【ボクシング】あのファイトをもう一度 元WBCフライ級王者・比嘉大吾の復帰第2戦

元WBCフライ級世界チャンピオン・比嘉大吾  (C)Getty Images

なんとも歯がゆい復帰第2戦

なんとも歯がゆい結果だ。10月26日、後楽園ホールで行われたバンタム級(53.5キロ以下)ノンタイトル10回戦に臨んだ比嘉大吾選手。元WBCフライ級世界チャンピオンの再起第2戦は、1-0(96-94、95-95、95-95)の引き分けに終わった。

比嘉選手は3月に具志堅・白井スポーツジムとの契約を解除し、6月30日に井岡一翔選手がいるAmbition GYMに所属することを発表した。今回のノンタイトル10回戦は、移籍後初の試合だった。なお、具志堅・白井スポーツジムは「私、具志堅用高は、気力・体力ともにこれまでのように情熱を持って選手の指導にあたるには難しい年齢になった」という会長の挨拶を残して、7月31日に閉館している。

新天地に移った元世界チャンプは、絶頂期を支えた野木丈司トレーナーと再びチームを組んだ。野木トレーナーは「驚くほどパンチが戻った」と、手応えを表現。9月10日のオンライン会見では「上を見据えるには、フライ級のころを上回る必要がある」と、バンタム級で世界に挑戦することをほのめかした。

対戦成績は堤の2戦2勝

対戦相手の堤聖也選手は熊本の九州学院高出身。2年生のときに、国体の九州ブロック初戦で宮古工高時代の比嘉選手と対戦して判定勝ち。さらに九州の新人戦での再戦でもポイントアウトしている。

比嘉選手のアマチュアでの戦績は45戦36勝8敗だが、8つの負けのうちの2つは堤選手に喫したものだった。

しかし、「比嘉に2戦2勝」という実績は試合の興味を煽る宣伝文句にはなっても、予想を左右する要素とはならなかった。堤選手のプロでの戦績は5勝(4KO)1分、日本バンタム級13位。いってしまえば、平凡な選手だ。まともに考えれば、世界タイトルを2度防衛した元チャンピオンのKO勝ちが順当だった。

自分の拳でファイトマネーを稼ぐ

堤選手は3人きょうだいの末っ子として生まれ、母の手一つで育てられた。母親は堤選手の試合を楽しみにし、遠い会場でも必ず足を運んで声援を送ってきたそうだ。「実家を離れるようになって、母を思うことが多いんです」と、堤選手はインタビューに答えている。

熊本の実家には、母親と体の不自由な姉が暮らしている。姉はシングルマザーで、出産時の医療事故で右下半身が麻痺してしまったという。家族のために自分の拳でファイトマネーを稼ぎたい。その気持ちが人一倍強いことを堤選手は隠そうとしない。

そこに降って湧いた比嘉戦である。モチベーションが上がらないわけがない。2度の対戦経験があり、しかもプライベートでも連絡を取り合う仲。元世界チャンピオンとはいえ、堤選手にとって比嘉選手は、「雲の上の人」ではなかっただろう。

勝ったと思って、倒しに行かなかった

試合は序盤から手数で堤、有効打で比嘉、という展開。しかし、どちらも山場を作ることができないまま試合終了のゴングを聞いた。判定は冒頭にある通り、ドローだった。

以下、試合直後の比嘉選手のインタビュー。

「最後は勝ったと思って判定までいかせた。ちょっと見てしまったところがある。それが一番ダメ」

「7、8回にセコンドから行け、といわれたけど行けなかった。そこを直せば世界に行けるけど、今のままじゃ行けない」

まとめると、「勝ったと思って、倒しに行かなかった」。……これが、デビューから15連続KOの日本記録を持つ比嘉大吾の言葉だろうか? もし、リングサイドに具志堅会長がいたら、こっぴどく怒鳴りつけていたことだろう。

師匠がいないなら、代わりにいわせてもらう。こんな手抜きをしているようでは、世界になんか行けるはずがない。バンタム級の世界チャンピオンは、いうまでもなく井上尚弥だ。モンスターと同じリングに上がる資格は、君にはない!

それでも応援してしまう魅力ある選手

ウエイトオーバーという大失態、ライセンスの無期限停止、それに続く雲隠れ。3月の再起戦では「このままモチベーションが上がらなかったら辞める」とリング上で発言。師匠のジムを飛び出しての再出発。格下相手のドロー。

王座陥落からの2年半は試練の連続だ。これ以上、続けても無駄ではないか、という意見もあるだろう。しかし、比嘉選手と野木トレーナーは前を向いている。「もう1戦やれば力が戻る」と。

連戦連勝だったころの彼の姿は、ボクシングファンの目に焼きついて離れない。魂のこもった左右フック。強烈なボディブロー。判定無用の、あのファイトをもう一度見せてくれ。それが率直な気持ちだ。

堤戦を終えた比嘉大吾選手の戦績は、16勝(16KO)1敗1分。WBC8位、WBA9位の世界ランカーと引き分けた堤選手は、大きくランキングを上げるだろう。大きなファイトマネーの提示を期待したい。

著者プロフィール
<文:牧野森太郎 フリーライター>
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」(産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。

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