今週末は、第70回オールカマー(GII、中山芝2200m)が行われる。
エプソムCを制したリアルスティール産駒レーベンスティール、約3年ぶりの重賞制覇を狙うバゴ産駒ステラヴェローチェ、紅一点で牡馬に相対するディープインパクト産駒サリエラなど、多彩な血統構成の馬が集結。
ここでは、馬券検討のヒントとなる「血統」で本競走を攻略する。
◆【オールカマー2024予想】過去10年のレース結果・配当・血統まとめ 傾向分析に使えるお役立ちデータ
目次
■牝馬が強いオールカマー
ヒシアマゾンとアイリッシュダンスの牝馬ワンツーで決まった1995年、3歳(旧4歳)のメジロドーベルがサクッと逃げ切った1997年(←ものスゴい勢いで直線後ろを振り返る吉田豊でおなじみ)など、以前からオールカマーは牝馬が強いレースだったのだが、その傾向は近年もさして変わらず。
中山開催近10回のオールカマーにおける牝馬の成績は【5.3.1.12】で勝率23.8%、複勝率42.9%。単勝回収率231%&複勝回収率123%と、リターンの点からも言うことなしだ。
ちょっと先にある府中牝馬Sではなく、わざわざ敢えて牡馬相手のGIIを使おうとするくらいなので、コース適性、距離適性はもちろんのこと、陣営的として力量に自信のある馬が使われるのは自明の理。使い分け云々もあるだろうが、勝算を持って使われる馬が多いのがこの成績に表れている。
好調な牝馬のうち、父サンデーサイレンス系に限定すると、【3.3.1.6】複勝率53.8%とさらに成績を上げてくる点も要チェック。上述の対象10回中、父サンデーサイレンス系牝馬の出走があったのは7回あったのだが、そのうち実に5回で馬券絡み。該当馬がいればチェックしておくのがベターだろう。
また直線の急坂を2回登るコース設定もあって、ある程度のパワーや馬力が求められるのもオールカマーの特徴。
攻略に効果的なのがデインヒルの血で、中山開催近10回の当レースにおける父もしくは母父デインヒル系の競走馬は【1.0.2.3】で複勝率50.0%をマーク。母数こそ少ないが、なかなかの好成績と言えよう。昨年は1着がハービンジャー産駒のローシャムパーク、3着ゼッフィーロの母父はデインヒルダンサーと好走馬2頭がこのパターンに当てはまっていた。
デインヒルから坂を登るためのデカいトモを受け継ぐのも好走への近道になるようだ。
■かつて凱旋門賞を夢見た素質馬
今回注目したいのは、父サンデーサイレンス系の牝馬。ここでは該当馬のサリエラをピックアップする。
父はディープインパクト、母はドイツオークス馬サロミナ。きょうだいにサリオス、サラキア、エスコーラなどがいる優秀なファミリーの出身だ。
このきょうだいは晩成傾向にあるのが特徴。確かにサリオスは早期からバリバリ活躍し2歳GIまで持っていったわけだが、あれはデインヒル・ダンジグ由来のマッチョな筋力がメインで発現していたからであってむしろ例外。
5歳夏から成績を上昇させたサラキアのように基本は歳を重ねてようやくパンとしてくるイメージ。サロミナはドイツ血脈の重厚さ&成長力をしっかり伝える繁殖牝馬という認識でいる。
サリエラも大事に大事に使われてきてただいま5歳の秋。典型的な「サロミナ成長曲線」に乗っていると仮定するならば、完成はようやく今なのでは? イメージとしては完全に全姉サラキアのそれだ。
3400mのダイヤモンドSで、長距離日本一のテーオーロイヤルにクビ差まで迫ったように、打点の高さは牡馬が相手でも十分に通用する。それがようやく完成のときを迎えたとすれば、牝馬の強いオールカマー、これは買う価値があろうというもの。
加えてサロミナの仔は牝系に入るオリオールの影響か、どうにも揉まれ弱いところがある印象。全姉サラキアがGIで馬券になったのはいずれも大外一気の競馬だった。
それを思うとフルゲートの春天からフルゲート割れ想定のオールカマーへ条件が替わるのもプラスになるはず。揉まれるリスクが低くなるので。
前走は最内枠から揉まれない外へ誘導したまでは良かったものの、そこで行きたがってガス欠というレースぶり。加えて左後ろの落鉄もあって、力を発揮できたとは言い難い内容だった。3200mのGIから2200mへのGIIへというのは条件好転で、巻き返しの余地はタップリ。
週末は雨が降る予報もあるが、サラキアの府中牝馬Sを見るかぎり、馬場が渋っても問題なかろう。何てったってドイツ牝系出身なわけで。
かつて凱旋門賞を夢見た素質馬の巻き返しに期待したい。
あとは枠と週末の馬場コンディションを見つつ、最終結論に至りたい。
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著者プロフィール
ドクトル井上
【重賞深掘りプロジェクト】血統サイエンティスト。在野の血統研究家。旧知のオーナーを中心として、セリや配合のコンサルティング業務を請負中。好きな種牡馬はダノンレジェンドとハービンジャー。苦手な種牡馬はMore Than Ready。凱旋門賞馬Ace Impactの血統表は芸術品なので、ルーヴル美術館に収蔵されるべきとわりと本気で考える三十路の牡馬。