【野球】DH制導入でも巨人がソフトバンクに勝てない歴史的裏付け

2021年最初のセ・リーグ理事会が19日、東京都内で行われ、巨人が提案してきた指名打者(DH)制の導入は、昨年12月14日の提案同様、見送られたかたちとなった。各スポーツ紙が20日、一斉に報じた。

セ・リーグへのDH制導入は2019年、日本シリーズで巨人がソフトバンクに4タテされ惨敗したことから、原辰徳監督の口に上ったのが発端。パ・リーグは2000年以降、日本シリーズで15勝6敗とセ・リーグを圧倒。また、2005年にセ・パ交流戦が導入されて以降、2019年までに(2020年は新型コロナウイルスの余波により中止)パ・リーグが14回勝ち越し、12度優勝チームを輩出、1098勝966敗とし、「実力のパ」を印象付けている。

現在、このセ・パの実力差は「DH制の活用によるもの」という論調が展開されているが、そこに論拠はあるのだろうか。

そもそもパ・リーグによるDH制導入は、当時「人気のセ、実力のパ」という言葉が存在した通りパ・リーグの人気低迷に起因。今となっては遠い昔、46年前の1975年に導入された。

これを冷静に振り返ると「DHがあるからパは強い」という結論付けは、あまりにも軽率で根拠が薄いと一蹴すべき問題とわかる。

1975年以降、1999年まで、日本シリーズにおけるセ・パの対戦成績は、パの13勝12敗となっており、特にDHの導入により「パが強くなった」との結論には至らない。むしろ、パ・リーグとしてはこの間、西武の黄金期があり、13勝のうち8勝を西武が稼いでいる。

実は2000年から2009年の10年ではパの5勝5敗。まったくのイーブンだ。

しかし2010年以降はパの10勝1敗で、2012年の巨人のみがセの日本一チーム。もっともパの10勝のうち7勝がソフトバンクのもの。「パが強い」よりも、むしろソフトバンク一強時代と表現すべきだろう。

ソフトバンク 巨人のいい部分取り入れて強化に成功(出典:日刊スポーツ)

■MLBワールドシリーズの戦績にDH制による差異なし

DH制はそもそもMLBで1973年にスタート。ア・リーグは当時、投高打低の時代、つまり得点が極端に少ない試合が多くなっており、これが観客数の伸び悩みに繋がっていると判断したオーナー陣が導入に踏み切った。なにしろ1960年代の後半、ア・リーグのシーズン平均打率が2割3分という時代もあった。1968年には打率.301の首位打者が誕生したほどだ。DH制の着想には頷ける。

さて、「DHがあるからパが強い」の論調にはまったく根拠がなさそうな数字がMLBにはある。1973年の導入以降、ワールドシリーズの成績は、ア・リーグの25勝22敗となっている。ア・リーグ制覇には、オークランド・アスレチックスの3連覇や、デレク・ジーターマリアノ・リベラホルヘ・ポサダアンディ・ペティットバーニー・ウィリアムスの「ファブ5」を中心にしたニューヨーク・ヤンキースの黄金期も含まれている点を加味しても、両リーグの実力差を決めつけるのは難しい。

つまり本家アメリカでは、このDH制を持ち出し、ア・リーグが強いという論調はない。

この例を持ち出すと「日米では違う」とムキになる輩もいるが、野球のルールに差異はなく、DH制の有無によってリーグの強弱を決定つける根拠は皆無。つまり、個々のチーム強化の課題を単純にDH制になすりつけようとしているに過ぎない。

■「パにはパワーピッチャーが多い」はまったくの誤解

「DH制によりパ・リーグにはパワーピッチャーが多い」という論調も、懐疑的だ。昨年12月13日、NHKではデータスタジアムの数値を掲示した。これによると、ストレートの平均球速はセが145.5kmに対し、パが144.5kmとほぼ誤差の域。また最速150km以上を計測する投手の数もセ88人に対し81人と、パにパワーピッチャーが偏っているというデータはない。

つまりパ・リーグ球団が強いという傾向は、DH制によるものでも、DHに対応するため、パワーピッチャーが育ったためでもない。

巨人によるDH制導入提案が12月に続き今回も否決された背景には、残り5球団にとって、こうした根拠のない巨人主導の論調には賛同しかねるという実情があるのではないか。DH制を導入することで登用できる選手数も増える。巨人のように潤沢予算により人材を抱え込むチームが優位に働く点も予想できる。

プロ野球の公式記録データベースに長く携わってきた者としても、ルール改正によるシステム改修は容易ではない点は指摘しておく。オーナーの気分により、シーズン中にDH制を導入されたり、引っこ抜かれたりという事態を生めば、現場、つまり審判部や、記録部にとってもいい迷惑。数字を大事にする野球というスポーツとして、記録の均一化を損なう側面もあるだけに、現場からの反発も想像される。

新型コロナウイルス禍において、選手の負担を避けるために、DHを暫定的に導入しようという論調はまだ理解できる。実際、MLBでも新型コロナウイルス禍、変則スケジュールの余波を受け2020年、2021年シーズンともにナ・リーグもDH制を採用。

しかし、巨人が日本シリーズで8連敗したからといって、DH制を導入すればセが強くなるという短絡的な発想が、球界を取り巻いている。巨人の提案に対しても賛同する外野は多いが、数字的根拠や論拠とするロジックを示す者は皆無だ。

日本球界は、我田引水があわよくば正当化されてしまう“閉じた世界”である点、相も変わらずとすべきか。

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著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。

著書に『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』、『麗しきバーテンダーたち』など。


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