3日から芝生の聖地、ウインブルドンが幕を開ける。
◆【プレーバック】スーパースター復活 日本のエース錦織圭、優勝ハイライト
目次
■1973年以来50年振りの快挙
先月26日から始まった予選には日本から11名が参戦した。男子からは2名の選手が予選を突破。1人は早稲田大学卒業後にプロ転向した25歳の島袋将だ。グランドスラム初挑戦で見事に予選3戦を勝ち抜いた。現在162位に位置する島袋は、今季チャレンジャー大会2勝を挙げ急成長を遂げているひとり。大学卒プロのロールモデルとして大きな注目を浴びている。
そして2019年のウインブルドンJr.チャンピオンの望月慎太郎が、20歳の“大人”として初の本戦切符を獲得。今春にチャレンジャー大会を初制覇し、予選第18シードで129位のヒューゴ・グルニエ(フランス)や第16シードで112位のジョンボル・ピロシュ(ハンガリー)というメンツを退けての本戦入りを果たした。望月にとっては4年前の栄光が香る思い出の地、そして島袋にとってはプロ転向3年目で掴んだ1つの夢の場所、オールイングランド・ローンテニスクラブへと足を踏み入れる。
予選第4シードのダニエル太郎、第8シードの綿貫陽介、2年ぶりに今大会出場となった日比野菜緒は予選決勝で敗退したが、本戦欠場者が出たためラッキールーザーで本戦へ繰り上がった。それぞれが引き寄せたチャンスを活かし、さらなる活躍を期待したい。内田海智、野口莉央、内島萌夏は2回戦で、内山靖崇、坂詰姫野、本玉真唯は1回戦で敗れた。
■本戦シングルスには5名の男子選手と女子1名が登場
これで西岡良仁を含め、6名の選手の本戦出場が決定。男子5名の本戦入りは2021年の全豪ぶり7回目。ウインブルドン本戦に関しては、実に1973年以来50年振りの快挙となった。コロナ禍や錦織圭不在の時代の流れのなかでも、西岡のキャリアハイ24位の記録を含め、新しい世代が着実な成長を見せている。オープン化以降の男子シングルスの最高成績は1995年の松岡修造と2018年、2019年に錦織が辿り着いたベスト8だ。今回この記録が更新されるのか。5名の男子選手の快進撃に期待したい。
27位の西岡良仁は第25シードとして登場。1回戦の相手は、ダニエル・ガラン(コロンビア)。西岡は全仏での怪我を回復させるため、今期のグラスコートでの大会をスキップしてきた。ロンドン到着後、会場で29位のデニス・シャポバロフ(カナダ)との練習後の写真をTwitterで公開し、「全仏で痛めた左足付け根は今はほぼ気にならず動けているので試合するのが楽しみです!」と報告している。あらゆる面で技術力が高い西岡が、ボールのバウンドが弾まないグラスコートで、どのような戦略を立てゲームを制するのか注視したい。
島袋の相手は第21シードのグリゴ・ディミトロフ(ブルガリア)、望月の相手は第16シードのトミー・ポール(アメリカ)とトップ選手との力試しとなる。ダニエル太郎は、第32シードで男子テニス界の新星と呼ばれるベン・シェルトン(アメリカ)と対決。昨年NCAAチャンプから世界に飛び出したシェルトンとの一騎打ちに、ダニエルの豊富な経験と予選での3試合がどう活きてくるか。綿貫陽介は83位のマーク・アンドレア・ヒュースラー(スイス)、日比野菜緒は74位のアリゼ・コルネ(フランスと)と対戦。日比野は勝てば2回戦で前年度女王のエレナ・リバキナ(カザフスタン)と対戦する可能性がある。ここ最近はグランドスラム予選決勝で苦杯をなめ続けてきたからこそ、本戦舞台での返り咲きに注目だ。
■ダブルスでウインブルドン・チャンピオン誕生なるか
ダブルスには、青山修子/柴原瑛菜が登場。“アオシバ”ペアは先月のリベラ・オープンで優勝、ツアー通算9勝目を引っ提げて頂点へと向かう。そして全仏ミックス覇者の加藤未唯は、失格騒動を共にしたアルディラ・スーチャディ(インドネシア)と強いタッグを組み続けグランドスラム優勝へ再始動。二宮真琴はブスカ・クリスティーナ(スペイン)、穂積絵莉はモサロバ・レべカ(スペイン)、マクラクラン勉はゴランソン・アンドレ(スウェーデン)と共に芝生の聖地で勝利を目指す。
ジュニア部門には9名が出場予定だ。世界4位の斎藤咲良、米国フロリダ州のクリス・エバートテニスアカデミーで腕を磨くクロスリー真優、既にプロ転向を発表している石井さやか、12位の小池愛菜、15歳の園部八奏や16歳の木下晴結が本戦から登場する。予選には辻岡史帆がエントリー。男子は坂本怜と松岡隼が4年前の望月に続くジュニアチャンピオンを目指す。
■車いすテニス小田凱人はV2となるか
12日から始まる車いすテニスの出場枠は8名。全仏を初制覇し世界1位となった小田凱人が大きなスポットライトを浴びながら、どう芝生を攻略するかに注目が集まる。ライバルのアルフィー・ヒューエット(イギリス)は地元のスターであり、複では4勝を誇る。互いの持ち味となる超攻撃的なテニスから、あまりラリーが続くことはないだろう。特に芝生での車いすを動かす力は倍以上必要だとも言われ、初球のサービス・リターンが勝負の要。またラリー戦になった時の展開術にも注視したい。そして三木拓也と女子の上地結衣、大谷桃子がどこまで頂上決戦に食い込めるか。車いすテニス大国の日本が全種目でトロフィーを掲げる日は近いはずだ。アルタネイト1番には田中愛美と眞田卓、そしてクアードの菅野浩二がスタンバイ。欠場者がでれば繰り上がり出場が叶うことになる。
■男子では20年ぶりにBIG4以外の選手が第1シードに
今大会、男子シングルスではカルロス・アルカラス(スペイン)が20年ぶりにビッグ4以外の第1シードとして選ばれた。
前哨戦となるシンチ・チャンピオンシップ(ATP500)で優勝し、ノバク・ジョコビッチから王座を奪還。これまでの最高成績は4回戦で、20歳のアルカラスにとっては3度目のウインブルドン。昨年の全米に続きグランドスラム2勝目となるか。
女子の第1シードはイガ・シフィオンテク。前哨戦となるバート・ボムブルク・オープン準決勝を体調不良で棄権したが、グラスコートでは自身初のベスト4入りを果たした。その手応えから「芝で自信を持ってプレーできている。」とコメント。全仏のクレーコートからグラスコートへ最も調整が難しい時期に、新しい進化を見せている。
今年のウインブルドンでもっとも輝くのは誰か。3日の開幕が待ちきれない。
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著者プロフィール
久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員
1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。