの世界に挑戦しているんだ、厳しい世界なんだと理解されると思います。大会自体も単純な記録会ではなく、こうした規模の大会があると盛り上がりますし、選手としても高揚感を覚えます。純粋に楽しいです」。

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村岡自身、NAGASE カップのようにパラスポーツも共催されるような大会がもっと増えるのが望ましいと捉えている。

ダイバーシティや共生社会……それらを現実のものとするためには、制度のみならず、私たちの心の持ちようにも変革が必要とされるのだろう。「しょせんパラスポーツ」という発想が残る限り、その実現は難しい。NAGASEカップがその心理的変革への第一歩なのかもしれない。

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提供●NAGASE CUP