【ダンス】東京ガールズからNBAデビュー チア・リーダーズが挑む夢の先の物語「笑顔でつなぐ未来」

 

日本において、スポーツを「スポーツ・エンターテイメント」と表現するようになったのはいつ頃からだろう。単にスポーツと言うより深みがあって素敵な言葉だが、その言葉のイメージにぴったり合う競技を述べよと言われると、それは野球なのかサッカーなのか? 

どちらも間違いなく奥深いスポーツではあるが、エンターテイメントかと言われると少々自信がない。エンターテイメントと言うからには、当然、競技の勝ち負けのみならず、娯楽性の高いものであることが望まれる。「競技」と「娯楽」が掛け合わされた“ボリューミー”な見応えがあるべきだ、と考えてしまうのだ。

その点、エンターテイメント・ビジネスの本場アメリカでは、実際に現地に行って観戦するとより実感できるのだが、その盛り上がりの凄さは驚愕もので、試合内容はもちろんのこと、観客を楽しませようという姿勢や仕掛けが徹底している。そんな競争厳しきスポーツ・エンターテイメントビジネスのフィールドにおいて、長い歴史と共に培われてきた文化の一つがチア・リーディングだ。

■「チア・リーティング」という言葉の正しい意味

ここで少々注意したいのが、チア・リーティングという言葉の認識である。チア・リーディングは、チア・アップのリーダーによって行われる。即ち、日本語に直訳すると「応援の責任者」が正しく、つい、チア・ガールとチア・リーダーという言葉を、ほぼ同様のニュアンスで使ってしまいそうになるが、あらためてその意味に触れると、確かに、応援する「女子」と「責任者」では受ける印象がかなり変わってくる。当然、その責を負っている側の自覚も大いに異なるということだ。

本人提供

アメリカの3大プロ・スポーツであるアメリカンフットボールやバスケットボールにおいて、観客を盛り上げ、戦う選手を鼓舞し、その闘志を後押しするという役目を負ったチア・リーダーはとても重要な存在だ。そして、NBAやNFLのファンは、それぞれの競技はもちろんのこと、ハーフタイムに行われるチア・リーディングを心から楽しみ、共に応援に力を込める。

プロ並みの人気を誇る米国の大学スポーツリーグNCAAでも、チア・リーダー達は、選手と並んで学内トップの人気者だ。

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東京ガールズは、日本で初めてNBAスタイルを本格的に取り入れたチア・リーダーズとして2010年に発足した。当時のメンバーは8割以上がアメリカ人でのスタートだったが、現在はNBAスタイルの特色を残しつつ、さらなる進化を目指し、全員が日本人で構成されたチームとなっている。

今回取材のお二人を紹介したい。東京ガールズ代表の柳下容子さんは、2003年からNFLのサンディエゴ・チャージャーズ(※現在は本拠地をロサンゼルスに移転)、2005年からNBAのロサンゼルス・クリッパーズのチア・リーダーとして活躍した後に帰国。2006年からは故郷の新潟を本拠地とし、JリーグとBリーグを運営するアルビレックスのチア・リーダーズのディレクターなど、多くの経験と実績を持ち、東京ガールズ発足時からのプロデュースも務める、日本のチア・リーディング界を牽引するキーパーソンだ。

そして、東京ガールズ所属2年目のANZUは、8月8日に見事、NBAのデンバー・ナゲッツ・ダンサーズのオーディションに合格したばかり。コロナ禍というご時世のため、各自リモートでの取材となったが、この文字通りホットな二人から、チア・リーディングの真髄を聞くことができた。

■東洋人的ルックスに自信が持てなくとも「逆にそれが武器になる」

デンバー・ナゲッツ・ダンサーズに合格したANZU(左)と東京ガールズ代表の柳下容子さん 撮影:SPREAD編集部

日本人で初めてNBA、NFL両方のチア・リーダーを経験してきた柳下さんだが、アメリカのチア・リーディングというのは、いったいどのようなものなのだろう。

「NFLスタイルのチア・リーディングは、他のチアと比べると、とてもダンサブルなところが特徴です。そして、アクティブな大きい動きで演技を構成します。時には8万人から11万人のフィールドで披露するので、全ての観客に向けてダイナミックに展開しなくてはいけませんし、観客からの期待も大きく、魅せ方も年々進化しています」

確かに、前回の取材からいくつもの東京ガールズの動画を見てきているが、筆者がそれまで抱いていた「ダンスというよりは、音に合わせた組体操的なもの」というチア・リーディングへのイメージは、彼女達のダンサブルでミュージカリティに溢れた演技ですっかり吹き飛ばされ、毎回新鮮な驚きと共に魅了されている。

そんな素敵な東京ガールズから飛び出して、NBAに挑戦したANZU。チームのなかでもひときわダイナミックで、ストレートで素直なバイブレーションを感じさせる素晴らしい踊り手だ。だが、当人曰く、最初はNBAへの漠然とした憧れがあるだけで、自分の東洋人的ルックスなどにも自信が持てなかったという。

しかし、柳下さんを始め、まわりのコーチにも「逆にそれが武器になる」と励ましをうけ、西洋人にくらべて小さく見られてしまう体形は、トレーニング方法を自重から機械式の負荷に変えるなどで補っていき、コンプレックスだったルックスはメイクアップの勉強をし、衣装の試行錯誤も重ねた。そして、常に海外の様々なチームのレッスンやウェビナーを受け続けるなど、出来る限りの努力を積んでいった。そのうちに、並みいるNBAのチア・リーダー候補とも「対等に戦える」と思えるようになったという。

「時には、どんなに頑張っても自信が持てず、そういう自分に落ち込むこともありました。でもそんなときにはチーム・リーダーがいつも連絡して励ましてくれて。そのお陰で、『このままじゃ、みんなにも負けちゃうし、自分にも負けてしまう』と奮起して頑張れました。

コロナの影響で対面のレッスンは減りましたが、海外のワークショップなど、かえってオンラインで受けられるものも増えて、色々なチームのダンスやテクニックも学べたこともよかったです」

ANZUの成長を見守ってきた柳下さんは、彼女の粘り強さ、そしてコロナ禍という逆境のなかでも、立ち止まらず努力を重ねるという“才能”が際立っていたと語る。現在のANZUは、東京ガールズの活動もしながら、リモートでデンバー・ナゲッツ・チアリーダーズに振り写しをしてもらい日本で練習しているが、9月中旬からは渡米し、対面での練習も始まる。近い将来NBAの舞台から、さらにダイナミックになった演技で元気と勇気を届けてくれるだろう。