コロナ禍で増す開会式と入場行進の意義と思い出 東京六大学と甲子園に見る

甲子園を行進する愛媛の名門・松山東高校(旧制・松山中学) 夏目漱石『坊っちゃん』のモデル校としても有名 撮影:篠原一郎

東京六大学秋のリーグ戦が開幕した。

コロナ禍に見舞われるまでは、開会式には6チームのベンチ入りメンバーが胸を張って入場行進をしていたし、それを見守る各応援団の旗手も力感あふれる姿勢で六旗を握り、学生服姿でグラウンドに並んでいた。

2020年の春季リーグ戦は全日本選手権も含めて他のすべての大学野球リーグ戦が中止となったなかで、東京六大学だけが1回戦制ながら8月に開催した。時世は春夏の甲子園も中止となった状況で、開会式も開幕カードの2チームのみで行われた。

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■甲子園の開会式は「泣ける」

先日行われた秋の開会式では、開幕カードの2チームだけが一塁線と三塁線上にそれぞれ並んだ。ここまでは過去4シーズンと同じだが、他の4大学も主将のみではあるが参加となり、一歩前進したのである。

東京六大学2022年秋開幕戦  撮影:篠原一郎

開会式の入場行進は、どの大学にとっても100人以上いる部員の中から25人のベンチ入りメンバーに選ばれた証しであり、とても誇らしい晴れ姿である。過去2年の間には、苦労して4年生になって初めてベンチ入りを果たしたのに開閉会式には一度も出ることなく卒業した選手が少なからずいると思われる。

夏の甲子園も全出場校の入場行進が3年ぶりに復活するかと思われたが、前日の変更で主将のみの行進となった。

学生野球に限らず、どの大会主催者も感染対策に万全の注意を払いながら、なんとか以前の姿に戻ろうと苦心している。いろいろなことがコロナ前への回帰途上ということで、これは仕方のないことである。11月の閉会式のときには、6チームのベンチ入りメンバー全員が神宮球場に並んで行進するように状況が改善することを祈っている。

ただし開会式に対する学生の思いは私にはわからない。在学中の私自身は何度か開会式と閉会式では行進したのだけれども、実はそういう感慨は全くなかった。以前夏の高校野球の地区大会で、初日に出場する学校のエースを体力温存のために監督が開会式に出させなかったことがあり、小さな問題になったと記憶している。

開会式とはその程度としか見られていないという解釈もできる。しかし、そのエースの保護者は、どう思ったか。試合で投げればよいと思ったかもしれないが、エースナンバーをつけて誇らしく入場行進をする息子の姿を写真に収めたいという思いも残ったのではないだろうか。

開会式への思いが変わったのは7年前、母校(愛媛県立松山東高校・旧制松山中学)が82年ぶりにセンバツ出場を果たしたときである。自分の在学時と同じユニホームを着て堂々と行進する後輩の姿は17歳の自分とも重なり、なんとも言葉にできない感情があふれたものだった。ネット裏には後輩の保護者とすぐわかる、そろいのウインドブレーカーの団体が陣取っており、一人一人に「本当によかったですね。毎日弁当を作って、汚れたユニホームを洗濯して、大変だったでしょう。でもこの瞬間に報われましたね」と私は心の中で声をかけながら、保護者とともに涙を流したのだった。試合は試合で緊張と感動に包まれたけれども、三度訪れたこのときの甲子園でいちばん心に残ったのは開会式と入場行進だったのである。

松山東高校の父母とみられる団体 撮影:篠原一郎

知人のスポーツ紙記者から「開会式は泣けるぞ」と聞いていたが、その通りだった。

今の大学生と高校生はすぐに始まる公式戦のことで頭がいっぱいで入場行進に特別な思いはないかもしれない。私は何度も神宮球場で開会式と閉会式の入場行進をさせてもらったのに、その写真が一枚も手元に残っていない。これが大変に残念なのである。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。


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