映画『氷上の王、ジョン・カリー』監督が語るフィギュアスケートとジェンダー

スポーツにおける「男らしさ」とはーー。

『氷上の王、ジョン・カリー』は、プロスケーターとして活躍したジョン・カリーさんの生涯を描く映画。栄光を見せるだけではなく、その裏にあった深い孤独や彼を蝕む病魔エイズとの闘いを描いている。実際のパフォーマンス映像と、本人・家族や友人・スケート関係者へのインタビューで明らかにしていくドキュメンタリーだ。

2020年に東京五輪を控えていてもなお、ホモフォビア(同性愛者に対する偏見)や性差別、人種差別はスポーツ界の問題として存在する。

エルスキン監督© New Black Films Skating Limited 2018/© Dogwoof 2018

本作は、スポーツや芸術の裏にある物語や社会問題をテーマにしたドキュメンタリー作品を多く手掛けるジェイムス・エルスキン監督がメガホンをとった。その上で、本作品に基づき、スポーツとジェンダーの問題について語ってもらった。

スポーツと芸術、そしてジェンダー

© New Black Films Skating Limited 2018/© Dogwoof 2018

エルスキン監督は、「ジョン・カリーの演技を5分見ただけで感動し、映画にして彼の人生を描けば多くの人の心に響くんじゃないかと、彼をもっと広く知ってほしいと思った」と話す。

エルスキン監督が感動したように、カリーさんの人生は壮絶であった。

カリーさんが生きたのは、同性愛者への差別や偏見が問題とされていなかった時代である。

バレエをやりたいと父に言ったが、「男らしくない」と許してもらえず、アイススケートを始めた。父親の死後にバレエのレッスンに取り組んだカリーさんは、スケーターでありながらもダンサーの魅力を活かし、1971年にフィギュアスケートで初の全英チャンピオンになる。

その後アメリカに渡ったカリーさんは、確かなジャンプの技術を獲得。得意とするバレエ・メソッドに裏付けされた芸術性の豊かなスケーティングの魅力もあり、1976年のインスブルック五輪で金メダルを獲得した。

それまでの男子フィギュアスケートは「男らしく」「力強い」パフォーマンスを求められていた。そんな中、カリーさんは優雅で芸術性の高い演技を繰り広げ優勝を成し遂げ天才と呼ばれた。

© New Black Films Skating Limited 2018/© Dogwoof 2018

だがメディアは「ジョン・カリーのジェンダー」を取り上げ、 彼がゲイであることを公表する。

エルスキン監督は「ホモフォビア(同性愛者に対する否定的な偏見)や性差別、人種差別は大きな問題として掲げられていて関心がとても高い。アートの世界では個性と認められる部分があるが、スポーツの世界は競技の習慣に従うことが強いられる」と違いを指摘。

さらに「芸術的な才能は大人になってから芽生えることがあるが、スポーツに関しては大抵が幼い頃からその道に進み努力をする。その中でセクシュアリティの部分は、大人になるにつれて気づくことの方が多いから、スポーツの中では受け入れが難しい」とスポーツ選手特有の悩みについて触れている。

また、カリーさんが活躍した当時、エイズは「ゲイの疾病」「逸脱した性への罰」と認識されることも多かった。それにより、同性愛者嫌悪の風潮が高まっていく。

© New Black Films Skating Limited 2018/© Dogwoof 2018

カリーさんは引退後に独立し、プロスケーターとしてアイスショーを世界各地で開いていたが、1994年にエイズによる心臓発作で死亡している。

本作の冒頭と終盤に登場するジョニー・ウィアーさんもカリーと同じく、ゲイである自分を表現するために闘ってきたスケーターだ。

ウィアーさん© New Black Films Skating Limited 2018/© Dogwoof 2018

エルスキン監督は「 カリーが与えたインパクトについて、ぜひ映画の中で語ってほしい」とウィアーさんに頼み、映画出演に協力的に参加してもらったことも明かしている。

© New Black Films Skating Limited 2018/© Dogwoof 2018

また、今後のプロジェクトについてエルスキン監督は「劇映画版のジョン・カリーのドラマが進行中で、彼の物語を別の視点から見せたい。彼の人生は別の方法で、別の観客に届けることができるはず。カリーは魅力的だから、きっととんでもない映画になると思うよ」と別の形でカリーさんの生涯が作品化されることについて教えてくれた。

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