■理屈で勝てるビジネスではない
川崎ブレイブサンダースは今年3月、決勝で宇都宮ブレックスを破り、第96回天皇杯を優勝で飾った。クラブとしては7年ぶり4回目だが、意外なことにBリーグ・スタートからは初戴冠となった。
クラブとしての目標を訊ねると「アジアナンバー1クラブになること」と明快な答えが返って来た。「人気、実力、経営で1番。そのためには、まずはアジアを知ること。(新型コロナ禍の)現在は難しいですが、アジアへ足を伸ばし、この目で見て、アジアを知り、海外クラブと交流し、そしてアジアを盛り上げる。そうしてこそ初めてアジアを先導できるクラブを目指すことができます」。有言実行を掲げる。
「人気、実力」を掲げる点、これまでの日本のスポーツと代わりはない。しかし、川崎のみならず、他クラブ、リーグも常に「経営」を標榜する点は、日本における21世紀型のスポーツ・ビジネスの視点と形容して差し支えないだろう。
スポーツ・ビジネスの知見を持たないまま、元沢さんが業界に飛び込んでから8年。その中で成し遂げてきた業績を振り返り、スポーツ界を目指す人々へのアドバイスを求めた。
「スポーツ・ビジネスには『高い専門性』が求められる印象が強い。スポーツ・ビジネスを専門で教える学校や大学院などのイメージがあるからかもしれません。しかし、スポーツはファンあってこその業界。理屈で勝てるビジネスではありません。論理的思考能力はもちろん大事ですが、その必要性は1割、2割だと思っていますし、入ってからでも学ぶことができます。それよりも現場におけるファンやスポンサーとの接点のほうが遥かに大事です」と、まさに右も左もわからない状態で球団経営に飛び込んでいった経験に基づくヒントを与えてくれた。
■スポーツは無限の可能性を持つ
スポーツ・ビジネスという言葉ばかりが独り歩きする昨今ながら、現場から何を汲み取れるか、何を汲み取らなければならないのか、その重要性が理解できる。
「スポーツはそもそも公共財。熱意と合理性さえあれば、なんでも実現できる。スポーツは無限の可能性を持つ仕事なんです」。
京セラ、KDDIの創業者・稲盛和夫さんは、「自身のもつ無限の可能性を信じる」ことで「新しいことが成し遂げられる」と説いた。この金言に当てはめると、スポーツの無限の可能性を信じる元沢さんは、日本のスポーツを新しい領域へときっと押し広げてくれることだろう。
元沢さんに率いられ「アジア・ナンバー1」を目指す川崎ブレイブサンダース、その躍進にさらに期待を寄せたい。
クラブは、2021年シーズンに掲げた「2冠達成」を目指し今週末、天皇杯決勝の相手、宇都宮ブレックスと相対する。
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著者プロフィール
松永裕司●Stats Perform Vice President
NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoftと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist。















