■ひとり三役の事業本部長
肩書は「事業本部長」。スポーツビジネスに従事していない方々にとって想像が難しいだろうが、球団経営はそれほど潤沢なリソースがあるわけでもない。事業規模としても、大企業とは言い難い。現在でも、某球団幹部は「日本一有名な中小企業」と卑下するほど。赤字球団だったベイスターズとしては、なおさらだろう。
「事業本部長と言っても、チケッティング、スポンサーセールス、グッズセールス、放映権の統括責任者だけでなく、スポンサーと放映権は部長も兼務するという、ひとり三役でした」。
物販などなら、他業種にもある程度のノウハウがありそうだ。しかし、特に放映権ビジネスはどの業界にも転がっているような代物ではない。それでも「とにかく放映権を学んでひとりでやれ!」と、究極のOJTだった。「幸い」としていいのだろうか。ベイスターズの前オーナー企業は、在京キー局TBS。「とにかく放送関係者に教えを請うしかありませんでした。TBSの方々には何十人にもお会いして育ててもらいました」。
一般的には、その金額などもタブーとされる放送権の世界、局以外も11球団を訪ねてまわった。「追い返されることもありましたね。でも、まずは(放映権の)相場がわかっただけでも大きかったです。みなさん、何も知らない自分を可愛そうだと思ってくれたのだと思います」と苦笑する。
全国を飛び回り各球団からノウハウを学んだ。「グッズセールスについては、(広島)カープさんが素晴らしく、年に3回ぐらいは訪ねたものです。スポンサー営業に関してはソフトバンク(ホークス)さんが進んでいました。みなさんには、本当にお世話になりました」。
■Bリーグ参入という新たな冒険
この労苦が報われ、2016年に黒字化を果たす。球団単体で黒字というのも、今でこそさほど珍しい状況ではない。しかし、2000年当初など球団経営に黒字などないと揶揄された業界。それを経営譲渡からわずか5年で黒字化を達成、その手腕は高く評価されたに違いない。
こうした困難を乗り越え、チャレンジを続けて行く原動力はどこにあるのか。その根底にあるのは、20代での「地獄」と思えるほどの挫折、そして自身の中に根付いている「起業家マインド」だという。
「混沌としているものを軌道に載せるミッションが好きなんです。(自身の)起業家精神がDeNAという会社の文化に合致、様々なミッションに当たらせてもらっています。幸せなことだと思います」。
ベイスターズの黒字化を機に、DeNAでは次のスポーツビジネスが模索され、検討部会が開かれた。「自分がバスケットボールのポテンシャルを買っていたものですから」と元沢さんは、Bリーグへの参入を強力にプッシュ。ベイスターズが2017年に日本シリーズへ進出するという追い風もあり、バスケの経営に乗り出す決定がなされた。
当時ベイスターズの岡村信悟社長(現DeNA社長)に新しいチャレンジをしたいと立候補。東芝から事業承継を受け2018年、DeNAはBリーグに参入。それと同時に元沢さんは、クラブの代表取締役社長として、新たな冒険に乗り出した。
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著者プロフィール
松永裕司●Stats Perform Vice President
NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoftと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist。














