【スポーツビジネスを読む】日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “承” 聖地・花園で育ったプリンセス・オブ・ラグビーが再びその道をなぞるまで

 

【スポーツビジネスを読む】日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “承” 聖地・花園で育ったプリンセス・オブ・ラグビーが再びその道をなぞるまで
ラグビー関係者の懇親会に参加した谷口さん(前列左) その後が父・龍平さん 本人提供

さらに1年後、谷口さんの親友が英エセックス大学に留学していたため、何の気なしに遊びにいくことに。せっかくなのでロンドン観光をする際、ラグビーの聖地トゥイッケナム・スタジアムを訪れる。

■花園からやって来たプリンセス・オブ・ラグビー

「その子はラグビー興味ないから『なんじゃそりゃ?』ぐらいだったんですが、花園もこの世界的聖地をモデルにしている。それが行ったらすごい田舎でもうな〜んもない。連れて行った友達にも悪いなぁっと、土産もん屋ぐらい開いてるかなぁっと、その辺をうろうろしていたら、長靴履いたおっちゃんに声かけられて。向こうからしたら試合もないのに、アジアの女の子が迷い込んで来て『どっから来たん?』みたいな感じです」。

そこで谷口さんが事情を話し、聖地・花園で育った身の上話などを打ち明けると「キミはプリンセス・オブ・ラグビーか! プリンセス、案内しましょう」とスタジアムもラグビーミュージアムも開放。「プリンセスがやってきたよ」と事務所にまで案内してくれたという。英国人ならではのウィットもあったのだろう。

聖地・花園で育った”プリンセス・オブ・ラグビー” 本人提供 

南ア体験に引き続き、谷口さんはラグビーに三度引き寄せられる。ラグビーは共通言語、ラグビー関係者は世界で親戚のような感覚に改めて気づいたという。

今でこそ7人制ラグビーが五輪競技に加えられているものの、正式な15人制のラグビーが五輪競技から外れたのは、ユニオン主義によると谷口さんは読んでいる。2019年のラグビー・ワールドカップ開催により、ご存じの方も多いだろう。ラグビーでは国籍で代表チームを縛るのではなく、その国のユニオン(協会)に所属している選手に、代表チーム入りする権利が生じる。ただし、他国で代表入りした場合は、その他の国で代表選手になることはできない。イギリスから帰国後、谷口さんはラグビーの歴史を調べ始めた。

「大学院生なんで、いろんなデータベースにアクセスして、論文読んだりして。ユニオン主義は、人権法、国際法、領土問題の観点からも興味深く、どういう概念なんだろう…と。するとユニオン主義になったのも、あらかじめ計画されたものじゃなくて、植民地支配のために派遣した将校を育成するためのツールとしてのラグビーが見えてきました。大英帝国の植民地に赴任しているので、試合のために呼び出されても、当時の移動手段では何カ月もかかったりする。そうであるなら出向している先のどこに所属してでも試合に出場できるようにする。いわば妥協の産物なんです」と学ぶに至る。

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■自身の学問とラグビーが再会を果たす

「法学の概念としてジャスティスとフェアネスを習う。大西鐵之祐先生の『闘争の倫理』を読むと『ジャスティスを超えたフェアネスが大事なんだ』と書いている。正義よりも公平であることを強調している。大西先生自身、捕虜になった経験もあり、戦争について領土問題、捕虜問題も含めて非常に興味深い。藤島大さんなんかも『人類のためだ。』(鉄筆)というエッセー集の中で『ラグビーは戦争をしないため』と書いている。もし戦争になっても人として越えてはならない線がある。このエッセー集の中で、藤島さんは大西先生の最終講義を思い出し、『…どうしても勝ちたい相手に対して、例えルールの範疇にあっても、本当に汚い行為はしない。ジャスティス(順法)より上位のフェアネス(きれい)を生きる。すると社会に出ても、ズルを感知する能力が研ぎ澄まされる。「変な方向」がわかる。』と。ラグビーはそれを学ぶスポーツ。ここで自分の学問とラグビーが交わるんですよ」。

幼少期・思春期の経験からなんとなく避けてきたラグビー、しかしここに来て自身の学問とラグビーが完全な再会を果たした。

「ラグビーのレフリーを『審判』と訳すとちょっと違うんじゃないかと思う。日本では、レフリーもジャッジもアンパイアなども、全部『審判』と呼びますよね。ラグビーにおけるレフリーは、裁判における仲裁人のようなもの。それに対しての、ジャッジやアンパイアなどは白黒をつける役割。例えば、ラグビーにおいてタッチ「ジャッジ」は白黒をつける。レフリーは白黒をつけない。レフリーという呼称のスポーツはみな仲裁人と思ったほうがいい。そして、もう一つ面白いなと思ったことは、2019年のワールドカップ前に村上晃一さんに教えてもらったことなのですが、ラグビーは試合で守るべき規範を『ルール(Rule)』と呼ばず『ロー(Law)』と呼ぶ。この『ロー』が、ラグビー憲章に基づいて減ったというのです。法学的に考察すれば、社会でも法は増えていくことはあっても、減ることはない。なんで『ロー』が減るんだと。つまり法学を学ぶ上で、むちゃくちゃ教材がころがっているスポーツ。その『ロー』よりも品位、情熱、規律、尊重、結束という『ラグビー憲章』、これが上位概念にあるのはすごい面白い。日本でいえば、最高法規の憲法が『ラグビー憲章』、それ以下の法律が『ロー』みたいなものですよね。こうしてラグビーがまた自分の人生に交わって来る。離れよう離れようと、ラグビー以外のスポーツももちろん面白いと思っているけれど、幼少期の体験と照らし合わせることができるので、『おもしろいでしょ!』とラグビーの価値を世に発信するのはいいことだなぁっと。『ラグビー多少、知ってます』とメディアでも言っていたのが、なんとなく認知されて『ラグビー好きなおばちゃん』と。その辺までが2019年に至るまでのざっくりとした話です」。

さて、ここから谷口さんにとってのラグビーを巡る冒険が始まるが、これがまた難破船に飛び乗ったような大波乱が待っていた。

◆日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “起” 聖地・花園ラグビー場で育った娘

◆日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “転” 「株式会社恩返しホールディングスは解散せよ」

◆日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “結” 「“昭和のおっさんOS”と“ICチップ”をいい加減に交換せよ」

著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

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