甲子園だけではない 春夏の全国大会を失ったジュニアたちの声 テニスの未来をどう見据える

本来ならば今の時期、夏の全国大会に向けて地域予選が進められ、ジュニアたちはコートという舞台で未来へ続く戦いに明け暮れているはずだった。

高校3年生にとって、インターハイや全国大会の結果が先々の進路を決める分岐点とも言える時期。新型コロナウイルスの影響から当面夏まですべての大会が中止なり、その目標を失ったジュニアたちは今をどのように過ごしているのだろうか

≪文:久見香奈恵
元プロテニスプレイヤー。2017年引退後、テニス普及活動、大会運営、強化合宿、解説、執筆などの活動を行う。

ジュニアたちが発した声

私自身も高校時代は部活動に励み、春の全国選抜や夏のインターハイ、全日本ジュニアを目標に夢へと邁進してきたからこそ、今回の事態が気がかりで仕方がない

始まりは春の高校選抜大会の中止。部活動でテニスに励むジュニアたちからは大きなため息が溢れた。現在、18歳以下女子シングルス JTAジュニアランキング1位である木本海夢夏もその一人。部活動中のお昼休みに、このニュースを知りショックを隠せなかった。

「速報を知ったとき『まさか!』と思いました。試合ができないのも嫌だったけど、高校最後の7人制の団体戦だったから、本当に楽しみにしていたのに……中止を聞いてガッカリしました。5人制のインターハイ団体戦とは、また違うメンバーで戦う予定だったから」

木本海夢夏

切磋琢磨してきた仲間たちとコートに立てない。そんな想いが心の中で騒ぎ立てたという。部内からは、高校選抜でプレーができないことにより、今後の進学に関わる大学スカウト陣から声がかからなくなるのではないかと不安の声も相次いだ。

プロ志望の子もいる中、大半は大学進学を希望しているため、本人たちにとって深刻な問題となっている。やはり未来へと繋がる機会を失ったことは否めない。彼女は、そんな現実を目の当たりにしながら、自分自身の将来をまた一層、冷静に見つめることとなる。

木本は2年前に地元大分県を離れ兵庫県の強豪校、相生学院高等学校に入学。親元を離れ寮生活をしながら週6日の部活動に励み、めきめきと力を伸ばした。春の高校選抜大会でも主要メンバーとして全国制覇に貢献。昨年は高校2年生で全日本ジュニア18歳以下シングルス準優勝を飾り、国民体育大会でも兵庫県代表として少年女子の部で優勝の立役者となっている。

昨秋はITFジュニア大会でも活躍し「Bridgestone Tecnifibre Tour 2019 」と「Ai Sugiyama Cup」とグレード5の2大会を連続優勝し、この春からの戦いぶりにも注目が集まっていた。

昨年の全日本ジュニア決勝後、私は木本と話す機会がありその際、彼女は先々プロを目指したいと語っていた。敗戦後に少し悔しい表情を見せつつも「また頑張るから」と明るく前を向き、年明けの全豪オープンジュニア出場への意欲を燃やす。その健気な姿に、私は戦士としてたくましさを見た。それから半年後、残念ながら全豪オープンジュニア出場に届かなかった彼女は、また新たな目標を掲げ春の全国選抜を待った。

「去年から全豪オープンジュニアに出場することを目標に、ITFジュニアに積極的に参戦していました。だけどランキングがその目標には届かなくって、春の高校選抜の個人戦で優勝すれば全米オープンジュニアのワイルドカードがもらえるので、そこを目標に切り替えていました」

全国選抜では団体戦後に各チームのナンバー1選手を選出した個人戦トーナメントがあり、優勝者には全米オープンジュニアの予選ワイルドカードが与えられる。木本のようにITFランキングが大会出場ラインまでに届いていない選手にとっては大きなチャンスだった。

木本海夢夏が語った未来

こうして様々な想いを抱え、挑もうとした全国大会がなくなり、彼女の通過点であるはずの道のりが突然消えてしまった。5月からは、プロに挑戦する機会を得ようと地元九州での国内ITFプロサーキットへのワイルドカード申請を予定していたが、プロ大会も中止の判断が続き、断念せざるを得なかった。

インターハイや全日本ジュニアの中止を聞いた時も、それほどショックがあったわけではなく「やっぱりな……」と予想通りの結果に感じたという。それでは、現在どのような気持ちで過ごしているのか。

「夏の大会もなくなって、今は少しプレッシャーから解放されたような感覚があります。緊張感が減った中で生活している。あれからプロになった先輩から話を聞いたり、自分なりに情報を集めて考えた結果、今はアメリカの大学進学を希望し受験勉強に励んでいます

「以前より夢や憧れだけでなく、プロの厳しさを少し知ったつもり。プロになることは、目標の一つではあるけど、ITFツアーでの海外遠征を通じて、国際的な交流も好きだとわかったし、語学も大事だと思った。アメリカでのテニス生活に対して、パワー勝負だけでは通用しないと思うので、自分のフィジカル面を最大に活かせるように幅を広げるトレーニングをしています。今の目標は、1年目から主力メンバーとしてレギュラー入りすること

彼女は自分自身の進路の決断に、晴れ晴れとした表情で未来を語った。異文化の同世代たちと新たな時代を見据え、切磋琢磨する日々。そんな未来を描き、今を生きる。

アメリカのプロツアーでは大学生が活躍することも多く、プロに引けを取らない実力選手も多数存在する。また大学スポーツへの関心が高く、地域密着で応援してもらえることからスポーツ文化に対して感じることが変わるかもしれない。

現在、国内では高校3年生の主要大会はなくなってしまったものの部活練習は卒業する日まで続くという。「早く試合がしたい」――その衝動を胸に詰まらせながら、今までの歩みから学んだことを忘れずに日々を過ごす。

「テニスをやっていて、相手を尊敬することを覚えたかな……。相手がいないとできないスポーツなので、相手がいることに感謝するようになりました」

高校部活動を通じて日本トップを走り、世界へと挑戦しはじめたばかり。コロナ騒動での一連の流れが彼女の道を苦しめた一方で、また新たな道を自分自身で選び歩き出している。これからも木本は好奇心を絶やさず、新たな希望を見つけ続けるだろう。

≪久見香奈恵 コラム≫

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著者プロフィール
久見香奈恵
1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。
園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。
2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。

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