■IOCはドーピング大国を放置するのか
スポーツ仲裁裁判所(CAS)で開かれた公聴会でワリエワ側は、「祖父と同じコップを使用したため薬物が混入された」と主張。前例として、この答弁により無罪救済された選手が過去に存在するがゆえの回答だったろうCASはワリエワが16歳未満であり「要保護者」の観点から、今大会の出場が許可された。
しかしむしろ、16歳未満である点を考慮するのであれば、薬物の影響を受けやすい弱齢である本人の健康のためにも断じて五輪出場資格を剥奪すべきではなかったのか。
国際オリンピック委員会(IOC)の弱腰も甚だしい。プーチン大統領が北京五輪開会式に堂々と出席している時点で、ROCとしての出場など意に介していないのは明らかだ。
ソチで国家ぐるみのドーピング発覚について、ロシア国内でも「単なる国際的な反ロシアの政治的流れ」とされ、ドーピングそのものへの罪悪感は希薄だ。IOCはソチの時点で、「ロシア」の出場を全面的に禁止し、ドーピング検査をクリアできた選手だけを五輪旗のもと「個人」として出場許可するという方策をとるべきだった。同様の論調は『ニューヨーク・タイムズ』など特にアメリカのメディアにも散見される。
ROCとしてではなく、ロシアは今回のフィギュア・スケートにおいて十二分に国の威信を見せつけることに成功した。前回、金メダルを獲得したアリーナ・ザギトワが今大会では強化指定選手となっていない点でも明らかである通り、ロシアにおいては選手が尊重される傾向にあるとは言い難い。
フリー・スケーティングの後、4位に沈み号泣したワリエワは、選手としては今大会で見納めかもしれないと考えると、やはり本人が不憫でならない。ロシアの「スポーツ・エクスプレス」紙は4位という結果を、欧米の反ロシア感情が「天才を沈めた」と報道しているようにドーピング大国としての反省はみられない。
IOCとCASは何よりも今大会で、ドーピング疑惑があろうとも、五輪出場は可能である前例を作り出してしまい、著しい汚点を残した。
五輪が開催される都度、こうして国の威信の陰で、選手が犠牲になるのであれば、国別の区分など取り払ってしまうべきではないのか。
今後、フィギュア団体において、その処遇が注目されるが、IOCはこのドーピング大国をそのまま放置するのか。少なくとも北京五輪においては、IOCの大敗北に終わったと断ずるしかない。
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著者プロフィール
松永裕司●Stats Perform Vice President
NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoftと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist。












