現地時間10月7日に行われたシカゴマラソンにおいて、大迫傑選手が2時間5分50秒を叩き出して日本記録を更新した。レース結果は3位だった。
世界のトップ選手が米国オレゴン州に集まる「ナイキ・オレゴン・プロジェクト」のチームメイトでもある、モー・ファラー(2時間5分11秒で1位)、ゲーレン・ラップ(2時間6分21秒で5位)らと激しい争いを繰り広げた大迫選手。
ゲーレン・ラップ選手らを抑えての3位という見事な記録だけではなく、日本実業団陸上連合が設けている報奨金1億円を手にしたことにも米国では注目は集まったようだ。
2015年に立ち上がった同報奨金制度。設楽悠太選手も、高岡寿成氏(現カネボウ監督)が2002年にシカゴでマークした2時間6分16秒の日本記録を16年ぶりに更新した際にも、同制度によって1億円を手にした。
報奨金の10%をピート・ジュリアンコーチに贈る
米国でのレース後の記者会見で、大迫選手のコーチを務める「ピート・ジュリアンコーチに報奨金のシェアはないのか」と聞かれた大迫選手は、「多分、10万ドル(約1130万円)」と回答。(1)
(1)帰国のタイミングで話を聞くと、「正確に10万ドル相当の金額になるかはわからないが、『報奨金の10%』という意味で回答した。それは決まっている」と明かしてくれた。
日本の実業団登録をした選手であれば指導者にも報奨金5000万円が贈られるが、大迫選手はプロだ。本人は報奨金の1億円を受け取ることができるが、大迫選手を2013年から指導してきたピートコーチは1円も受け取ることはできない。
そうした状況が背景にあるからこそ、大迫選手は「彼(ピートコーチ)は、本当は(報奨金5000万円を)もらうべきだし、その価値があると思っている。だから、自分の分を、5000万円には届かないけれども、できる範囲でなんとかしたかった」という気持ちを抱いていた。
ピート・ジュリアンコーチ
ガッツポーズに込められた2つの意味
ピートコーチは「重要なことは、スグルがいい勝負をしたということだ。私たちは記録や報奨金について決して話してこなかった」とレース後に語っているが、大迫選手も、「(コーチとは)いい練習ができたから、勝負をしていこうという話しかしていない。そこに集中した結果、ボーナスがついてきた」と帰国後に明かしてくれた。
といっても、完全に1億円の存在を考えないようにすることは不可能だったようだ。
ゴール後にガッツポーズをして吠えた大迫選手だが、そのガッツポーズには「今まで挑んだボストンマラソン、福岡国際マラソンとはまた違った得るものがあった」と自身の成長に対する実感と、「やはり1億円は嬉しかった。この半々ですかね」という報奨金への喜び、の2つの意味があったことを教えてくれた。
(c)NIKE
家族への思い
報奨金1億円の使い道で決まっているのは「ピートコーチへのボーナスだけ」だと答えていた大迫選手だが、「凄く高いものじゃないけれど、家族になにか買ってあげたい」と競技活動を支えてくれている家族への感謝は忘れていない。
レース後も、自身のインスタグラムに「#イケてるパパになりたい」のハッシュタグと共に、レース後に子供たちとハグする写真と、「パパ」と書かれたうちわを持ち「必勝」鉢巻きを巻いた愛娘の写真をアップロード。
「イケてるパパ」とは?
英語で「ぼくがなぜ走り続け、成功したいのか。その大きな理由の一つがこれ。(子どもたち)やらなくてはいけないことがまだまだある。もっとトレーニングしないと!」と投稿し、自身が走り続ける大きな理由の一つとして家族の存在をあげた。
改めてこの「#イケてるパパになりたい」という部分について聞くと、「ちょっとふざけてた部分もある」と前置きしつつも、「本人たちが自慢できるお父さんではありたい」と教えてくれた。
「現時点で『イケてるパパ』かどうかは本人たちが考えるところですが、自分でそういう風に思えるようにこれからも努力していくという思いを込めて投稿しました」
自身を「イケてるパパ」と思えるようになるまで、大迫選手はこれからも走り続ける。
《執筆、撮影=大日方航》
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