【東京五輪/陸上】フィナーレを飾る男子マラソンを展望 ラストランとなる大迫傑はメダル獲得なるか

東京五輪がラストランとなる大迫傑(C)Getty Images

東京五輪も大詰めを迎えた。最終日となる8日には、注目の男子マラソンが行われる。日本人3選手への期待を中心に、見どころが多い大一番を展望してみたい。

かつて、マラソンといえば欧米のランナーが主役だった。様相が一変したのは、1999年にモロッコのハーリド・ハヌーシが2時間6分を切ってから。以来、世界記録はすべてアフリカ出身のランナーが更新し、エリウド・キプチョゲ(ケニア)が2018年に出した2時間1分39秒まで“高速化”が続いている。主要大会の優勝者はほとんどがアフリカ系となり、五輪でも2008年の北京以降、3大会のメダリスト9人のうち8人がアフリカ出身の選手だった。今回もケニア、エチオピアなどから有力ランナーが参戦する。

では、日本人にメダルの可能性はないのか? 実は、そうとは言い切れない。オリンピックの最速優勝タイムは北京大会でサムエル・ワンジル(ケニア)が記録した2時間6分32秒。リオデジャネイロ、ロンドンの優勝タイムは2時間8分台だった。タイム的には日本人選手でも十分に足りる。オリンピックとなれば、誰もが記録よりも勝負にこだわる。冷静なレース運びと思い切ったスパートがメダル獲得の鍵となる。

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■波乱を予感させるトリッキーなコース

今大会の日本代表は、大迫傑中村匠吾服部勇馬の3選手。MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)という周到な選考過程を経て選出された最強メンバーだ。日本陸連は、MGCを実施するにあたり「メダル獲得」を大目標に掲げてきた。一人もメダルに絡まなければ威信にかかわる。

期待が高まるもうひとつの理由は、代表3選手がそろって箱根駅伝を沸かせたスターランナーだったこと。早稲田、駒沢、東洋のユニフォームを着て箱根路を駆け抜けた姿は記憶に鮮明だ。陸上ファンならずとも、東京五輪の晴れ舞台で彼らにもう一度、輝いてほしい。そう願う気持ちは大きい。

さらに、札幌市内を周回する特殊なコースが波乱を予感させる。完全にフラットなうえ、北海道大学の構内には狭く小さなクランクが連続する。大ループ1回、小ループ2回というコースデザインも変則だ。7日時点では、男子マラソン当日朝7時の札幌の天候は曇り、気温26度という予報だが、今年は北海道も猛暑。レース中に30度に達する可能性もある。トリッキーなコースの仕掛けどころはどこなのか? レース運びが勝負を分ける。

■大迫、中村、服部。それぞれの魅力は?

3選手のなかで、もっとも注目を集めているのは大迫だろう。東京オリンピックを“ラストラン”と宣言。「次があるという言い訳をしたくない」と、このレースに賭けてきた気持ちを強烈にアピールした。大迫といえば、2018年にシカゴマラソンで叩き出した2時間5分50秒という日本記録(当時)が印象に残る。日本記録更新に対して払われた1億円の報奨金も話題になった。2020年には東京マラソンで自身の記録を21秒縮めて、再度日本新を更新してみせた。気迫を前面に出すスタイル、「自分のことは自分で決める」という独特のストイックさ。そんな姿に魅力を感じるファンは多い。

しかし、意外なことに大迫には優勝の経験がない。6回走ったマラソンの成績は、3位、3位、3位、棄権、3位、4位と、準優勝すらない。勝負という観点ではどうなのか? その点、中村は何といってもMGC優勝が光る。国内のライバル2人に競り勝ったシーンは目に焼きついている。一方、服部は「(マラソンの勝負は)最後の15分。そのためだけに練習をしている」と、独自の理論を披露する。持ちタイムでは中村が2時間8分16秒、服部が2時間7分27秒と大迫に見劣りはするが、勝負強さは互角かそれ以上かもしれない。

■レースの中心はケニア、エチオピア勢か

本命は世界記録保持者のキプチョゲだろう。スタミナがあるうえ、オリンピックの5000メートルで2度メダリストになっているようにスピードもある。マラソンは13回走って11回優勝と凄まじい。しかし、2度負けたうちの1度は、直近の2020年ロンドンマラソン。4度優勝している舞台で8着と惨敗した。年齢は36歳。力の陰りを指摘する声もある。

キプチョゲ以外にも有力ランナーが目白押しだ。2時間3分台を記録している、共にケニア勢のローレンス・チェロノとアモス・キプルト、エチオピアのシサイ・レマといった3選手や昨年のロンドンマラソンを制したシュラ・キタタ(エチオピア)も上位争いを展開するだろう。

日本人の男子マラソンメダリストは、過去に3人だけ。円谷幸吉(1964東京・銅)、君原健二(1968メキシコ・銀)、森下広一(1992バルセロナ・銀)。森下がモンジュイックの丘で熾烈な優勝争いをした日からもう30年近くが経ってしまった。いろいろなことがあった東京オリンピック。最後に大通公園で感動のゴールシーンを見てみたい。スタートはもうすぐだ。

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著者プロフィール

牧野森太郎●フリーライター

ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「自分自身を生きるには 森の聖人ソローとミューアの言葉」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。


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