今を輝くテニス新女王アシュリー・バーティの朝活

オーストラリアのイプスウィッチ出身、アボリジニの血をひく23歳のアシュリー・バーティは、WTA世界ランキング1位として女子テニス界をリードする存在である。

2010年に14歳でプロデビュー、翌年のウィンブルドン・ジュニアを15歳で制してからは、今後を期待された天才少女であった。

テニス選手として決して大柄ではないが、パワーを活かし、13年には同国のケーシー・デラクアと組んだダブルスで全豪、全英、全米で準優勝者となる。

だが、シングルスでは思うよう結果を残せなかったことから、本人の中で小さなわだかまりが生じた。

当時17歳だった彼女は、ダブルスでは勝者としての喜びと充実を感じながらも、シングルスでは敗者としての困惑を抱いたのであろう。

その後「移動ばかりのツアー生活」「戦いばかりの毎日」に心身の疲労を訴え、14年の全米後に18歳でプロ生活を引退。クリケット選手としての活動を選んだ。

しかし16年にテニス界へ復帰、自国でのITFサーキットのダブルスを中心に周り、ツアー生活を取り戻し始めようとしていた。

そんな頃、同じ大会に出場していた私は、彼女のあることに関心を持った

著者プロフィール

久見香奈恵

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。

園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。

2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。

異例の早朝練習

関心を持ったのは、とにかく「朝が早い」こと。

その日、彼女をコートで見かけたのは朝の8時前だった。その瞬間から練習をし始めた様子ではなく、すでに体に熱気をまとうほど、でき上がった状態でプレーに取り組んでいた。

私は彼女が10時の試合開始に向けて準備しているのだと思案した。ところが試合予定表を確認すると、彼女の試合は午後から……、少しばかり驚くことになる。

テニス選手は、試合でベスト・パフォーマンスを発揮するために1日のスケジュールを逆算し行動する。会場での緊張時間を減らすために、練習日以外は無駄に早く来る選手は少ない。

ほとんどの選手は試合の2、3時間前を目処に会場入りし、メニューをこなす。しかし彼女は、試合予定時刻の6時間前である午前8時には練習を終えていた。

私は少し不思議に感じ、できる限り彼女を注視することにした。

(c)Getty Images

彼女は翌日も同じように早朝練習に取り組み、汗を流し続けていた。

その日も試合は昼過ぎに予定をされていた。練習後には、少しばかりの休憩のように、フルーツを手に取りながら、自国選手の試合を応援していた。声を出しながら応援する姿は、スポーツ観戦を楽しんでいるように見えた。

しかも時間があれば、芝生エリアでサッカーをしたり、寝転がって本も読む……勝つことだけに集中するのではなく、日常の生活にテニスの存在を編み込んでいるかのようだった。

もちろん、試合前には再度ウォームアップをしてからコートに入る。試合となればライバルたちとの戦いにのめり込み、勝利を渇望する。その思いは、対戦した私にも十分と伝わってきていた

バリエーション豊富なサーブを使い分け、計算されたようにショットをコートに沈める。多彩な戦術を操る彼女のプレーの前に、私自身すっかりゲームにひきずりこまれた。「テニスはこれほど楽しいのか!」と洗礼さえ受けた。

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