■スピードと独特のパスセンスで今季も存在感発揮
もちろん、河村自身にとって一番大事なのはコート上でどれだけ高いパフォーマンスを見せ、「選ばれし者」たる力量を示していくことだ。昨季は自身のスタイルとチームから求められる役割の間で乖離があり苦戦したが、今季はコートを広く使って得意のドライブからリングをアタックする、もしくはそこからパスを出すというプレーぶりで上々の活躍をしている。
今季は12月末の加入からここまで13試合に出場し、すべてベンチスタートとなっているが、平均22分弱の出場時間で平均10.5得点。アシストに関してはまだ出場試合数が少なく「規定打席」には到達していないものの5.9本はB1でトップクラスだ。75.1点だった河村加入前の横浜BC(現在13勝21敗で東地区の8位)の平均得点は、加入後には79.2点へと上がっており、アシストも19.9本から21.1本へと増えている。河村というスピードがあり独特なパスセンスを持つ選手が入った効果は、確実に表れている。
特別指定選手としてプレーするのも3年目となり「途中から加入して途中で抜けていくことの難しさやプレーの仕方はだいぶわかってきた」と河村は言う。来季は自身のBリーグキャリアでは初めて、シーズン前からフルに活動参加が可能となる。選手が、とりわけ司令塔で数々のフォーメーション等を覚える必要のあるPGが、シーズン前の合宿から活動に参加し、開幕から出場することで、より十全に力量を発揮できるようになるだろう。
河村自身も「(どれだけ力を発揮できるかは)ヘッドコーチやチームの方針もあるので何とも言えないのですが、でもチームとのケミストリーを築いていけることは良いことですし、よりプレーをしやすい環境にはると思います」と語っている。
先月には今年、中国・杭州で開催のアジア競技大会へ向けた日本代表候補合宿にも招集された。これまでU16、18といった世代別の代表経験はあるものの、A代表の候補となったのは初めてだ。
しかし世界のバスケットボール界を見渡すと、20歳は必ずしも若いとは言えない。現在はNBAでプレーするリッキー・ルビオ(インディアナ・ペイサーズ)やルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)などはスペインリーグ時代16歳でシニアプロデビューしている。またNBAでも大学に1年だけ通ってプロ転向をする選手たちは後を断たない。
■プロ宣言で始まった“真の挑戦”

(左から)白井英介ビー・コルセアーズ代表取締役、河村、竹田謙ビー・コルセアーズGM(C)永塚和志
焦りはないとする一方で、パリ五輪出場等を見据えた時にできるだけ若い段階でトップレベルの環境に身を置き、経験を積みたいと、決断を下すにあたって河村は考えたはずだ。また、東京五輪で指揮官として日本女子代表を史上初の銀メダルという快挙に導き、昨秋、今度は日本男子代表のヘッドコーチ(HC)となったトム・ホーバス氏の標榜するバスケットボールスタイルが自身に合うと見込んだ部分もあったかもしれない。
男子代表は東京五輪までアルゼンチン人のフリオ・ラマス氏がHCを務め、同五輪では身体の大きい世界の対戦ということでPGの先発ポジションには純然たる司令塔ではなく本来シューティングガードの田中大貴(アルバルク東京)を採用した。しかしホーバス氏の場合、PGには身長の高さをそこまで求めず、女子代表でもそうだったようにスピードと、選手とボールの連動性を重視する方針で、身長172センチと小柄な河村もそこでより高い選出のチャンスがあると見ているに違いない。
「ホーバスHCのバスケスタイルは、まだまだ(自分も)やっていないことはありますが、自分もフィットしていると思います。一番は自分の年齢を考えて、パリ五輪が狙えるだけの時間もまだあり、決断をしたい気持ちになりました」と代表としての心構えを語った。
河村はこれまで、同じポジションということもあって、しばし田臥勇太(宇都宮ブレックス)を尊敬し、目指すべき存在であるとその名を口にしてきた。
現役ではいるものの、40歳となった田臥の力は落ちていて、今では出場時間も相当に少なくなっている。八村らの名前も良く報じられるが、それでも「バスケットボール=田臥」という印象が未だに根強いのは、日本のバスケットボールの人気や盛り上がりが「まだまだ」であり、その後に田臥に取って代わる存在がでてきていないことを示しているとも言える。
河村という新進気鋭のスター選手がプロ宣言を果たし、ここからどこまでそうした印象を変えていくか……。
河村勇輝の、バスケットボール選手としての真の挑戦が始まる。
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著者プロフィール
永塚和志●スポーツライター
元英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。