テニス界に新女王誕生、大坂なおみの四大大会決勝勝率から眺める今後…… 

GS4個目の優勝トロフィーを手にした大坂なおみ(2021年2月20日) (C)Getty Images

大坂なおみは日本人である。黒人であり、ハーフでもあり、活動家でもあり、テニスプレーヤーである。そして、テニス界の新女王だ。

大坂は2021年の全豪を制し、テニス界の頂点におけるグランドスラムで4度目の優勝を果たした。準決勝でセリーナ・ウイリアムズ(米)を、決勝でもジェニファー・ブレイディ(米)をストレートで下し、あまりにも簡単そうに2度目の全豪優勝を成し遂げてしまったがゆえに、「四大大会」での優勝も当然…という錯覚さえ起こしかねないレベルまで上り詰めた。

◆日本人が知らない人種差別と戦う大坂なおみの偉業

■もう一度、GS制覇で「名選手」と並ぶ

グランドスラム4回…これがどれほどの戦績なのか、今一度思い起こすべきだろう。大坂は「日本人として」という狭いくくりでは、初めて四大大会のひとつを制した選手となったが、それ以前、日本人として初めて決勝へコマを進めた錦織圭全米準優勝が、どれだけの偉業に映ったことか…。

4回。現役女子選手では、アンゲリク・ケルバー(独)の3回を抜き、なんとセリーナ(実に23回)、ヴィーナス・ウイリアムズ(7回)に次ぎ、キム・クライシュテルス(ベルギー)とならぶ3番目の優勝回数となった。

過大な予見は笑い話の元ながら、もし大坂がもう一度GSを勝ち取ったとすると5回となる。過去5回GSを制した選手には、マリア・シャラポワ(露)、マルチナ・ヒンギス(スイス)の名がそろい、それは引退後も「名選手」と称賛されるレベルだ。

ちなみにヴィーナスのGS制覇は、今のところ2008年が最後。現在40歳という年齢を考えると、今後の積み上げはそれほど期待できるものではない。一方、マーガレット・コート・スミス(豪)が持つGS最多勝24まで、あとひとつに迫りながら、意外なことにセリーナも2017年の全豪で23勝目を挙げて以来、GS制覇からはもう4年も遠ざかっている。

今大会でも準決勝で大坂にストレート負け。打ちひしがれた姿で記者会見に表れたセリーナは大会会場を去る際の挨拶について「まるでサヨナラのようだったが」と記者に問われると「もしサヨナラなら、誰にも言わない」とコメント。ついには「もう終わり」と会見を打ち切ってしまった。

■大坂の凄さを物語るGS優勝確率

17 年の全豪以降、GSの覇者はのべ15人(2020年の全英は新型コロナの影響により未開催)。このうち複数回の覇者は、シモン・ハレプ(ルーマニア)の2回と大坂のみ。

つまり、我々日本人は大坂に対し常に「日本人」というカテゴリーに押し込めがちではあるものの、女子テニス選手として、大坂は今日を代表するプレーヤー、つまり現代テニスの「新女王」の地位に躍り出たことを意味する。

彼女の凄さを物語るもうひとつの数字がある。大坂は今回の全豪を含めWTAツアーで7勝を挙げているが、おわかりになる通り、GSで4勝ほかツアーで3勝と、GSでもっとも成功を収めている。これがいかに奇妙な数字であるかは、WTAツアー歴代最多の勝利数を誇るマルチナ・ナブラチロワ(チェコ)の戦績を振り返るとわかる。ナブラチロワは、シングルスで167勝を挙げ、うちGSは18勝。18勝は、コート、セリーナ、シュテフィ・グラフ(22回・独)、ヘレン・ウィルス・ムーディ(19回・米)に次ぎ、またクリス・エバート(米)とならび歴代5位の優勝数に相当する。大坂のGS優勝確率は、まさに「よもやよもや」である。

優勝の瞬間、歓喜の声を上げた大坂なおみ(2021年2月20日)(C)Getty Images

さらに大坂はGS決勝に4度進出し4勝と勝率10割を保持。これはモニカ・セレシュ(ユーゴスラビア)が1992年全仏まで、決勝で6戦6勝と部類の強さを発揮、それ以来の歴史的勝率でもある。セレシュは93年の全豪までGS決勝9戦8勝とすさまじい強さを誇った。彼女はこの後、スポーツ選手にとっては悪夢とも思われる「プレー中、暴漢に背中を刺される」という信じられない事件の被害者となった。この事件後、心的後遺症もあり2年を棒に振り復帰後もわずかに96年の全豪を制したのみ、キャリア9勝に終わってしまった。テニス界最大の悲劇としてオールドファンの間では語り継がれている。現在、ゲームブレイクの間、選手ベンチの後ろに警備員が立つようになったのは、この事件がきっかけだ。

それでもセレシュのGS決勝は9勝4敗。全仏では16歳6ヵ月の最年少優勝記録を持ち、17歳3カ月での世界ランキング1位に上り詰めた選手だけに、「あの事件さえなければ」と思わせる選手だった。

■「なおみちゃん」から「新女王」へ

全豪制覇は2年ぶり2度目(2021年2月20日) (C)Getty Images

少し話が逸れたが、つまり大坂は、現在そのセレシュが歩んできたキャリアをなぞるという、とんでもない強さを発揮している。

試合後、日本メディア向けに日本語で「勝ったよ」などと愛くるしく応えてはいるものの、2018年に全米を初制覇した際のどこか精神的脆さを抱える少女ではすでにない。昨年の全米では人種差別に抗議する形で、毎試合別の犠牲者の名を記したマスクをし登場。その是非が問われ続ける中、2度目の全米制覇を果たしてしまった。

他選手からもすでに「コート上のロールモデル」とまで名指しされる存在。それでありながら、試合中サービス前には、必ず対戦相手にボールを見せ、誠意を示す。また勝利後のネット上での握手前には、つい「会釈」してしまう日本人らしい仕草もあり、そのギャップがまた敬意を集めている。

全米オープンの公式Twitterは、すでに「大坂なおみは引退までに、グランドスラム○勝を挙げる」というクイズまでアップする始末。

かつての「なおみちゃん」は、もはやテニス界の「新女王」と形容するに相応しい。

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著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。

著書に『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』、『麗しきバーテンダーたち』など。


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