内山靖崇、「Uchiyama Cup」の開催に奮闘した日々 自粛期間に向き合ってきた時間

緊急事態宣言が解除され、徐々に人々は新たな生活へと移行し始めている。スポーツ界も新たな幕開けとして徐々に復活の兆しが見えてきた。

デ杯日本代表として戦う内山靖崇もナショナルトレーニングセンターの再開に伴い、練習をリスタートさせた。自身のテニスの感覚を見失わないように、そして復帰後に世界トップと張り合える力を蓄えるかのようにコートで身体を動かしている。

「テニスを楽しめるように良いモチベーションを維持しながら練習しています。まだ分かりませんが、今の世界の状況を見ていると今季はツアー再開が難しいかもしれませんね

≪文:久見香奈恵
元プロテニスプレイヤー。2017年引退後、テニス普及活動、大会運営、強化合宿、解説、執筆などの活動を行う。

世界ツアーの行方

冷静に世界ツアーを見つめる内山は、この現状を踏まえ週3、4日の練習量をコントロールしていた。この取材の数日後、8月から世界ツアーが再開されるニュースが飛び込む。トップ大会はアメリカからヨーロッパへ移動し、毎週のようにビッグトーナメントがスケジュールされた。

これには選手たちも驚きを隠せないだろう。世界情勢と共に遠征事情も常に変わるテニス選手の生活だが、私自身も日々のニュースを見る限り、いまのアメリカに世界中から選手が集まり、大会が開催できるのか不安に感じることの方が多い。内山もツアー再開発表前に、その点に関して危惧していた部分がある。

「テニス選手は世界を渡り歩くので、今のままではリスクがある。アメリカはスポーツ選手を受け入れると言っているけれど、僕たちはアメリカの大会で終わりではなく、また他国に遠征に行くし、母国の日本に帰ってくる。もし感染してしまったら大変なことになるじゃないですか……。ワクチンが出来たり、解決策がないと、このまま再開したところで手放しに喜んでツアー復帰する気持ちにはなれないかな。トップの大会だけができても意味がないですし、チャレンジャーやフーチャーズも含めてできるようにならないと世界ツアーは成り立たないと思うので」

ツアー下部のITF大会も同時期に再開を決定したが、グランドスラムやツアー大会と違い大会資金も限られているため、どこまで感染予防の対策が取れるのかが不安な部分である。ツアー再開と共に、選手たちのモチベーションは戻ってくるだろうが、安心できる解決策がない限り、世界転戦への困惑は募るばかりだろう。

内山靖崇が向き合ってきた3ヵ月間

(c)Getty Images

内山にとってこの3ヶ月間の自粛期間は、自身が主催する「Uchiyama Cup」の準備や、男子プロテニス選手会の活動、新たにYoutubeで始めた「うっちー教室」を展開し、ツアー生活とはまた違った時間と向き合っていた。

「コロナでの中断をポジティブに捉えるなら、Uchiyama Cupの準備を進められたのは良いことだったかもしれませんね」

彼の故郷である北海道札幌市で9月開催予定の「Uchiyama Cup」。彼自身が大会の発案者であり、トーナメントディレクターとして大会を築く。総額賞金は300万円。世界ツアーを周る現役選手が作る大会として注目が集まっている。

大会開催を発表した3月からは、スタッフとのミーティングやスポンサー探しに奔走し、現段階では最低限の資金確保に成功したという。今後もスポンサー探しは続き、参加選手にとってより良いホスピタリティーを提供したいと意気込んでいる。ただ一つ気がかりなのは、北海道のコロナ感染状況に伴う大会関係者の人数のことだった。

「当初の計画のままだと大会関係者の人数が200人を超えてしまい、密な環境を作ってしまうかもしれないと感じました。北海道もまだ予断を許さないだろうし、現地スタッフの方とも相談をしてITFのガイドラインを参考に準備を進め、参加人数を変更することにしました」

