父をも超える活躍を見せたスーパーボウルMVP、パトリック・マホームズの軌跡

「パトリック・マホームズ」、この名を知る日本人は昨日まで、ほとんど………と形容していいほど存在しなかっただろう。

「いやいや」という方がいれば、それは次のいずれかだ。熱心なMLBファン、古くからの横浜ベイスターズ・ファン、そしてずばり日本では稀なNFLフォロワー。

昨日から、スポーツニュースを賑わせているパトリック・マホームズ選手は、カンザスシティ・チーフスを50年ぶりにスーパーボウル制覇へと導き、MVPとなったクオーターバック(以下、QB)だ。

≪文:たまさぶろ●スポーツ・プロデューサー、エッセイスト、BAR評論家≫

父はMLBや横浜ベイスターズで活躍

本名は「パトリック・ラヴォン・マホームズ二世」。

「ルパン三世」のような名にはわけがある。彼の父の本名は「パトリック・ラヴォン・マホームズ・シニア」。ベイスターズやMLBで活躍したパット・マホームズさんだ。

マホームズ……私のようなニューヨーク・メッツファンにとってどおりで覚えがあると思った。振り返ると1999年、横浜からMLBに復帰、メッツで主にリリーフとして活躍した、あのマホームズさんだ。

2000年も92試合に登板、メッツをナショナル・リーグ・チャンピオンへと押し上げた。ワールドシリーズでは残念ながら登板機会がなかったと記憶している。

日本人にとっては非常にややこしい。親子でまったく同名のため、父は通称「パット・マホームズ」と名乗る野球選手、息子は「パトリック・マホームズ」と名乗るNFL選手だ。

ただこうしたケースはアメリカでは決して珍しくない。MLB殿堂入りを果たした日本でも人気の「ケングリ」、こと「ケン・グリフィ・ジュニア」の本名は「ジョージ・ケネス・グリフィ」。同名のMLB選手だった父は、このため「ケン・グリフィ・シニア」と呼ばれた。

ボルチモア・オリオールズで活躍した「カル・リプケン・ジュニア」も同様だ。

学生時代はアメフト・野球・バスケをこなし主軸として活躍

(c)Getty Images

パトリック・マホームズ選手は1995年生まれ、テキサス州出身。父パットが横浜でプレーしたため2歳から3歳までを日本で過ごした。日本人にとっては残念(?)なことに、日本の記憶はまったくないとか

彼はテキサスのホワイトハウス高校へ進学すると、アスリートとしての頭角を表す。アメフト、野球とバスケットボールをこなし、そのどれも主軸として活躍。

3年時には、ピッチャーとして16奪三振のノーヒットノーランを達成。しかも、QBとしては50本のタッチダウン・パスを成功させ、パスで稼いだヤードは4619。NFLのレギュラーQB顔負けだ。

マホームズ選手は従来の指揮官型のQBにとどまらず、変則的な体制からのパスを通し、またスーパーボウルでも頻繁に見られたように、パスと見せかけ、自らランを選択、タッチダウンまで決めるようなアスレティシズムは、この頃に育まれた。

NBAでも「ポジションレス」と囁かれるよう昨今のスポーツの潮流は、従来のポジションに縛られない様々な能力を要求されるようだ。

高校卒業時、デトロイト・タイガースに外野手としてドラフト指名されるが、テキサス・テック大に進学。大学でもアメフトと野球、QBとピッチャーという二足の草鞋を履く。しかし、2年が終わるとアメフトに専念すると発表。

(c)Getty Images

父パットは、アメフトを「やらせたくなかった」と明言している。曰く「野球はそれまで息子の人生そのものだった、バスケットボールもやっていた。(中略)だが、高校2年生のときQBをやりたいと言い出した」。

ちなみにの当時の記事に目を通すと、表記はまだ「Patrick Mahomes II(パトリック・ホームズ二世)」となっている。3年時には1試合で734ヤードを稼ぐNCAAのパス記録を更新。

4年を待たずにドラフト入りを宣言し、2017年のNFLドラフト一巡目全体10位でチーフスから指名を受けた

ルーキー・シーズンこそレギュラーQBだったアレックス・スミス選手の影で1試合の先発出場に終わったが、2018年にはエースQBとして定着。同年のNFL最多となる50本のタッチダウン・パスを決め、レギュラー・シーズンMVPに輝いた

今シーズンは一時、膝のケガが心配されたが、ご存知の通りの大活躍で終えた。

スーパーボウル優勝、父をも超えた息子の活躍

2018年に全国紙『USAトゥデイ』が「NFLでもっともホットなクォーターバックはMLBのクラブハウスで育った」とヘッドラインを掲げマホームズ選手を紹介。

そこでパットは「息子は正しい選択をした、と認めなければならない」とし、「私は私の現役生活を誇りに思っているが、息子はもう私を追い越したと言わざるをえない」としている。

(c)Getty Images

アメリカでスーパーボウル優勝QBを誇らしく思わない父など皆無だろう。MLBで例えればワールドシリーズ(以下、WS)優勝MVPピッチャーのようなもの。

WSの舞台でマウンドに上がることのなかったパットの無念も晴れ、きっと今頃は、優勝トロフィーでも眺めながら、親子でその栄光に浸っているに違いない。

パットは「MLBでもっとも験担ぎをする男」と囁かれた。息子の試合でもそれは変わらず。応援の際は、息子の名がプリントされた白いレプリカ・ユニ、白いリネンのシャツ、そして赤いアディダスのシューズ。

それは雪が降ろうが、凍えそうな寒さでも、いつも同じ。2月2日の試合も、きっと同じ出で立ちで見守ったに違いない。

さて「新世代のQB」と形容されるマホームズは今後、NFLにどんな足跡を残して行くのか。パットも愉しみで仕方がないだろう。

著者プロフィール

文:たまさぶろ●スポーツ・プロデューサー、エッセイスト、BAR評論家

週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト『MSN毎日インタラクティブ』をプロデュース。日本で初めて既存メディアとデジタルメディアの融合を成功させる。

MLB日本語公式サイト・プロデューサー、 東京マラソン事務局広報ディレクター、プロ野球公式記録DBプロジェクト・マネジャーなどを歴任。エッセイスト、BAR評論家として著作『My Lost New York~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』『麗しきバーテンダーたち』『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』などあり。

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