森喜朗会長辞任でも変わらない政界・スポーツ界にはびこる「旧体制」というグローバル問題

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(2021年1月28日) (C)Getty Images

東京五輪開催に8割が反対」という共同通信社による世論調査が示す中、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会森喜朗会長の発言はあまりにも愚かだ。

首相時代から軽率発言については定評(?)があり常に問題視されてきたが、コロナ禍のこの期に及び、いまだ女性蔑視発言。時代は昭和から平成、そして令和へと変遷してきたが、日本のトップのオツムの中身は昭和初期で凍結されてしまったのだろう。

■政界およびスポーツ界に蔓延る旧態然とした「体制」

「発言の一部がひとり歩き」というケースは多々あれど、一国の首相まで務め83歳と老成された大人物が、そんな世論のからくりを想定していないとは思われない。むしろ、これまでの経験則から「物議は醸し出すが争点にはならない」という打算が出来上がっていると見るべきだ。

この発言に端を発し、日本社会の抱える病巣は白日の下に晒されつつある。つまり問題は、こうした時代錯誤な思考が森会長個人にとどまらない点。結局、どのような失言を繰り返そうが、国際的スタンダードから逸脱していようが、誰かが諌めるわけでもなく、組織的に責任を取らせる者もいない、日本の政界およびスポーツ界にも蔓延る旧態然とした「体制」そのものが争点であると気付かされる。

日本固有の病巣……などと考え込んでいたところ、五輪憲章に抵触する発言を繰り返しているにもかかわらず、さらに国際オリンピック委員会(IOC)においても4日朝には、「お咎めなし」との報道がされた。
出典:ロイター

これでは、世界が共有する社会問題が、どれだけ膠着し、どれだけ悲惨で、どれだけ決定的であるかをIOCが吐露してしまったようなもの。つまり「アンシャンレジーム」(旧制度・旧体制)という言葉は決して、世界史に埋もれた過去の問題ではないと露呈したかたちだ。

■国内外からの様々な「反応」

同様の命題を苦々しく思っている方は少なくないのかもしれない。

ロイターアラン・ボールドウィン記者は、英女性アスリート支援団体「Women’s Sports Trust」のトップ、タミー・パーラーのコメントを掲載。彼女はゼップ・ブラッター元FIFA会長バーニー・エクレストン元FOA CEO(文中では「F1界の支配者」と記述)のセクハラ発言を引き合いに出し、無意識の性差別は日本に限った課題ではないと指摘。さらに、こうした人物が「旧体制」の護送船団に固く擁護されている構図にも切り込んでいる。パーラーはこの体制を「System」と称しており、システムこそが改編されるべきと主張。さらに結びでは本システムは「白人主義的過ぎる」と人種問題にまで踏み込んでいる。
出典:米Yahoo! Sports

まさに、この「システム=旧体制」が日本でも森会長を擁護している。会長は自身から辞意について明かしながらも、組織委員会の武藤敏郎事務総長などから強い引き止めを受け翻意したと明言。
出典:毎日新聞(デジタル版)

日本における旧体制の“親玉”、自民党・二階俊博幹事長は記者会見にて「撤回したので」と問題なしと自身の見解を明らかにした。
出典:産経新聞(デジタル版)

経団連中西宏明会長も、発言に対する是非は避けつつ、「日本社会の本音」とその本質については認めてしまった。
出典:時事通信

またメディアにおいても、「森会長続投『余人をもって代え難い』と言われる理由」と日刊スポーツがその実情について掲載。「国民には見えづらい努力を知っているからこそ、森氏を知る各界は「続投」に命運を託した」と結んでいる。

■IOCは再度声明を発表 森会長の進退に影響も

私自身、森会長をトップとする、スポーツをサポートする国会議員の会合に居合わせた経験もある。こうしたメディアに開示されない場においては、森節はさらに全開となり、その発言に異を唱える者も、眉をひそめる者もいない。心の内は読み取りようがないが、やんやの大喝采で森演説が終わるのは常だ。某大手広告代理店でも「森さんが言うからには仕方がない」という発言は決め台詞だ。

こうした一連の動きに対し、オリンピアン・為末大氏は自身のHPで「この問題は社会の構造であり……」と声をあげ、辞任を求める必要性をも訴えている。無言はこうした旧体制の支持に他ならない……と。
出典:為末大 公式HP

インサイドゲームズ」のナンシー・ギレン記者は、本件が容認されれば「IOCが掲げるジェンダーイコーリティのポリシーを真摯に受け止める者は皆無となるだろう」と声をあげた。
出典:Inside the Games

こうして世界的な世論も眺めると、“無罪放免”とされている森会長の処遇については、まだもうひと騒動あってもおかしくはない。

そうこう書き記しているうちにも、各国からの批判に耐えかねたのかIOCは9日、前述4日の声明を覆し、森会長の発言が五輪憲章に反し不適切であると発表し直した。会長の外堀は埋められたように見えるが、これが進退にどう影響するか見ものでしかない。
出典:ロイター

ただし、森会長が辞任に至ったとしても、ここで争点となっている「旧体制」による支配に変革がもたらされる余地はない。森会長の後釜には、安倍晋三前首相が収まると一時は、毎日新聞デジタル版に速報が流れたほど。結局は、首がすげ替えられたとしても、「旧体制」に改編はなく、時代は巡る。森会長失言事件の争点はまさにそこであり、それは日本国内にとどまらぬグローバル問題でもあると知らしめてしまった。

21世紀となり、インターネット・プロトコルの流布により「アラブの春」という民主化がもたらされた。しかし、先進諸国の旧体制支配は、SNSの隆盛を持ってしても、その仮面を変えるだけで、変革の気配はない。

現在、世界で猛威を振るう新型コロナウイルスは、変革の気配すらないこうした旧体制を覆すための処方箋として、自然界からの送り込まれた刺客なのかもしれない……そう結ぶと、さすがに陰謀小説の読み過ぎと笑われるだろう。

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著者プロフィール

松永裕司●Neo Sports General Manager

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ マイクロソフトと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Director of Sportsなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークとアトランタで過ごし2001年に帰国。


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