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二宮真琴が野球マンガ『ラストイニング』から学ぶ? 「おうち時間」を使ったイメトレ

二宮真琴が野球マンガ『ラストイニング』から学ぶ? 「おうち時間」を使ったイメトレ
(c)Getty Images

4月1日、ATP、WTA、ITFから併せてツアー休止期間7月13日まで延長したと発表された。同日、四大大会のひとつであるウィンブルドン中止までも発表され、選手のみならず、テニスファンたちもショックを隠せないことだろう。

残念ながら、新型コロナウィルスの感染は拡大し続け、この状況に各国の選手たちは「Stay At Home」を合言葉に、人々へ外出自粛の協力を呼びかけている。

選手たちも不本意ながら赤土や芝のコートを踏むこともなく、それぞれが自宅でトレーニングに励んでいる。そんな中、トレーニングの一環として野球漫画を読んでいる女子選手がいた。二宮真琴である。

彼女は2017年、ウィンブルドンのダブルスでベスト4の戦績を残し、2018年の全仏オープンでは日本人ペア初となる準優勝を果たした。身長は157cmと小柄ながら、天性のボールを捉えるタイミングの速さを活かし、世界で堂々と戦い続けている。グランドスラム優勝まで、あと一歩の選手だ。

そんな選手が漫画でトレーニング? それもテニスではなく野球漫画? そう不思議に思う。しかし今後の課題に対して、実はヒントになっているそうだ。

主に掲げている課題は、サーブ強化前衛の動きとポジショニングの理解、そして相手との駆け引きの向上だ。

≪文:久見香奈恵
元プロテニスプレイヤー。2017年引退後、テニス普及活動、大会運営、強化合宿、解説、執筆などの活動を行う。

テニスに役立ちそうなことは「結構ある」

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現在、二宮を指導している小野田賢コーチも彼女の意見と同じく、ゲームの駆け引きを最重要に考えている。駆け引きに対してテニスの話で説明する以外にも「何かないか?」と模索した。そして小野田コーチは、彼女にとって親しみがある野球を題材にした漫画『ラストイニング』を手渡してみることにした。

ラストイニング―私立彩珠学院高校野球部の逆襲』は『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)に連載された原作・神尾龍、作画・中原裕、監修・加藤潔による野球漫画。

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二宮は、無類の野球好きで有名。広島で生まれ育ち、休日には広島東洋カープの応援に球場にまで足を運ぶ。遠征中は中継映像での観戦が日課で、無観客試合で繰り広げられたオープン戦も「普段は聞こえないベンチからの選手の声が面白い」と新たな楽しみを見つけたくらいだ。

昨年には、応援歌「それ行けカープ」の広島著名カープファン・リレー映像にも出演し、根っからの「カープ女子」として広島から認められている。

事実、コーチの狙い通りに彼女は興味を持ち、漫画を読み進めている。その中で、テニスに役立ちそうなことはあるかと聞いてみた。

「そうですね、結構ありますよ。あ、この状況は漫画で読んだやつと同じだから『こうしよう』と考えが沸き立つときもあります。戦略的だし、駆け引きも色濃く描かれているので面白い。ピッチャーとバッターの駆け引きは、テニスと似ているところもあるなって感じます」

「漫画はひとつのきっかけとしてコーチが渡してくれましたが、今まで以上に戦術の理解を深めて、考えなくても状況に合わせて実践できるくらいになりたいです。相手にプレッシャーを与える方法をさらに突き詰めたいですね」

『ラストイニング』は現実的に勝つために、何が必要か頭をフルに使って奮闘する様子が描かれている。もちろん勝利に向かう苦悩と努力も盛り込まれている為、二宮自身にとっても入りやすく共感できる部分に惹かれるのだろう。

「テニスプレイヤー」が「野球」から得たもの

(c)Getty Images

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私も野球選手との会話で戦術面に対して共感した部分がある。ピッチャーの一投から始まる野球。テニスではサーブの一打からだ。この始まりのショットを使ってゲームの組み立て方について、キャッチャーから意見をもらったことがある。

「野球では、一番初めにピッチャーの得意な球種とコースを理解し、先手としてバッターにどういう印象を与えるかが大切。その印象を使って相手に考えさせることが一つの攻撃になるし、同時に最大の武器を活かすために布石を置く順番やタイミングが重要だと思うよ。相手の特性を見極め、ピッチャーの状態を把握してサインを出す。監督からの指示もあるしね。でもテニス選手はこの状況判断を一人でするのか、面白いね」

この会話は私自身のイメージ力をも引き上げた。ゲームの始まりをより細かに作戦立てることで、相手との駆け引きがさらに面白く感じられ、相手の作戦や技量も見抜きやすくなった。今まで学んで来た戦術に対して熟考する機会にもなり、ゲーム構成の全体図を見直し、練磨することにも繋がった。

戦術あってこそのゲーム力。技術あってこその遂行力。そう考えるようになってからは、技術開発にも熱が入った。

二宮にとっても刺激されている部分は近いと推察される。大好きな野球の戦い方をテニスへ変換していることだろう。自分自身の武器を最大限に活かすには、どう組み立てればいいのか。状況に応じて何を選択するか。

そして、どんな相手に対しても、今以上に良いプレーを引き出すには、どう準備するべきかをコーチと話し合いトレーニングを積み上げている。

コロナの影響によるこの時期をどう活かすか

(c)Getty Images

テニスコート以外でも学べることは多い。漫画や資料を読み漁ることも立派なトレーニング。現状、家で過ごす時間も多いことから本を読むきっかけも増やせるはずだ。彼女自身も集めた知識を試合で試す時を心待ちにしているだろう。

未だツアー再開の目処は見えないが、二宮の目標はグランドスラム制覇オリンピックでのメダル獲得だ。それら以外にも、地元広島で秋に開催予定されている「花キューピットオープン」でも優勝を狙っている。広島カープに負けない盛り上がりを、テニス大会でも実現したいと意気込んでいる。

いくつもの目標を胸に抱き、今日も強くなる方策を探す。野球漫画からの学びが次の彼女の勝利に繋がることに期待し、トーナメントの再開を待ち望みたい。

≪久見香奈恵 コラム≫

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著者プロフィール
久見香奈恵
1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。
園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。
2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。