【プロ野球】首位打者争いと最終盤の出場試合問題 村上宗隆と大島洋平の決着はいかに…

スポーツ各紙を飾る村上宗隆、日本人最多タイ「55号」の見出し

一時は5打席連発でプロ野球記録を更新、その強烈な打棒を奮っていた東京ヤクルト・スワローズ村上宗隆のホームランが少し止まったままだ。多くの野球ファンが期待するホームランのシーズン記録を更新するか届かないか、また三冠王を取れるか、少し気を揉むところだ。

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■ホームラン記録も三冠王も「重い」

現在、2位大島洋平の打率が肉薄している。村上は.317、大島は.314とわずか3厘差(9月29日時点)。打率は他の打撃部門と違って下がることがある、ということが村上を悩ませるかもしれない。

このまま本塁打記録を更新し、18年ぶりの打撃三冠王を獲得できればそれは申し分がないことだが、大島も必死である。

問題は、59本塁打を放った時点で打率を1厘程度の差に迫られたときだろう。ここまできたらどうしても本塁打記録はほしい、しかし1打席でも凡打をすれば三冠王が取れなくなる、という場面を最終戦近くで迎えたときに、高津臣吾監督と村上本人はどちらを選ぶのだろう。

若い村上のことだからこの先いくらでもその機会はあると思われるかもしれないが、それは簡単ではない。プロの打者にとってホームラン記録も三冠王も、どちらもとても重いものである。

いつも慢心を感じさせない彼の姿勢や、足が地に着いたインタビューを聞いていると、もしかすると何度も三冠王も取れるかもしれないが、これほど充実したシーズンを送れることはそう何度もないと私は思う。

たとえば2015年にトリプルスリーを達成した福岡ソフトバンク・ホークスの柳田悠岐にしても、恐るべき打棒だと思われたが、その後は30本塁打も一度しか放っていないし、今年は30本塁打にも打率3割にも遠く及ばない。それほどバッティングはむずかしい。どの競技のどんな部門もトップに立つのに簡単なものはなにひとつないのだが……。

プロ野球の歴史では、1976年の中日ドラゴンズ谷沢健一や1991年のヤクルト古田敦也のように、最後の最後で逆転首位打者を獲得する例もあるが、争う選手がいるチーム同士の対戦があると勝負を避けることも多く、2位の選手が追い抜くことがむずかしくなる。トップに立っている選手は出場を見合わせるのが普通だ。見合わせていれば下がらないが上がることもないので、抜かれた場合は悔いを残すだろう。

1991年のセリーグは、中日の2位落合博満が最後の試合の固め打ちでトップ古田を逆転したが、1試合残っていた古田が最終試合の第1打席で安打を放ち、抜き返した。このとき、古田は「最終試合は休む予定だった」と語っていたので、もし先にヤクルトの最終試合が行われていたら古田には抜き返す機会はなく、首位打者は落合のものだった。

1956年のパリーグでは西鉄ライオンズの豊田泰光が1位.3251、同僚の2位中西太が.3246で最終戦を迎えたが、ときの三原脩監督は両選手を出場させず、豊田の首位打者が決定した。豊田にとっては生涯ただ一度の打撃タイトルである。中西のほうは打撃3部門のタイトルを合計10度、うち二冠王を4回も獲得した大打者だが、ついに三冠王を獲得することはできなかった。この年に最大の機会を逸したことになる。どちらの野球人生にとっても大変重要な1956年の最終試合だった。

三原監督は「二冠も取ったのだからもういいだろう」と同郷の後輩でこの年長女の夫となる中西を説得したとも伝えられるが、中西の心中はどうだったか。1965年に野村克也が戦後初の三冠王を取るまで、「三冠王」の言葉や概念や価値が世間に今ほどなかった時代かもしれない。

2020年に、同じく横浜DeNAベイスターズの佐野恵太梶谷隆幸が終盤まで首位争いを演じた。最終戦ではなかったが一瞬梶谷がトップに躍り出たことがある。

このあともしラミレス監督が1956年の三原監督と同じようなことをしたら梶谷が首位打者だった。まもなく佐野が再逆転、ふたりとも最後まで出場した。

現在ニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジも本塁打のリーグ記録と三冠王を狙える位置にいる。日米の首位打者争いに目が離せない。

※所属球団はすべて当時

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。


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