【NPB】「山田哲人? 誰だ、そりゃ?」 ドラフトの光と影と超大型契約

山田哲人の大型契約での残留は主要スポーツ紙でも大きく取り上げられている 

■早大トリオなど大豊作と言われた2010年のドラフト会議

2010年のドラフト会議は、翌年に早大卒業を控えた斎藤佑樹が目玉であった。大石達也福井優也も含め「早大三羽烏」とまで謳われた即戦力投手が揃ったドラフトでもあり、常に投手不足に悩まされる東京ヤクルトスワローズ・ファンにとって「一人だけでも即戦力を」と例年同様、神に祈る運命の日だった。

ドラフトは大石を6球団競合の末、西武が引き当てた。我がヤクルトは4球団の競合となった斎藤を指名。「待て、福井優也が残っている!」と思うものの、敢えなく競合くじを外し、気を取り直し再び1位指名に挑むと、今度は塩見貴洋が楽天と競合に。そして、ここでもクジを外す羽目に……。

三度1位指名に挑戦すると、山田哲人はオリックスとの競合に。だが、事前チェックの甘いファンとして、ここで「山田哲人? 誰だ、そりゃ?」と叫んだもの。何しろ指名候補には投手ばかりを考えていた。当時の岡田彰布・オリックス監督のくじ運の悪さに感謝しよう。岡田元監督は、ここで「同一ドラフトで3度の競合くじを外す」という“プロ野球記録”を樹立した。

振り返ってみると、ヤクルトはラッキー以外の何でもなかった。山田はこのドラフトから10年、前人未到となる3度のトリプルスリーを成し遂げ、日本を代表する打者に成長した。

入団後、好打者の気配はあったが、まさかあの体格で本塁打王を獲得する長距離砲に成長するとは驚きだった。そして10年目、それは山田が今年のフリーエージェント(FA)の目玉に挙がることを意味し、最下位という球団成績とともにヤクルト・ファンをヤキモキさせていた。

■澤村はロッテへ、鷹の育成コンビは球界を代表するバッテリーに成長

この年のドラフトにもう少しだけ触れておきたい。

巨人の1位は澤村拓一。「巨人以外ならメジャー」も噂され、「ドラフト破り」と話題になったが、今年はロッテに移籍し活躍。あの“逆指名”はなんだったんだと文句も言いたくなる。中日の1位は大野雄大。今年の大活躍はご存知の通りだろう。山田よりひと足早く、FA宣言をせずに3年契約での残留を表明した。

その他の選手を見てみると、福井は塩見とともに楽天で現役。阪神の榎田大樹は2018年にトレードで西武へ。ロッテの伊志嶺翔大、西武の大石はコーチに転身。ソフトバンクの山下斐紹は、今年楽天から戦力外を通告された。横浜の須田幸太はすでに球団を去り、オリックスの後藤駿太の去就も気になる。同じ2010年のドラ1でも、10年後にはこれほどの人生の岐路に立たされる。

1位以外の選手も相当興味深い。2位には、ソフトバンク・柳田悠岐、楽天・美馬学、広島・中村恭平、日ハム・西川遥輝など(所属はドラフト当時)。下位指名でも、広島の6位・中崎翔太や、ソフトバンクの育成枠には千賀滉大甲斐拓也という2020年の最優秀バッテリーの名が見える。なぜ我がチームは、こうした将来の大スターを見出せなかったの……。

山田もこうしたドラフトの妙に一つと捉えればそれまで。だが、今から斎藤と山田のどちらを指名するかと問われたら、多くの燕党はなんと答えるだろう。

■「山田残留」の真価が問われる来シーズン

さて、FA宣言をせずに残留……という山田の心意気は燕党として大いに買いたい。FA権が行使されれば、もともと巨人の名も取り沙汰されており、資金力豊富なソフトバンクなどが獲得に動くことも必至だっただろう。待遇面ではヤクルトに対抗策はなかった。(※球団公式HPで残留を発表

ありがとう、哲人!

しかし、10年目の今季はコンディション不良で出場選手登録を外れ、出場は94試合のみ。打率.254、12本塁打、52打点と、チーム最下位の戦犯の一人でもある。正直、今季に限れば、報道されている7年総額35億円規模という超大型契約に見合う数字ではない。

「バレンティンがいなくなったら哲人の成績は危うい」と囁かれたものだが、今年4番に座った村上宗隆は、その穴を十二分に埋めたと評して良い。成績下降をオーダーのせいにはできまい。

「山田残留」は大の燕党にとって、今年一番とさえ思える嬉しいニュースには違いないが、それには哲人がトリプルスリーの輝きを取り戻してくれてこそ、本当の喜びとなる。

山田哲人残留のニュースが、本当に嬉しい知らせだったのかどうか、来季の山田がその証を見せる。

著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

著書に『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』、『麗しきバーテンダーたち』など。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、ニューヨーク・メッツ推し。

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