中島啓太、星野陸也、金谷拓実は、すでに新シーズンが始まっている欧州ツアーを今季の主戦場とする。
3人とも目指すは米ツアー。欧州ツアーの年間ポイントランキング上位10名に入ることで、米ツアーに主戦場を移すことができる。
久常涼が昨季の欧州ツアーで初優勝を飾り、一足早く主戦場を米ツアーに移す。久常に続く選手はこの3人の中から出てくるのか。それぞれの年間ポイントランキング上位進出のために鍵になるポイントについて解説する。
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■星野陸也の振り返りと今季の鍵
星野は、2022年の日本ツアー賞金ランキング2位によって得た欧州ツアー出場権を行使し、2023年は同ツアーを主戦場とした。
21戦して予選通過が14回。トップ10が3回。ポイントランキング81位に入り、2024年のシードを獲得した。日本ツアーで実績ある日本人選手が苦しんできた歴史をふまえると、及第点の結果だろう。
星野といえば186cmの長身を生かしたドライバーショットを武器にしているイメージを持たれやすいが、実はショートゲームでスコアを作るタイプ。
2022年の日本ツアーではパーオン率が14位だったにも関わらず、平均ストロークが1位、パーキープ率が3位、バーディ率が1位、サンドセーブ率が1位、パーオンホールの平均パット数が5位、1ラウンドあたりの平均パット数が3位。グリーン周りとグリーン上でのプレーが好スコアを支えている。
欧州ツアーでも、そのストロングポイントをある程度生かすことに成功。パーオンホールの平均パット数が42位、1ラウンドあたりの平均パット数が12位、サンドセーブ率が71位。いずれも欧州ツアー平均記録を上回った。
そして、欧州ツアーの2024年シーズンはすでに始まっており、絶好の滑り出しを見せた。これまで2戦出場してともに2位。2戦目のISPS HANDAオーストラリアオープンではプレーオフの末惜敗、という戦いだった。
2024年の欧州ツアーの星野の現時点でのスタッツは、パーオンホールの平均パット数が4位、1ラウンドあたりの平均パット数が15位、フェアウェイキープ率が6位、パーオン率が10位。持ち前のパット力を発揮し、ショットが好調であれば、安定して上位に食い込めることを証明した。
2024年躍進の鍵はそのショット力。2023年はフェアウェイキープ率もパーオン率も欧州ツアー平均を下回っていた。そして、それは平均ストロークでも欧州ツアー平均以下という結果につながってしまったが、2024年シーズンは、より多くの試合で最近2戦のような安定感のあるショットを繰り出したい。
そうなれば初Vだけでなく、複数回優勝も現実味を帯びてくる。
■中島啓太の振り返りと今季の鍵
2023年日本ツアー賞金王の中島は、日本ツアー全日程終了後の12月14日から開催された米ツアー最終予選会に出場したが、結果は振るわず、限定的なコーンフェリーツアー(米下部ツアー)出場権獲得にとどまった。
よって、日本ツアー賞金ランキング上位3名に与えられる欧州ツアー出場権を行使し、同ツアーを主戦場とすることになった。
欧州ツアーもコーンフェリーツアーと同様に、米ツアー参戦を目指す猛者たちも集う舞台。2022年の日本ツアー賞金王で、同年に2023年の中島と遜色がない結果を残した比嘉一貴は2023年欧州ツアーでポイントランキング120位と苦しんだ。
日本ツアーの賞金王とはいえ厳しい戦いが予想されるが、中島はアマチュア時代から世界で実績を残してきた。欧州ツアーではルーキーとして戦うことになるが、並みのルーキーではないはず。活躍に期待できる。
欧州ツアーでの活躍のために必要なのは事前に準備した計画を実行すること。師と仰ぐナショナルチームのガレス・ジョーンズヘッドコーチは「プロは計画がすべて」という。中島自身もメディアの取材では度々同様のコメントをしている。
ただ、それは意外に難しいもの。
星野は2022年の日本ツアーでドライビングディスタンスが14位だったが、2023年の欧州ツアーでは120位だった。
2023年の中島のドライビングディスタンスも2022年の星野と同程度の10位で、星野と同じように飛距離の差を多くのライバルに見せ付けられることが予想される。
日本では飛ばし屋の部類に入るにも関わらず、欧州では飛距離で置いて行かれる現実を突きつけられた時、計画に徹する意識が乱れることは十分に考えられる。
計画の実行に成功し、2023年に日本で見せた安定感を欧州でも見せて欲しい。
■金谷拓実の振り返りと今季の鍵
2023年の日本ツアーで賞金ランキング3位に入り獲得した欧州ツアーの出場権を行使して、2024年は主戦場を同ツアーに移す。
金谷はこれまでも積極的に欧州ツアーに出場している。2021年に6試合、2022年に11試合、2023年に6試合の計23試合。予選を通過したのは10回で、欧州ツアーで戦う面々のパワーに屈する形となっている。
しかし、2023年はそれまでに比べて成績はやや向上。BMWインターナショナルオープンで予選落ちするまでは4戦連続予選通過し、7位タイ、24位タイ、28位タイ、12位タイと、まずまずの成績だった。
11試合中、予選通過が2回だった2022年に比べると、手ごたえや自信を持って戦えるのではないだろうか。
金谷のプレースタイルはステディ。だからこそ、米ツアー挑戦の前段階として位置づけていた欧州ツアーでパワー不足を痛感したが、2023年の国内メジャーを含む日本ツアー2勝という結果により、自身のストロングポイントを再確認できたのではないだろうか。
ドライビングディスタンスやトータルドライビングの記録や順位は、規定ラウンド数に達した2020-21シーズンと比べて変わりはないものの、パーキープ率(2020-21年:89.320で1位、2023年:90.863で1位)やパーオン率(2020-21年:70.720で3位、2023年:72.953で2位)、バーディ率(2020-21年:4.130で5位タイ、2023年:4.434で3位)は向上している。ストロングポイントが強化されている。
この強化された2打目以降の精度を生かせれば、年間を通して及第点の成績を残せるのではないだろうか。
■憧れの松山英樹の背中追う
3人とも目指すは、憧れの松山英樹がいる米ツアー。一足先に欧州ツアーから米ツアーに久常が主戦場を移すが、3人とも年齢だけでなく日本ツアーでの実績も久常より上。
「自分だってやれるはず」と感じているだろう。
2024年はパリ五輪がある。この3人は2024年前半の活躍次第で日本代表入りの可能性がある。松山とともに日本代表として戦える可能性があるのだ(星野は東京五輪で松山とともに日本代表)。
米ツアー出場権獲得に向けて、そしてパリ五輪日本代表入りへ向けて。中島、星野、金谷、‟NHK”の勝負の年が始まる。
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著者プロフィール
野洲明●ゴルフ活動家
各種スポーツメディアに寄稿、ゴルフ情報サイトも運営する。より深くプロゴルフを楽しむためのデータを活用した記事、多くのゴルファーを見てきた経験や科学的根拠をもとにした論理的なハウツー系記事などを中心に執筆。ゴルフリテラシーを高める情報を発信している。ラジオドラマ脚本執筆歴もあり。