■自分で判断してはいけないという観念
そして、これはスポーツに限らず、学校教育でも洗脳がなされていると警鐘を鳴らす。小学校6年生の「道徳」の教科書に掲載されている『星野くんの二塁打』を例に挙げた。
こちらも題材はスポーツ、野球。チャンスで星野くんは監督からバントの指示が出たにもかかわらずヒッティングに出て見事二塁打を放つ。試合後、監督の指示は絶対守るよう通告され、次の試合に出場させてもらえなくなるストーリーだ。
「これは前川喜平さん(元・文部科学事務次官)との対談『ハッキリ言わせていただきます!』(集英社)で知ったんです。ちなみに前川さんも、高校時代はラガーマンだったんですよ。前川さんはこれでは『自分で判断してはいけないという観念を植え付けてしまう。決まりを守ることが何よりも大事な道徳です…になってしまう。決まりを守るよりも、場合によっては自分で判断し決まりを破るほうがよいこともある。どういう時に、決まりを破る判断をするのか…。決まりの破り方みたいなことを勉強するのがよい』とおっしゃってます。こうした教育が、東日本大震災における宮城県石巻市大川小学校の悲劇を生んでしまった一因ではないかと思います。全校生徒がまず校庭に避難。でも、そこで先生も生徒も待機としていて、大津波に遭ってしまいました。津波の際は、自分で判断して、てんでばらばらに逃げろという『てんでんこ』という教えは、つまり誰かの指示を待つのではなく、自分の判断で逃げないといけないんです」。
石巻市の2011年3月の市報には、「津波から逃れるために」と題した項目で「津波警報や避難指示を待たず、直ちに海から離れ、急いで高台や鉄筋コンクリートなど丈夫な建物の2階以上に避難しましょう」と明記してあったという。大地震は、その10日後に発生。大川小学校では、その指示が生かされず、全校108人のうち68人が犠牲となり6人が行方不明となった(『中央公論』参照)。

指示待ちでは東日本大震災のような災害から逃れられない (C) Getty Images
東京のような大都市圏で震度7以上の大震災が発生した際、どう避難するのか、誰も指示はしてくれまい。人々がパニック状態になる中で、どう生存するのか、それはもちろん、個々人が判断しなければならない。
「私自身、法学者になってよかったと思うのは、決まり(ローやルールなど)とは何か、なぜその決まりが存在するか、その立法趣旨、立法段階をすごく勉強しないといけなかった点です。弁護士さんは、今ある法の中でどう解釈するかをまずは考え、法の範囲内での拡大解釈や類推解釈などの判断もする。法学者は、その法がそもそも何なのか、何のために必要なのか、妥当なのかなども問う。ないなら新しく作る。おかしいなら改正すればよろしい。だから、そこは政治的な動きとも結びつく。双方ともベクトルの向きは少々異なるのですが、定められたルールを守るだけではないのです」と法学者としての心得を述べた上で、「恩返しホールディングス」に対しては再度釘を刺す。
「上ににらまれないように忠実に守る人たち…その忠実さは必要?と思いませんか。おかしなルールや慣習は変えればいい。ラグビー憲章は、ローの適用に幅をもたせています。でも、その発想は、日本に根付いていない。ラグビー協会だけではなく、上の言うことに逆らっちゃダメ。だから、ルールだから守る。その思考パターンの人が多すぎる。『お前、死ね』というルールができたら死ぬんですか。そのルールが、おかしいと声をあげたら捕まる…それが太平洋戦争だったし、今のロシアでも同じことが起きてる。みんなが同じ方向を向いている時に、異論を挟んではならない…というのは異常な状況なんです」。
昭和時代に設立され、「おっさんの掟」が適応されている「株式会社恩返しホールディングス」は、21世紀の日本において、解散すべき無用の長物と化している。
◆日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “承” 聖地・花園で育ったプリンセス・オブ・ラグビーが、再びその道をなぞるまで
◆日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “結” 「“昭和のおっさんOS”と“ICチップ”をいい加減に交換せよ」
著者プロフィール
松永裕司●Stats Perform Vice President
NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoftと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist。










