■母国開催の「村田コール」に後押しされ、最後の反撃
第9ラウンド、ゴロフキンがコンビネーション・ブローを集め、プレッシャーを強める。ロープ際で耐える村田の背中を「村田コール」が後押しする。声援を受けた村田が力を振り絞って反撃に転ずると、会場が大きくどよめいた。
しかし、超一流のKOアーティスト、ゴロフキンの勝負勘は鋭い。右フックをクリーンヒットすると一気にたたみかける。この攻撃に、ついに村田はリングに崩落。同時にコーナーからタオルが投げ込まれ、レフリーが試合終了を宣言した。9ラウンド2分11秒だった。
敗れたとはいえ、村田の戦いは見事だった。プランどおりに前に出て、ボディ攻撃でダメージを与えた。プロ、アマ合計393戦を通じて一度のダウンもないゴロフキンを追い込んだのは立派の一言だ。
試合後、ゴロフキンは「彼は五輪チャンピオンだけじゃない。スーパー王者だ」と敗者を称賛、最も尊敬する人に送る「チャバン」と呼ばれるカザフスタンのガウンを村田の肩にかけた。9月にはカネロ・アルバレス(メキシコ)とのラバーマッチが噂されている。
一方の村田は、「(ゴロフキンの)総合力でやられた。技術的なところで彼のほうが上だった」と、爽やかに振り返った。試合を終えて、ゴロフキンの戦績は42勝(37KO)1敗1分、村田は16勝(13KO)3敗となった。帝拳の本田彰彦会長は、村田の現役引退を示唆している。
それにしても下馬評通り、見応えのある戦いが繰り広げられ、日本ボクシング史上に残る試合であった点に異論はないだろう。日本のさいたまで行われた戦いに、アメリカやスペインなど海外メディアが寸評、賞賛を惜しまなかったのだから、「世紀の一戦」は誇張ではない。また、もし村田が、これを最後にグローブを置くのだとしても、彼の功績は後世にまで残るに違いない。
◆長谷川穂積氏 ピンチを乗り越えた差があったゴロフキン 村田諒太の情熱と覚悟が力を生んだ
◆村田諒太が無念TKO負け 激闘の末に「最強」ゴロフキンに敗れ、2団体王座統一に失敗
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著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。