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テニス日本ランク1位、日比野菜緒 『BEAT COVID-19 OPEN』でファンへ感謝を

テニス日本ランク1位、日比野菜緒 『BEAT COVID-19 OPEN』でファンへ感謝を
(c)Getty Images

「選手が大変な想いをしているだろうから、何かしてあげたいと思ってくれる人がいること。もうそれが本当に幸せで……。そして段階を経ていくごとに、資金もすごく集まってきて、私たち選手がプレーできるようにと沢山の方々がサポートしてくれているんだなって思ったら、感謝という言葉で言い表せないほど、本当に有難く幸せなことだと思いました」

現在日本ランキング1位の日比野菜緒は、心からの想いをそっと緩やかな口調で話し出してくれた。国内では緊急事態宣言明けの初めてのスペシャルイベント大会として『BEAT COVID-19 OPEN』が7月1日から3日まで開催される。会場は兵庫県三木市のブルボンビーンズドームとなり無観客試合での進行。全試合ネット配信が決定している。

≪文:久見香奈恵
元プロテニスプレイヤー。2017年引退後、テニス普及活動、大会運営、強化合宿、解説、執筆などの活動を行う。

ファンに支えられる、選手たちの力

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大会まで約1週間、日比野は、感謝の想いをボールに乗せサポートしてくれた方々に向け、より良いプレーをしようと心に決めていた。

この大会はファンと一緒に作る大会として、必要な資金をクラウドファンディングで募っている。まさに新しい大会作りとして注目を集め、現在は550人のサポーターが大会を支援し700万円以上の資金が集まった(6月22日時点)。

集まったお金は大会運営や選手の賞金として活用され、支援してくれたファンには後日プロ選手と練習ができたり、大会グッズのリターンを用意している。他には、リモートで直接会話できるプランなど参戦選手からの提案もあり、運営側、ファン、選手とみなが関わりながら大会開催に向かっている

大会を企画したのは山根太郎氏。元テニスプレイヤーとして青春時代にテニスに打ち込み、現在は株式会社サンワカンパニーの代表として会社を経営している。大会委員長である元デ杯監督である竹内映二氏とは、山根氏のホームコートであったテニスラボでの師弟関係があり、このコロナ渦で国内選手たちに何かできないかとタッグを組んだ。

日比野も今大会があると知った時は、「試合に向けてテニスを仕上げていこう」と練習に熱が入ったという。

試合でお客さんに喜んでもらう為に頑張りたい。それが彼女のテニス人生を支えるひとつのエネルギー源であり、観ている人を沸かせるプレーができてこそプロとしての実感が湧く。今回の山根氏と竹内氏の情熱が大会をスタートさせたことで、選手はこのツアー中止期間にわずかな光を見出したと言える。日比野もその恩恵を受けた一人であり、今大会の資金サポートをしたファンの力が選手を蘇らせたといっても過言ではない

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「コロナで大会がなくなって、練習だけする日々に自分の価値に対して自問自答することもありました。モチベーションを保つのが難しい時も。でも、今はこの大会が目標となり練習中にピリピリするほど緊張感も戻ってきました。プロは、お客さんに試合を観てもらってこそ価値があると思っていました。今回みたいに500人以上の方が私たちのプレーを楽しみにしてくれている人がいるんだ! そう思えただけでも、今までの練習は無駄じゃなかったし、この自粛期間中にやってきていたことも、自分の中で整合性を取ることができました」

好きなことを仕事にし、テニスに明け暮れる毎日に「社会の為になっているんだろうか?」と思い悩むこともあるという。ただ今回はサポーター数や集まった金額が数字として目に見えたことで、また自身の仕事を素直に頑張ろうと思うことができた。

大切にしている「ワクワクすること」

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ツアーが中断になってからも「再開した時には、誰よりも一番上手くなっていようね」とコーチと気持ちを確認し合い日々を過ごしてきた。自己最高のパフォーマンスを目指し、思い描くプレーに近づくため地道な練習を積んでいる。

「今は相手よりもいかに早くコートの中でプレーできるか。ということに重点を置いて練習しています。ポジショニングも確認しながら、毎日嫌になるくらいコントロール練習もしましたよ。いかに正確にボールを配球できるか、それがやりたい戦術に繋がるし、とにかく地道にやってきました。上手くなった自信はあるんですよ。はやくそれを試合で発揮したいですね!」

穏やかな口調から、笑いながらも勝負師の強気な日比野の顔がヒョッコリと顔を出し始める。2013年にプロ転向。勝つことでしか生き延びることができない勝負の世界に身を置いて8年間。存分に真剣勝負を楽しみながらも、結果と同じく成長していく過程をとても大切にしている。

「大切にしていることはワクワクすること。何よりもワクワクに勝てるエネルギーはないと思ってるんですよ。どれだけ勝とうとか勝たなきゃいけないとか考えている時よりも、課題に対してその気持ちが働いている時が一番楽しんでいると思う。そしてテニスをしていて幸せを感じている時だなって。

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やっぱりツアーが始まると、どうしても結果に気がいっちゃうので難しい時もあるんですけど……。でも結局、結果が出ている時って自分の上達にワクワクしているときなので、いつもこの気持ちを忘れないようにしています」

勝負への執着と求めているプレーの出来が鬩ぎ合うことは、プロである限り永遠に続くテーマだろう。だがグランドスラムを戦い、ツアー優勝や五輪出場も経験しながら日比野は自身が一番成長する方法に気づいた。

苦しい日もある。けれど幸せを感じさせてくれるテニスは、彼女自身の人生になくてはならない存在になっているはずだ。そして今、ツアー中断時の日々にも喜びを見出し、コートに立ち続けることを選んでいる。

「昔も今も変わらない目標は五輪でメダルを取ること。でもその中で以前と少し変わったなと感じることは、結果よりもチームで取り組んできたことがいかに出来るようになっているか、成長を確認するようになりました。これは試合のときだけでなく日々の練習からもです。チームで同じ方向を向いて頑張って『これが出来るようになったね!』『これでいいね』と過程や成長を分かち合える瞬間がとても大切になりました。それが上達につながって結果になると、今は確信があります」

このツアー中断期間にも取り組んできた課題を試すのは、先ず目の前の『BEATCOVID-19 OPEN』だ。ファンへの感謝のプレーと同時に、また新たな成長を遂げた日比野から目を離すわけにはいかない。

≪久見香奈恵 コラム≫

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著者プロフィール
久見香奈恵
1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。
園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。
2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。