日本中を熱狂させたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝戦から10日足らずでメジャーリーグもプロ野球も開幕。2月末の宮崎キャンプからスタートを切った日本代表、侍ジャパンメンバーは例年よりも早めの調整を強いられた。ペナントレースとはまた異質の緊張感と疲労が選手たちに大きな負担となったのだろう。故障のため戦列から離れた選手もいれば、〝後遺症〟とも言えるスランプに悩まされた選手もいる。
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■懸念されるプロ野球不調組
2カ月あまりプレーできなかったのは、グループリーグの韓国戦(3月10日)で右手小指を骨折した源田壮亮(埼玉西武ライオンズ)だった。そのまま試合出場を続け世界一に貢献したが、帰国後はリハビリにつとめた。5月26日のオリックス・バファローズ戦で一軍に復帰。いきなり初安打初打点の活躍を見せた。
WBCでセカンドを守った山田哲人(東京ヤクルト・スワローズ)は打率.267の成績を残した。しかし、4月13日にアクシデントのため、出場登録を抹消。4月28日に一軍に戻ってきたが、5月26日に下半身のハリを訴え、また欠場することになった。リーグ3連覇を狙うスワローズにとって、山田不在の影響はあまりにも大きい(17勝28敗、勝率.378でリーグ5位)。
WBCで2番を打ち、大谷翔平(エンゼルス)、吉田正尚(ボストン・レッドソックス)につないだ近藤健介(福岡ソフトバンクホークス)も本来の実力を発揮することができていない。3割を超える通算打率を誇る安打製造機が打率.234と苦しんでいる。
山田とセカンドで併用された牧秀悟(横浜DeNAベイスターズ)は3・4月こそ不振に苦しんだ(打率.235)ものの、現在は打率.260、9本塁打、30打点まで盛り返し、首位の阪神タイガースを追うベイスターズを牽引している。
〝WBC後遺症〟に悩む野手の中でもっとも深刻なのがシーズン前に「キャリアハイを目指す」と宣言していた村上宗隆(スワローズ)だ。WBC準決勝で逆転サヨナラヒット、決勝で本塁打を放ちチームの世界一に貢献したものの、帰国後はまた苦しんでいる。本塁打はリーグトップの9本、リーグ4位の27打点を放っているが、打率.217はリーグ29位)。2022年の成績(打率.318、56本塁打、134打点)には遠く及ばない。
WBC期間中、大谷の打撃練習や試合中の豪快なホームランが話題となった。ほかのプロ野球選手たちが子どものように目を輝かせながらその打撃を見つめるシーンを覚えている人も多いだろう。メジャーでもトップクラスの破壊力を誇る大谷の打撃を間近で体感した村上が刺激を受けなかったはずはない。令和初の三冠王に輝いた強打者は、自分よりもパワフルでスケールの大きな左打者を見て、何を思ったのか。実力差を感じたことで村上が力み、打撃を狂わせた可能性は高いと読む。目の前で大谷がどんなに豪快なホーム打撃を見せても、顔色ひとつ変えることなく打席に入り快打を連発した吉田との違いがそこにあった。村上はまだ23歳と若い。同タイプの大谷への対抗心も当然あるはずだ。村上にとって2023年は、大谷の幻影と戦うシーズンになるかもしれない。
彼らとは対照的に、WBCの経験を糧に昨年以上の働きを見せる選手もいる。3度もパ・リーグの本塁打王を獲得した山川穂高(ライオンズ)をベンチに追いやりスターティングラインナップに名を連ねた岡本和真は帰国後、巨人の四番に座り、打率.301(リーグ10位)、9本塁打(リーグ1位)、23打点(リーグ9位)をマーク。坂本勇人、丸佳浩の不調が続くチームを強打で支えている。
■好調を維持するメジャー組
侍ジャパンでチームの核となったメジャーリーガーたちはみな、さすがの働きを見せている。投打の二刀流で大会MVPに輝いた大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)は開幕から全開。
5月28日時点で打率.269、12本塁打(リーグ6位)、33打点をマークしている。
名門レッドソックスの主軸を任される吉田は新人らしからぬ、堂々としたプレーぶり。慣れない環境、レベルの高い投手陣との対決など、まったく障害にならないようだ。WBCでは大会最多記録を塗り替える13打点を挙げた(打率.409、2本塁打)が、技術も精神力も世界でトップレベルにあることを自らのバットで証明している(打率.303はリーグ6位、6本塁打、29打点)。
侍ジャパンの切り込み隊長として活躍したラーズ・ヌートバー(セントルイス・カージナルス)は打率.268、4本塁打、21打点。4割近い出塁率(.383)を残している。
プロ野球はまだ3分の1の日程を終えただけ、メジャーリーグの戦いは11月まで続く(ワールドシリーズは10月下旬から11月初旬、日本シリーズは10月28日~11月5日)。故障した選手、〝後遺症〟に悩まされる選手にもまだまだ挽回のチャンスはある。
勝負はこれからだ。
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著者プロフィール
元永知宏●スポーツライター
1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て独立。
著書に『期待はずれのドラフト1位』『レギュラーになれないきみへ』(岩波ジュニア新書)、『殴られて野球はうまくなる!?』(講談社+α文庫)、『荒木大輔のいた1980年の甲子園』『近鉄魂とはなんだったのか?』(集英社)、『プロ野球を選ばなかった怪物たち』『野球と暴力』(イースト・プレス)、『補欠のミカタ レギュラーになれなかった甲子園監督の言葉』(徳間書店)、『甲子園はもういらない……それぞれの甲子園』(主婦の友社)など。