当初予定していたシングルス本戦64名(予選64名)、ダブルス本戦32組(予選16組)の参加人数から、シングルス本戦32名(予選32名)、ダブルスはキャンセルと変更になった。シングルスの孤高の闘いの面白さと同時に、ダブルスの本当の楽しみ方を知っている内山にとって、ダブルスキャンセルは苦渋の決断であったことは間違いないだろう。

しかし、JTAの選手登録さえしていれば、ジュニアの選手からベテラン選手の誰もがエントリーできる賞金大会。育ててくれた北海道への恩返しとして、テニスファンから後世のジュニアたちまで楽しんで大会に出てほしいと内山は願う。

(c)Getty Images

6月に入ってからはYouTubeで「うっちー教室」を始めた。ポップな音楽とともに始まるテニス講座は初級から上級までレベル分けしてあり、練習方法やアドバイスをレクチャーしている。「テニスの面白さを伝えたい」、その意識がチャンネル開設に繋がった。

「今まで様々な場所でテニスファンの方々からアドバイスを聞いてもらうことが多かったので、もっと全国の人に伝えたいという気持ちが後押ししました。このコロナの件でテニススクールに通うことができなかったり、テニスから離れちゃう人たちもいるかなと思い、テニス上達のツールを簡単に提供したいと考えて始めました」

「プロになってから、スポンサーやコーチ陣にサポートをしてもらう側になることが増えてきたんですが、やっぱりサポートしてもらうだけでなく、試合でのパフォーマンス以外にも自分からアイディアを出して行動していきたい。いつも応援してくださる方々に自分から何か提供することがすごく大切なんじゃないかと感じています。いろんな選手が、コロナをきっかけに動き出しているのが見えるし、選手発信で動き出すことは今後のテニス界にとってもプラスになっていくと思います」

「その先のことは、またその時に考える」

幼少期からテニス一筋で人生を歩んできた内山。北海道を飛び出し10代でのアメリカのIMGへ留学、それからスペインを拠点に活動した経験を重ね、現在世界90位にまで駆け上がっている。今は自分の夢だけでなく、業界の発展を願い、地元に大会も作ることで、後世である若者たちの夢を育める場所まで生み出した。これほど素晴らしい道はあるだろうか。今回の大会設立から、他の現役選手たちも刺激された部分は大いにあるはずだ。

そんな彼の身近な目標は、ATPランキング50位以内に入ること東京五輪への出場だ。昨年末から今年はじめにかけ、ガエル・モンフィス(9位)やジョーウィルフリード・ツォンガ(29位)との対戦で、チャレンジャー大会では感じられないレベルの高さを体感したという。この選手たちに勝利するためにも、今後の鍵はリターンゲームだと課題を絞っている。

元々、遠すぎる目標は作らない。目先の現実に向けて、一歩一歩進みたいと彼は語った。

「トップ100に入る前も、50位以内や10位以内に入ろうとかあまり考えていなくて……その立場になれば、そのレベルでの課題が見えてくると思うので。今の自分では50位だったら狙えるんじゃないかと感じています。今はそこを目指しています。その先のことは、またその時に考えます」

そう優しく少しはにかみながらも、地に足を付け、実際に目標をクリアしていく姿はとても勇ましい。世界を股にかけて自身の道を堂々と進み、これからたどり着く先に、次のレベルの課題が待っている。また、「Uchiyama Cup」の存在から、“次世代の内山”と呼ばれる未来のスターが北海道から出現する日も遠くないだろう。

≪久見香奈恵 コラム≫

甲子園だけではない 春夏の全国大会を失ったジュニアたちの声 テニスの未来をどう見据える

上地結衣の無我の境地 高い集中状態にたどり着くための“準備力”

完全無欠の女王・上地結衣 愛くるしい笑顔と強さの秘密

添田豪、選手会会長としての責任から生まれる新しいドラマ 【コラム】

著者プロフィール
久見香奈恵
1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。
園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。
2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。

この記事が気に入ったらフォローしよう

最新情報をお届けします