土居美咲、コロナ影響のツアー休止を「プラスに」 新たに取り組む「クロストレーニング」への期待

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日本女子テニスを代表するレフティー、土居美咲は、四大大会の常連選手であり、2016年ウィンブルドンではベスト16の戦績を挙げた。

現在はWTAランキング76位に位置しているが、これまでにも世界トップ選手を撃破し、過去最高ランキングは30位。まだまだ、ここから女王の座を狙い奮闘している。

カリフォリニアで行われる予定だった「BNP パリバ・オープン」の2日前、彼女は同じ会場で開催された「オラクル・チャレンジャー・シリーズ」で準優勝を果たし、パリバでの勝利へと大きな弾みを得ていた。

残念ながら同大会は、新型コロナウィルスでのツアー休止の先駆けとなってしまった。それまで今季は1回戦負けが続き「やっと勝利の風が吹いてきた」と手応えを掴んだところだった。そのため大会中止の連絡には意気消沈したという。

仕方ないですが、正直すごくがっかりでした。よし、ここからだ!と気合十分でしたから

帰国してからも今後のツアー状況が気に掛かったが、深く考えすぎないようにした。そして6月7日までのツアー休止の発表を聞いてからは、すぐさまに今できることを探し始める。

現状にストレスや不安がなかったわけではないだろう。しかし、こういう時こそアスリートとして研ぎ澄まされた「切り替えの早さ」が功を奏しているように感じる。

「とりあえず身体をキープするためにトレーニングは続けています。でもこの機会なので、今しか出来ないことをしようかと考えています。先日はスカッシュをやってみました! パデルもやってみようかな。ボクシングやボルダリングにも惹かれています。今、一番興味があるのは他種目から刺激をもらうクロストレーニングです」

≪文:久見香奈恵≫
元プロテニスプレイヤー。2017年引退後、テニス普及活動、大会運営、強化合宿、解説、執筆などの活動を行う。

「クロストレーニング」とは 土居美咲が始めた試み

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クロストレーニングとは、専門競技以外の競技を取り入れるトレーニング方法。目的は、専門とする競技では普段使わない筋肉への刺激を与えることで、身体全体の筋力バランスを整えることだ。もちろん筋力強化にもなり、さらには眠っていた能力を引き出すにも効果があると言われている。

私の場合は実際、ボクシングをトレーニングに加えていた時期がある。とにかく最初はフットワークのリズムとパンチを合わせることが難しく、無駄に疲れてしまっていた。

しかし回数を重ねることで、軽くステップを踏みながらパンチを繰り出せるようになり、肩の筋力強化身体の敏捷性を高められた実感がある。

ある時はダーツに取り組み、肩の高さまで肘を上げ、手首のスナップを使うことでサービス動作の強化に繋げた。また洞察力を鍛えるには、トレイルランニングを活用し、不安定な足場の山中を走り続けた。専門コーチからは「走りながら先の着地点を瞬時に選び、バランスを維持するのだよ」と言われ、漫画の修行のように感じたこともある。

この新しい取り組みは、いつもの環境と変わることでリフレッシュにも繋がっていた。それどころかテニスをする時間が減ったにもかかわらず、不思議とコートの中では今まで以上に動けていた。後には、どうすれば常にベストコンディションを用意できるか、以前より深く理解し始めていたようにも感じる

土居は、まだ種目を完全に選びきってはいないと言う。しかし、クロストレーニングを今だからこそ選ぶ理由として、彼女はこのように述べている。

「今まではオフ期間に『他競技をしてみよう』という発想はありませんでした。それよりも来季の為にテニスのトレーニングを重視していました。実際にオフ期間も短く、酷使した身体を休めることにも時間を要しました。どうしても完全回復というよりは、すぐさま来るシーズンに向けて鍛え直すという感じで、痛めた部分とは騙し騙しの状態でうまく付き合っていましたね……でも今回は時間ができましたから

テニスは他競技に比べてオフシーズンが少ない。例として日本プロ野球と比べてみる。2月終盤から始まるオープン戦を経て、3月末には公式戦が開幕する。その後11月初旬の日本シリーズが閉幕すると来季の試合がスタートするまでに約4ヶ月半の期間が生まれる。

テニスの場合は、1月初旬からシーズンスタートし、最後は11月半ばのツアーファイナルとなる。これによりオフシーズンは約1か月半だ。

選手によって完全休養の日数は違うが、せいぜい1週間から2週間の休養後、来季への準備を1か月で仕上げる

時間があるからこそできることを 現状を前向きに乗り越える

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この様な過密スケジュールを長年続けてきた彼女にとって、クロストレーニングを大々的に試す機会が今だ。

2か月以上の時間があることが最大の味方になる。今までの短期間のオフシーズンでは試せなかったクロストレーニングの効果を吟味でき、尚かつ疲労と回復のバランスを見極めるのにも好都合だろう。上手くいけば、新たにツアー生活でも活用できるトレーニング方法も見つけ出せるかもしれない。

彼女は冷静に話しながらも、ワクワクしたように声にハリが出ていた。

今回の強制的なツアー休止をプラスに考え、一度身体をリセットします。そして、この長期期間を使って新たな自分を作り出せるかが楽しみですね

私も土居の話を聞いていると途中から興奮が抑えられなくなっていた。なぜなら、どんな時もアスリートにとって強くなるために考えを巡らすことは、もっとも楽しい作業に入るからだ。現状をどう過ごし乗り越えるか、その前向きな姿勢にも好感が持てる。

今回のツアー休止期間は、彼女にとって絶好のチャンスだと私は見ている。「今だからこそできること」という言葉には好奇心と計画が溢れていた。

私自身も経験したクロストレーニングの効果だが、土居にとってはどのように有効に働くだろうか。ツアーが再開するまでの期間も、彼女を注視していたい。

≪久見香奈恵 コラム≫

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著者プロフィール

久見香奈恵

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。

園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。

2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。

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