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【サッカー】「欧州スーパーリーグ」はアリかナシか 選手やサポーターの思いとの“乖離”が目立つ現状

【サッカー】「欧州スーパーリーグ」はアリかナシか 選手やサポーターの思いとの“乖離”が目立つ現状
サッカー界を揺るがす「欧州スーパーリーグ」計画 (C)Getty Images

■賞金総額は1兆円以上、コロナ禍のクラブが無視できない金額

1月に発表されたサッカークラブの収入ランキングで、首位のバルセロナは前年より1億2570万ユーロ(約163億円)の減収を記録。最も打撃が大きかった4位のマンチェスター・ユナイテッドで、減収額は1億3110万ユーロ(約170億円)にも及んだ。その他のクラブも減収は当たり前で、観客動員の大きいビッグクラブほどコロナ禍で無観客や人数制限に直面した場合の入場収入減は著しい。その赤字の穴埋めを一気に解決できる方法が、「ESL」とビッグクラブは判断したということになる。

実際、先述したJPモルガンが用意する基金、約5200億円から創設クラブへの特典として、最高で約460億円がインフラ整備や損失補填のために渡されるという報道もある。また、欧州CLの賞金総額が20億ユーロなのに対して、ESLはその5倍の100億ユーロ、日本円に換算して1兆円以上にも上るという。コロナ禍で苦しむクラブが無視できない金額だ。

放映権料にしても、欧州CLの場合、全参加クラブに分配されるが、ESLなら限られた20クラブだけで分け合える計算だ。19日の欧米株式市場では、ユベントスマンチェスター・ユナイテッドの株価が急騰した。ESLの創設に合意したことで、参加クラブの収入増に期待が高まったことを市場は歓迎したのだ。

■クロップ監督は構想を全否定「今回も私の気持ちは変わっていない」

ESL構想に反対するロンドンのサポーターたち(2021年4月20日)(C)Getty Images

結局は「金」ということになるが、選手やサポーターらの気持ちは置いてけぼりとなっている。

リバプールクロップ監督は2019年にも「スーパーリーグが発足しないことを祈る。もちろん経済的には重要だが、なぜリバプールが10年連続でレアル・マドリーと対戦するようなシステムが必要なのか? 誰がそんなものを毎年見たいのか?」と否定していたが、「今回も私の気持ち、意見は変わっていない」と欧米メディアにコメントし、続けて「我々はこのプロセスに関与していない。選手も私も知らないことだ。今後の展開を待つしかない」と結んでいる。

欧州CLの楽しみの一つは、各国リーグ戦で上位の成績を収めたクラブ同士が、国の枠を越えて相まみえる「非日常」にある。クロップ監督の言うように、イングランドのチームだろうが、スペインのチームだろうが、ビッグクラブが常に平日の夜に戦うことが決まっていたら、それは「非日常」ではなく、ほどなくして「日常」になる。ビッグクラブに集うスタープレーヤーたちの激突がルーティン化したら、どうだろうか。ご馳走はたまに食べるからおいしいのであって、毎日食べたら飽きるはず。

一握りのクラブによる富の分配。これまで通り国内リーグへの参加は前提となっているが、UEFAの大会には出場せず、自分たちで新リーグを立ち上げて、そこから巨額の利益を得ようというのが、今回の「ESL構想」だ。株式市場は歓迎したようだが、残留争いもないような、参加クラブがほぼ固定化されたリーグの人気が長続きするとは思えない。

高いクラブ価値を存分に生かし、財政のV字回復を図りたいというESLの考えも理解できるが、選手やサポーターの思いと乖離していると言わざるを得ない現状では、反対の輪が広がったとしても賛同の声が大きくなることはないだろう。

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欧州スーパーリーグ(ESL)

ESL創設クラブに当初名前を連ねたのは、スペインからレアル・マドリーバルセロナアトレティコ・マドリーの3クラブ、イングランドからリバプールマンチェスター・ユナイテッドマンチェスター・シティアーセナルチェルシートッテナム・ホットスパーの6クラブ、そしてユベントスACミランインテルのイタリア3クラブとなっている。

20チーム制を構想しており、前述の中心クラブを含め15クラブが降格のない常任クラブに入り、残りの5クラブは各国リーグの成績に応じて入れ替え制で参戦する予定。国内リーグは脱退せず、欧州チャンピオンズリーグに代わる大会として平日に実施を目指す。現時点でドイツ勢やフランス勢の参加表明はなく、参加が噂されていたバイエルン・ミュンヘンは公式サイトで「参加見送り」を表明。その後、21日にプレミアリーグ勢の全6クラブも撤退意向を表明すると、ESL側も計画の見直しを発表している。

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文・SPREAD編集部