【テニス】紛争に翻弄されるロシアとウクライナのプレーヤーたち、平和への願いは叶うのか

世界ランク1位になったダニル・メドベージェフ (C)Getty Images

平和の祭典と呼ばれる五輪が北京で閉幕した矢先、ロシア軍はウクライナに侵攻をはじめ10日が過ぎた。新型コロナ・ウイルスによるパンデミックに続き、更なる苦境に世界は困惑と不安が増すばかりだ。また、その影響は嵐のようにアスリートたちの人生に襲いかかり、テニス選手も例外ではない。

テニスの各統括団体は(ATP、WTA、ITF)は開催予定だったロシアでの大会をすべてキャンセルし、ロシアと同盟関係であるベラルーシに対し国別対抗戦のデビスカップビリー・ジーン・キング・カップへの出場停止を発表した。現段階でロシアとベラルーシの選手の個人としてのツアー大会出場は認めるが国名や国旗の使用は禁止となり、ランキングリストからも2国の国旗は消去されている。

今後の国の動きによっては大会の参加も認められない可能性も残され、ロシア選手たちの人生からテニスを奪われるかもしれない不安を抱えている。

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■世界ランク1位になる快挙達成も

まだ誰も数日後に戦争が始まるとは知る由もない2月21日の週はじめ、テニス界はドバイ選手権に出場するノバク・ジョコビッチ(セルビア)とメキシコ・オープンに出場するダニル・メドベージェフ(ロシア)の双方の結果次第で、男子の新たな世界No1が生まれるか期待と高揚感に包まれていた。奇しくも、ロシアがウクライナへ侵攻を始めた24日、ジョコビッチがドバイの準々決勝で敗れ、メキシコで勝ち進んでいたメドベージェフは新たな世界No1の座が約束された。これによりジョコビッチが築いてきた361週という世界一位最長記録に終止符が打たれることになった。

本来であれば幼少期からの夢を叶えたメドベージェフは今日までの努力を気持ちよく誇り、多くのお祝いの言葉だけに包まれるはず……だが母国の暴挙から、勝利後のインタビューでは自身の快挙に触れることは少なく、「テニス・プレーヤーであることで世界の平和を促したい」と言葉を残した。

ドバイ選手権で優勝したアンドレイ・ルブレフ(ロシア)は、試合後のテレビカメラにサインをするのではなく「No War Please(戦争を止めてください)」と書き込み、大会を終えた後もTwitterに「今はテニスではない。スポーツでもない。世界中が平和であることが重要なのです。お互いに支え合うことが必要です」と訴えた。

■テニスコートから平和を訴える

またダヤナ・ヤストレムスカ(ウクライナ)は母国滞在中にロシア軍の攻撃に遭い、2晩を地下の駐車場で過ごした後に15歳の妹のイバンナを連れウクライナを脱出。フランスで開催されるリヨン・オープンにワイルドカードで出場し、何度もの接戦を潜り抜け準優勝を果たした(ダブルスは妹とワイルドカードで出場)。

毎度、勝利後にはウクライナの国旗を背にまとい「ウクライナ人は強いです。この困難を乗り越える」と母国の人々を励まし続けた。両親をウクライナに残してきた彼女の心情は計り知れない。こんな状況の中でもヤストレムスカは自身の仕事を全うし、テニスコートからの国を支え平和を訴え続けている。さらにヤストレムスカはこの準優勝で獲得した賞金全額を、祖国支援のため寄付するとした。

同くウクライナのエリナ・スビトリナはメキシコのGNPセグロス・オープンに出場。1回戦ではロシアのアナスタシア・ポタポワとの対戦を知り、一時は試合をボイコットすると発表したが「試合をするほうに意味がある」とコートに登場。ヤストレムスカと同じく今回の賞金は母国の軍隊や人道支援のため、今大会の賞金を寄付することを発表しており、SNSには「ミッション」だと書き込み自身を奮い立たせていた。

そして「ロシアの選手たちを責めるつもりはありません。彼らは私たちの祖国への侵略に責任があるわけではありません。私はこの戦争に反対の意を表している。ロシアとベラルーシの選手みんなに敬意を表したい。彼らのサポートは必要不可欠です」と想いを伝えた。

テニス選手は毎週のように世界を移動しツアー大会をまわる特性から、各国の異文化や歴史を素肌で感じてきている。時には各国の街や自然の美しさに息をのみ、生まれ育った以外の場所にも親しみを覚えるものだ。また毎日のように顔を合わせる他国籍のプレーヤーたちの存在があるからこそ、世界情勢への関心は高く、他国の友を想う気持ちは芽生えやすい。

そんな選手たちの想いと行動力が一刻も早く平和に繋がることを願っている

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◆【著者プロフィール】久見香奈恵 記事一覧

著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。


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