プレミアリーグで優勝し、FAカップも制覇したマンチェスター・シティは、UEFAチャンピオンズリーグでもファイナルでインテルを下し、悲願の初制覇を達成した。
そのチームの中で昨季までと大きく異なるのがドイツ・ブンデスリーガのドルトムントから獲得したノルウェー代表FWアーリング・ハーランドの存在だ。プレミアリーグではシーズン得点数新記録となる36得点を決め、チャンピオンズリーグでも12得点をあげて得点王を獲得するなど、彼のシュートやフィニッシュ関連データを取り上げればきりがないほど、高いスタッツを記録した。今回は、その中でもハーランドの特に凄いデータに関して取り上げたい。
◆【実際の映像】“世界最強ストライカー”ハーランド、プレミアリーグ最多を更新したゴール集
■アーリング・ハーランドの今季データ
まずはその類まれな得点能力だ。
初挑戦となった今季のプレミアリーグでは、36得点を記録し、シーズン得点記録を打ち出した。2位ハリー・ケイン(トッテナム)も30得点と追随したが、3位イヴァン・トニー(ブレントフォード)は20得点であり、ハーランドはそれ以下にダブルスコアクラスの得点差をつけたこととなる。PKでも7得点をあげているがPKを除いた得点数でもトップであり、プレミアリーグだけでなく5大リーグの中で比較してもトップのものとなる。
90分あたりの得点は1.17、シュート数は3.77、枠内シュート数は1.72、得点は1位、シュート数と枠内シュート数は3位の数字となっている。各シュート数値いずれもTOP3に輝いているのもハーランドただ一人だ。
■ハーランドの経歴
マンチェスター・シティらでプレー経験を持つ父の元に生まれ、プロデビューは地元ノルウェーの強豪モルデ。16歳でプロデビューし、17歳で2桁ゴールを記録すると、オーストリア・ブンデスリーガのレッドブル・ザルツブルクへ移籍を果たす。
シーズン中であったことと、移籍直後に行われた2019U20W杯参加のため、リーグ戦での出場機会は少なかった。しかし、そのU20W杯グループリーグ第3節、U20ノルウェー代表の選手としてU20ホンジュラス代表との試合に出場したハーランドは1試合で9得点をあげ、大会レコードを生み出す。チームは12-0で圧倒的な大差の勝利に貢献し、結局この9得点で大会得点王に輝いた。
この活躍をきっかけに新シーズンが始まると、ハーフシーズンで16得点をあげてドルトムントへ移籍。ドルトムントでは2年半の在籍で62得点。優勝こそバイエルンから奪うことはできなかったが、プレイヤーとしての評価を上げていった。プロ2年目から4年間2桁得点をあげ、ドルトムント期はリーグ戦1シーズン稼働であれば20得点以上を叩き出せると証明した。
■ハーランドがシティに求められた理由
ペップの作るチームは、ボールを保持しながら相手陣内に押し込んで崩す形を基本とする。しかしその反面、ゴール前のエリアが狭くなってしまい、仕事ができるストライカーが不足。そのため、偽9番やゼロトップと呼ばれるサッカーが採択される傾向が続いた。昨季後半段階で、チームやペップ自身からもストライカー獲得に関するコメントが生まれるなど、チーム構成の抜本的改革が示唆されていた。
ハーランドは大柄だが、高さだけでなくスピードも併せ持つ。DFが密集した狭いペナルティエリアでも仕事が可能な選手だ。
故に彼を獲得して以降ペップは、中盤のパスサッカーが得意な選手のいずれかにフィニッシュワークを求めたり、パスサッカーから全員で崩す以前のスタイルは行わなくなった。中盤の選手たちにはそれぞれのテリトリーを定めて最前線へ的確なチャンスメークを行う仕事に注力させられるようになった。ハーランドの獲得が、シティの戦術を一段レベルアップさせたといっていいだろう。
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文●佐藤祐一(さとう・ゆういち)