■北谷高校で加藤監督への恩返し
29歳で教員免許を取り、豊見城南高校を経て35歳の1989年から11年間在籍した北谷高校では赴任して9カ月で県大会を制した。
能代工業高校の加藤監督に電話を入れ、毎年5月3日から5日の連休中に開かれる「能代カップ」への出場を打診すると快く参加を受け入れてくれた。
能代工業を含む、招待された国内の強豪校6校がリーグ戦で優勝を争う大会で初出場の北谷高校は全敗するが得たものがあった。
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「全敗したけど大差で負けたものは一つもなかった。みな接戦だった」と安里は当時を振り返る。
大会を通し、ディフエンスはトップレベルであることが分かった。3ポイントは、ベスト5のうち、2人が北谷高校の選手だった。
ディフェンスと3ポイントを徹底的に強化する。この時の県大会の優勝メンバーが中心となって2年後の浜松インターハイで全国3位まで上り詰める。
「スラムダンク」の原作者、井上雄彦の取材を受けたのもこのインターハイの期間中だった。「宿泊先のホテルまで井上さんとスタッフがやってきて『参考にしていいですか』と聞いてきた。彼としては何とかバスケを人気競技にしたい。盛り上げていきたいとの思いがあったようだ」(安里)。
沖縄では「FIBAバスケットボールワールドカップ2023(W杯)」が8月25日に開幕した。安里は「子供たちが日常的に見ているのは琉球ゴールデンキングスの試合だ。でも、W杯では国内のBリーグよりも格段上の選手たちが来る。スーパーマンが大勢来るようなものだ。子供たちの目標もさらに上がる」とW杯が沖縄バスケへ与える効果を期待する。
■闘将が語るコーチ業の心構え
「火傷しそうなほどの情熱の持ち主」とも語られる闘将、安里に「コーチ業の神髄とは何か」と聞いてみた。
「早く教えたくて仕方がないという気持ちで年何回、コートに立てるかが勝負だ」との答えが返ってきた。では、どうしたらワクワクした気持ちでコートに立つことができるのか。「用意周到な準備に尽きる」と安里が見せたのは、指導者として駆け出しだった1970年代後半から書き連ねてきた練習ノートだった。目標が書かれ、達成するにはどういう攻撃法と防御法を確立すべきか等が事細かに書かれていた。
安里が「練習すべきことをきちっと書き、日々反省し、明日の課題を見つけてきた。続けることが大事だ。だから情熱を持ち続けることができた」と話す練習ノートは優に100冊を超える。
「FIBAバスケットボールワールドカップ2023(W杯)」と映画『THE FIRST SLAM DUNK』の千秋楽を盛り上げようと、北谷高校がある北谷町の図書館では特別展を開催。「スラムダンク」で主人公たちが通う湘北の赤のユニホームや、陵南の横断幕「勇猛果敢」に似ていると話題になった、1991年に北谷高校が全国3位に輝いた時のユニホームや横断幕を展示。聖地巡礼に訪れる内外からの観光客らで賑わっている。
北谷高校時代の安里の練習ノートも展示され、コーチの心構えを書いた箇所には「コーチの一挙一動を見て選手は学んでいく」と書かれていた。
同特別展は9月15日(金)まで開かれる。
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著者プロフィール
本田路晴(ほんだ・みちはる)●フリーランス・ジャーナリスト
読売新聞特派員として1997年8月から2002年7月までカンボジア・プノンペンとインドネシア・ジャカルタに駐在。その後もラオス、シンガポール、ベトナムで暮らす。東南アジア滞在歴は足掛け10年。趣味は史跡巡り。