添田豪、選手会会長としての責任から生まれる新しいドラマ 【コラム】

「毎朝、人が少ない間に息子と公園に行くことから始まるよ。朝からたくさん遊んでくれれば、お昼寝もよくしてくれるからね」

少しはにかみながら、父親としての顔を覗かせた添田豪は、ジュニア時代からトップを走り、四大大会五輪など夢の舞台で躍動、現在も日本代表選手として最前線で活躍している。

2016年に結婚、家庭を構え、一児の父となった。新型コロナウイルスに世界がかき回される中、今は家族の心身の健康を守ろうと努めながら、テニス選手としてさらに高みを目指している。

「今は練習ができないけど、やることは沢山ある。午前は息子と遊ぶし、家事も手伝って、午後からはトレーニング。選手会でやることをまとめるにも時間がかかるし、なかなか大変だね。でも、すべてやりたいことだから

≪文:久見香奈恵
元プロテニスプレイヤー。2017年引退後、テニス普及活動、大会運営、強化合宿、解説、執筆などの活動を行う。

「選手会会長」としての役割

(c)Getty Images

添田は、2018年12月に発足した日本男子プロテニス選手会会長も務めている。会長に任命され責任感が増す中、この1年は自身の遠征活動と共にテニス界発展に向け、積極的に動き続けた。

「現状、試合はなくなってしまったけど、より良いテニス界を創ろうという気持ちは変わらないし、選手会の活動を進めている。今までは日本テニス協会(以下、協会)に頼ってばかりだったけど、自分たちの想いや意見を選手側からも発信しないといけないなと。あとは選手個人が意見を言うより、選手全体の意見として建設的な議論が協会側とできるようにしている」

3月初めのデビスカップを終え、ATP・ITFからの世界ツアーの中止発表後、選手会の仕事は国内大会(JTT/J1/J2)の一斉中止の要望を協会側に伝えることだった。

「それぞれ大会を自粛している中で、自粛していない国内大会もあったから、選手にとっては不平等だった。ある地域に行けば試合に出場でき、ある地域だと出場できない……獲得するポイントでランキングが変わってきちゃうし、他競技が自粛している中でテニスだけやっているのはおかしい。万が一、この大会開催が続いたことからコロナ感染者をだしたら大変なことになるから」

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国内大会には、まだ国際大会に出場できていない選手たちが賞金稼ぎにJTT大会に出場する。その選手たちに何かあったら取り返しがつかないと、みなを守るために早急に協会へ連絡を取った。

協会からは2月の時点で「スポーツ庁や総理発言を踏まえた各主催者の自主判断」と各大会に勧告を出していたが、地域によってコロナ感染者数も異なる状況だったことから、主催側も今まで準備してきた大会を直ぐに引き下げる判断が難しかったのかもしれない。

しかし刻々と悪化する状況に3月末日、協会から公式大会の開催中止・延期が勧告され、これを機に国内大会はすべてキャンセルとなった。

国内大会一斉中止の要望をまとめるにも、国内男子プロ全体の意見を吸い上げ、対応するよう心がけた。普段から選手同士でLINEを通じて意見交換をすることも多いという。

選手、ファンとの繋がりから受ける刺激

(c)Getty Images

その他にも週一回は、選手ミーティングを開き、選手内で談義する時間を設けている。一人の選手がスピーカー、他の全選手はリスナーとなり最後に意見交換をするものだ。

「普段、大会中に真面目な話はあまりしないから。こうやって改めて話をするといろんな意見が聞けるし、内山(ATPダブルス・ツアー優勝経験者の内山靖崇)の場合は、『Uchiyama Cup』を作った話をしてくれるし、貴男さん(同じくATPダブルス・ツアー優勝経験者の鈴木貴男)からはコーチング全日本選手権の話題も出る。

ナショナルメンバーじゃない選手たちも、どうやってランキングを上げていくかや、グランドスラムへの想いを共有している。自分で考えてしゃべるということも勉強になるしね……ライバルだけど仲間だから」

戦う者同士、手の内すべては語れないのかもしれない。しかし、今まで個人競技のテニス選手が、環境整備やプロ意識について全体で話し合うことは少なかったはずだ。

この選手会の発足と年長選手のリーディングにより、未来図を描きやすくなった若手選手が増えたことだろう。そして各年代別の発想や意見の違いから、添田自身が面白く刺激されていくのも想像できる。

(c)Getty Images

ファンとの接点も増やすために合同練習の公開や、zoomを使ったオンラインファンミーティングを開催している。100人を超える視聴と共にファンからも「選手の素顔を見ているようで新鮮」と手応えもバッチリだ。今後も毎週日曜日に、このファンミーティングを予定している。

ミーティング内容は、選手から持ち込むものとファンからの質問に答えるものがある。

前回は「テニスに5セットは必要か?」という議題に、彼も選手側とファンからの双方の意見が聞けて面白かったと言う。

僕は5セット派。放映枠や新規ファンを獲得するにも3セット派や、それ以上に短期決戦の意見も出ている。でも本当にテニスが好きな人は、長時間でも見ていられるみたい。ロングマッチだからこそ生まれるものを見るのが楽しいんだって。そう聞くと何だか嬉しかったよ」

彼がそう笑顔で話してくれたとき、私も「そうですね」と同調した。今思い返すとこの返事には、5セットのことよりも、選手として長く戦い続けている添田へ、尊敬と賛辞の想いが重なったような気がする。

同じ競技者として、ジュニア時代から彼を見てきた私にとって、添田の長いこのキャリアには数多くのドラマがあった。ギリギリの試合を何度も乗り越え、この「勝負の世界」を生き残っている。

今では父として、選手会長として、やるべきことも増え責任を担っているが、抱える想いが多いほど、また面白いドラマを生みだしてくれるはずだ。

テニスが好きだからね

そう最後に純粋な想いを言葉に乗せ、これからも添田は日本テニス界の発展に邁進する。彼が率いる男子プロテニス選手会は、きっと新たなテニス選手の価値を創造していくことだろう。

≪久見香奈恵 コラム≫

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著者プロフィール
久見香奈恵
1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。
園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。
2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。

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