ケンブリッジ飛鳥、プロ転向して変わったこと。31秒の沈黙の後、口を開いた

 

ケンブリッジ飛鳥、プロ転向して変わったこと。31秒の沈黙の後、口を開いた

ケンブリッジ飛鳥選手が、来場客から僅か1メートル先ほどしか離れていないランニングマシーンを全速力で走るその姿に、歓声が上がった。

ナイキジャパンは、「ナイキ エピック リアクト フライニット」の発売記念も兼ね、ランニングと⾳楽体験を融合させたライブイベント「ナイキ TOKYO GOフェス」を4⽉21⽇と22⽇の2⽇間、六本木で開催した。

21日には、「ナイキ エピック リアクト フライニット」を愛用するゲストとして2016年リオ五輪4×100mリレー銀メダリスト、ケンブリッジ飛鳥選手が登場。

ケンブリッジ選手は発売前から同シューズを練習で愛用している。「走っているときのフィット感、安定感があって好き。いままで(のシューズ)は短距離だと前に進みづらいこともありましたが、今回気に入っているのはクッション性があるだけじゃなく、反発がもらえるところです」と着用感もバッチリだという。

イベントでは一般来場者4人分の走行距離を、ケンブリッジ選手が1人で走るという催しがあった。

「ナイキ エピック リアクト フライニット」を着用し、かなりのスピードでランニングマシーン上を走り抜いた。

同日、編集部はケンブリッジ選手にそのままインタビューを行った。(聞き手・撮影は編集部、大日方航)

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31秒間の長い沈黙…「プロ転向して変わったこと」

「サンバが踊れるって聞いたことがあるんですけれど、どうなんでしょう?」

音楽が関係するイベントということもあり、開口一番こう切り出した私の質問に、ケンブリッジ選手は笑顔を見せた。

「踊れないですよ。リズム感ないですし(笑)」

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カラオケにも滅多に行かないというケンブリッジ選手。ただ、音楽は邦楽より洋楽が好みだ。

幅広く聴くが、ジャンルではR&B(リズム・アンド・ブルース)が特に好きで、『Ne-Yo(ニーヨ)』からハマっていったのだという。

しかし、「リズム感がない」という発言。陸上競技にはリズム感が求められる気がしていたので、意外だった。

「なんだろう。そういう、運動のリズムと、踊ったりするのはまた別だと思うんですよね。陸上で、リズムが求められるトレーニングはクリアできます」

2016年12月、「プロ アスリート」という道を選んだ。当然、2017年は今までとは一味違った年になっていたはずだ。

環境や心境の変化を改めて問うと、途中には31秒間もの長い沈黙があった。言語化がまだ完了していなかったのかもしれない。

「環境という面では、いままで以上に陸上に集中できるようになりました。陸上以外の自由時間も増えました。(沈黙)長期間、海外で練習ができたのもそうですが、自分のやりたいこと、思ったことに挑戦する時間が増えましたね

ケンブリッジ選手は、4月2日に米国アリゾナ州での合宿から帰国したばかり。

昨年11月からリオ五輪男子100メートルで銅メダルを獲得したデグラッセ選手(カナダ)など、有力な選手が集うチーム「ALTIS」の練習に参加していた。

「陸上以外の自由時間が増えた」という発言から、沈黙のあと「米国での合宿」という「陸上」の話に飛んだことに気づく。

これは、おそらく自由時間が増えたからこそ、改めて自分が「やりたいこと」に気づけたということなのかもしれない。

一度仕事から離れてぼーっとしていると、仕事へのアイディアが突如浮かんでくるというのはよくある話だ。

憶測になるが、ケンブリッジ選手もプロになり、あえて陸上以外のことを考える時間を増やすことで、陸上に関するアイディアを掘り起こすという方法を無意識にとったのかもしれない。

もちろん、本人がプロになることで意識的に気持ちの面での変化も狙っていただろう。

「プロになることで、いままで以上に『結果を出さなきゃという思いが強くなった。去年は自分の理想とする結果にはならなかったので、もっと頑張らなければと思っています」

米国での合宿から掴んだもの…東京五輪に懸ける想い

陸上競技の魅力。使い古されたこの質問だが、陸上を始めた頃と、いま。陸上という競技に対する心境の変化はあるのだろうか。

「始めた頃からそんなに大きくは変わらなくて。自分が頑張った分だけ、結果がタイムに現れる。これまで勝てなかった選手に勝てるようになる。そこが魅力かな。努力が結果につながるところが好きですね」

2020年に控える東京五輪に挑むとき、ケンブリッジ選手は27歳。「一番いい時期。いままでやってきた人生のすべてを出せたらいい」と意気込む。

しかし、五輪の前に2019年の世界陸上がある。「世界陸上で結果を残せないと、(オリンピックで)結果を残すのは難しい」と語るように、本人がまず見据えるのは世界陸上だ。

「この2年、しっかりやってきたことを出せればいけるんじゃないかな。9秒台も出したい。海外の選手と練習することで自信もついた」と手応えも十分。米国での合宿から、様々なものをつかんできたようだ。

特に「体が起き上がるまで」の動きについては改善すべきところがあったという。

「コーチにも、起きてからの走りはあまり問題がないと言われましたが、それまでの走りには改善できる部分がたくさんある、とアドバイスをもらいました。例えばスタートの位置だったり。色々教えてもらいました」

コーチからの指摘だけではなく、海外の選手の動きからも学んだことがあった。

「やはり、速い選手は(スプリント)ドリル(※)が綺麗。基本が大事なんだと改めて思いました。ここを高めていけば、もっと伸びる部分もあると思います」
(※)スプリントドリル…スピードを高める準備を行うための動作・準備運動。

レース前は「緊張するというよりも、早く走りたくてしょうがない」というケンブリッジ選手。

海外で学んだことを発揮するその大舞台を、今か今かと待っている。

ケンブリッジ飛鳥(ケンブリッジあすか)

  • 1993年5月31日、ジャマイカ出身。ジャマイカ人の父と日本人の母のもとに生まれる。
  • 中学1年で陸上を始める。
  • 2011年、高校3年で日本ジュニア選手権200mを制す。
  • 日本大学に進学し、2012年の世界ジュニア選手権4×100mリレーで銅メダルを獲得。
  • 2015年織田記念100mで優勝。
  • 2016年は5月の東日本実業団対抗100m予選で10秒10を記録して、リオデジャネイロ五輪参加標準記録(10秒16)を突破。6月の日本選手権で優勝を果たす。
  • リオデジャネイロ五輪では100mと4×100mリレーに出場。100mの決勝進出は果たせなかったが、4×100mリレー日本代表(山縣亮太、飯塚翔太、桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥)でアンカーを務め、アジア記録の更新と銀メダル獲得に貢献した。
  • 2016年12月14日にプロ宣言、昨年11月からはリオ五輪男子100メートルで銅メダルを獲得したデグラッセ選手(カナダ)など、有力な選手が集うチーム「ALTIS」の練習に参加した。今年4月に帰国。

ケンブリッジ飛鳥が刺激を受ける存在…「負けたくない」のは誰か