週末、金曜の午後、ドウデュース取消の報によって有馬記念は一変した。間違いなく有馬記念のど真ん中にいたドウデュースがいなくなった。
有馬記念のコンセプトはふたつ。その年の集大成か翌年のプロローグか。2年前イクイノックス、昨年ドウデュースは翌年の飛躍を暗示していた。今年もドウデュース取消によって、来年を占う一戦へと変化した。1番人気アーバンシック、2番人気ダノンデサイル、3番人気ベラジオオペラ。上位は3歳と4歳馬が占めた。
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目次
■レガレイラは先行策でイメージを一新
ポイントはなんといってもペースだろう。ダノンデサイルがベラジオオペラを制し、ハナへ。ペースは一向にあがらず、1000m通過は推定62秒9。9Rグッドラックハンデキャップ(2勝クラス)でさえ、推定62秒1だから、ひとたまりもない。折り合いを欠き、我慢比べに耐えられず自滅した馬も多かったが、折り合いさえつけばどの馬でも乗り越えられる。そんな競馬だった。
中山芝2500mはスローになると、距離適性を問わない。スタミナ勝負ではなく、折り合いと位置取り勝負になるからだ。勝ったレガレイラはスタート直後から好位で流れに乗った。昨暮のホープフルSが鮮やかすぎたからだろうか。すっかり末脚勝負のイメージがつき、実際、そういった競馬ばかり。牡馬相手の春二冠もその後も、末脚に比重を置いた競馬で差し届かずを繰り返した。それをみえみえのスローだったとはいえ、先行してイメージを一新した上で有馬記念制覇までやってのけた。戸崎圭太騎手が見事すぎた。
再三述べたようにドウデュースに関係なく、スローはわかり切っていた。得てしてこういったパターンでは奇をてらった先行策がアダとなる。同じことを考える陣営が複数いて、競り合いに持ち込まれ、速い流れを演出することもあるからだ。
また、これまで後ろから進め、前半より後半に速い脚を繰り出すように覚えさせた馬にとって戸惑いを生みかねない。奇をてらった先行策に出たことで、思うような末脚を使えない場合も案外、多い。それだけではなく、学習したことが崩れ、それ以降に影響が出る危険性すら孕む。レガレイラの先行策は陣営と作戦を練った上だろうが、それを一発で成功させ、勝ち切ったのは腕あってのこと。
正直、戸崎騎手は、よく言えば馬任せ。意地悪くみれば、策を巡らさない自然体といったイメージが強い。大舞台でイチかバチかの賭けに出る場面は少なく、勝つために無理強いをしない。だからこそ、レガレイラの先行策に驚かされた。大一番で、これまでのイメージを変える策に出られると、ゾクゾクする。1周目4コーナーでのレガレイラに勝たれるとシャフリヤール本命の筆者は予感した。
■ランズエッジの系統は持続力勝負でこそ
レガレイラの先行策は超スローでの奇策ではあったが、これがレガレイラのスタイルとしては正解ではないか。ホープフルSでの末脚が鮮烈だったゆえに、差しのイメージが定着したが、密かに先行策から粘る形を覚えればいいのではないかと考えていた。根拠は血統だ。
母の母ランズエッジはダンスインザダークとウインドインハーヘアだから、ディープインパクトの妹にあたる。ディープインパクトは末脚特化のサンデーサイレンス産駒だったが、もともとウインドインハーヘアはアルザオなど欧州色が濃い。ダンスインザダークを父にもつランズエッジは切れるタイプでなく、この父らしいステイヤーだった。未勝利に終わったのも適距離がなかったゆえだろう。この持続力がポイントだ。
ランズエッジにハービンジャーがつけられ、ロカが生まれた。ロカも末脚を繰り出すも届かずといった競馬が目立ち、有馬記念前までのレガレイラに重なる。持続力特化のランズエッジにハービンジャーなので、瞬発力に長けるわけがない。ランズエッジは今年、ブルークランズからステレンボッシュ、エッジースタイルからアーバンシックが出て、この世代だけでGI3勝。同一母系の異なる馬による記録だから価値がある。
なかでもアーバンシックの母エッジースタイルの父はハービンジャーなので、同じスワーヴリチャードを父にもつレガレイラとはほぼ同血。そのアーバンシックは春、差す競馬で振るわず、秋には長距離ゆえの先行策で菊花賞を勝った。これも後半から前半に脚の使いどころを入れ替え、早めに進出する形で持続力が引き出された形だ。
ランズエッジの系統は持続力勝負でこそ。スピード競馬では足りない分、位置をとる粘りでカバーする。レガレイラの先行策はランズエッジの持続力を引き出す最上の策だったといえる。まして、レガレイラ、アーバンシックの父スワーヴリチャードはハーツクライ系でサンデーサイレンスのなかでも持続力に触れた血。ランズエッジの重い部分を補うのに最適な種牡馬だろう。
■ランズエッジ牝系の時代を予感させる有馬記念
だからこそ、レガレイラの先行策を一過性にしないでほしい。有馬記念を勝った競馬こそが、この血をいかす良策だ。末脚にかける競馬に戻すなら、またも差し届かずといった場面が増えるだろう。
有馬記念を勝った3歳牝馬は64年ぶりだというが、有馬記念を勝った3歳は多い。みんな翌年、主役として屋台骨を支えていった。先行策から位置取りの優勢性を味方につければ、直線びっしり競り合ったダービー馬シャフリヤールにすら前に出させなかった。この粘りこそ、ランズエッジ系の真骨頂だ。
アーバンシックは出遅れたため、中途半端な位置取りになり本領発揮といかなかったが、ランズエッジの血を引く2頭が先行策に出るならこの2頭ともう少し切れるステレンボッシュが中心になるだろう。こう考えると、ウインドインハーヘアの偉大さを改めて感じる。
翌年へのプロローグ。今年の有馬記念はランズエッジ牝系の時代を予感させる競馬だったととらえる。
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◆著者プロフィール
勝木淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬ニュース・コラムサイト『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)などに寄稿。