2024年のJRAも残る開催は1日。リーディングトレーナーは上位3名が1勝差以内と熾烈な争いのなか、最終日を迎える。最終日の猛チャージはあるだろうか。その最終節のメインは今年もホープフルステークス。翌春のクラシック戦線を占う上で欠かせない。
ここでは、ホープフルステークス(28日/GI、芝2000m)の展望と、その前に行われた2歳GI・阪神ジュベナイルフィリーズ、朝日杯フューチュリティステークスを総括し、来春に思いを馳せてみたい。
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目次
■阪神JF上位は桜花賞、オークスにつながる競馬
まず、牝馬路線は例年通り桜花賞へ向けたマイル路線が主軸になる。阪神JFが京都、桜花賞が阪神なので、ストレートにつながるとは限らないが、まずはここに出走した組が主力を形成する。牡馬に比べて選択が少ない分、阪神JFの分析は桜花賞を占う上で重要だ。
今年の阪神JFは、1勝馬が6頭、2勝馬11頭、うち無敗馬3頭、米国からメイデイレディも参戦と、考えうる最高のメンバーがそろった。間違いなく現時点の牝馬戦線ベストメンバーによる競馬は、序盤の600mが34秒2、前半800m通過46秒5と平均的な流れになった。3コーナー坂の上りでペースがわずかに落ちるも、後半800m46秒9。ラスト400mは11秒5-11秒4と加速ラップを描き、ゴール。勝ち時計は1分33秒4だった。
京都らしく中盤でやや緩んだものの、極端ではなく、それでいて下りからラストは連続11秒台。差して上位にきたアルマヴェローチェ、ビップデイジーは総合力で一歩リードする。2着に0秒2差をつけたアルマヴェローチェは札幌2歳S2着馬。洋芝の重馬場、コーナー4つの1800mをこなす持久力をうまくマイルGIへつなげた。最後の底力勝負で根性を発揮するのは同じ札幌2歳S経由の2013年勝ち馬レッドリヴェールに重なる。直行ではないが、2020年勝ち馬ソダシも札幌2歳Sを経験していた。牡馬相手に持久力勝負で引けをとらないのは、牝馬戦線では強みでしかない。平坦の末脚勝負を勝ち切ったことで、現時点で死角は見当たらない。
アルマヴェローチェはレイズアンドコール、ラクアミと続くスピード血統であり、近親には京王杯2歳Sを勝ったモンドキャンノがいる仕上がり早だが、ハービンジャーが加わり、距離適性に幅を持たせている。
2着ビップデイジーは無敗が止まった形だが、距離適性の可能性では負けていない。1800mで2勝目をあげたように、マイルにとどまらないのも強みだ。ベースラインはモルガナイトの一族なのでマイル重賞の活躍馬が多いが、そこに父サトノダイヤモンドが入り、中距離での可能性を感じさせる。サトノダイヤモンド産駒はJRA99勝。最多は1800m32勝、次が2000m23勝の中距離型でマイルは8勝止まり。桜花賞での逆転より、その先のオークスまで楽しめる。
■朝日杯FS組はクラシックへ向けて疑問符も
一方、牡馬は朝日杯FSの取捨が難しい。重賞ウイナー3頭アルテヴェローチェ、トータルクラリティ、パンジャタワーが5、13、12着で勢力図がGIを終えて一変した。それだけ傑出した存在は朝日杯FSにはいなかったということだろう。レースは序盤600m35秒4、前半800m48秒0と同舞台の阪神JFより1秒5も遅い超スロー。ほぼ一団で進み、ラスト600m11秒8-10秒9-11秒0の瞬発力勝負。後半800m46秒1で走破時計は1秒34秒1と阪神JFより上とは言えない。
だが、これだけスローに流れながら、ゴール前はアドマイヤズームが2着ミュージアムマイルに2馬身半、3着ランスオブカオスとも2馬身半差とバラバラだった。どの馬も伸びていいスローでのゴール前とは思えない不思議なレース。2番手から上がり最速を繰り出したアドマイヤズームのレース巧者ぶりとマイラー資質の高さが際立った一戦であり、正直、2着以下の今後は疑問と言わざるを得ない。
次走はニュージーランドTを予定し、NHKマイルCへ進むであろうアドマイヤズームは前途洋々だろう。2番手から瞬時に抜ける瞬発力は一枚も二枚も上であり、同世代とはマイルなら負けない。父キングカメハメハの兄がダートを主戦場としているように、ダイワズームは父の長所に染まるタイプだ。モーリスのよさが全面に出ており、器用な立ち回りも踏まえ、負ける場面は想像できない。
■ハイレベルなホープフルSとその裏に潜む消耗度
朝日杯FSのレース内容を考えると、クラシック候補選びはホープフルSに託したくなる。
こちらは重賞ウイナー2頭、2勝馬6頭。まずは出世レース東京スポーツ杯2歳Sを勝ったクロワデュノールが一番手だ。6月東京新馬勝ちから東スポ杯という王道ローテというだけではない。2戦目に馬体重24キロ増で504キロと一気に成長しての連勝。上がり600m33秒3はデビュー戦のそれより0秒5も速く、大きくなっても俊敏さを一切失っていない。東スポ杯も逃げるサトノシャイニングをつかまえただけというシンプルな競馬で突破しており、消耗が少なく済んだのもプラスだろう。この時期はとにかくいかに疲弊せずに勝ち進められるかが大事。2歳で3戦目を迎えられるのは、理想的な歩みの証といえる。
反面、多頭数競馬の経験や揉まれた際など、課題も多く、中山で馬群に入った際の挙動などチェックしないといけないポイントも多い。各馬に言えることではあるが、経験値が少ない2歳戦では早いうちに実戦での反応を試すことも必要だ。コントレイルもホープフルSではコーナーでの首の使い方といった細かい点が洗い出され、クラシックへ向けて修正されていった。成績に影響するクセ、そうでもないクセも含め、走りは入念にチェックしよう。
マジックサンズは札幌2歳Sで破ったアルマヴェローチェが阪神JFを勝っており、単なる重賞勝ち以上の価値がある。序盤から終盤までペースが一切あがらないという洋芝の道悪らしいタフな流れを積極的に動いてねじ伏せた。最後はアルマヴェローチェに詰められたが、強気な仕掛けを考えると、明らかに強い競馬だった。コーナー4回もクリアしており、課題は輸送くらいか。
もうひとつ挙げるのなら、開催後半でもある程度速い時計が出る中山の馬場。ここまで2戦はすべて洋芝の良以外。今回は初の良馬場になる公算が高い。速い時計にどれぐらい対応するのか。コナブリュワーズやその母アンブロワーズと洋芝巧者の血統であり、キズナがどれほど効果を発揮するか。ノーザンファーム生産のキズナ産駒は高速決着に対応するようになり、成績を上昇させた。心配無用と言いたいところだが、これも試してみないとわからない。
ノーザンファーム生産の上記2頭の対抗格は社台ファームのマスカレードボールだろう。8月に新潟マイルで新馬を勝ち、2戦目アイビーSで東京芝1800mをクリアした。牝馬4頭を含む8頭立てとレベルに疑問符はつくものの、好位で流れに乗り、上がり最速33秒4で完勝。父ドゥラメンテらしいクラシック向きの総合力を感じさせる。祖母ビハインドザマスクはコースを問わない瞬発力が武器だった。姉マスクトディーヴァはセンスと高速決着への強さが身上。反面、一戦ごとの消耗が激しいタイプだっただけに、マスカレードボールもホープフルS後が少し気になる。
今年は3連勝を飾っていたエリキングが骨折休養中。やはり成長期の若駒は、無事にレースを迎える難しさを古馬よりも秘める。まずは無事にここを切り抜け、クラシックにたどり着く尊き馬が現れるよう祈りながら、見守りたい。
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◆著者プロフィール
勝木淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬ニュース・コラムサイト『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)などに寄稿。