【競馬】アーモンドアイGI9勝や無敗の三冠馬誕生など 2020年の中央競馬を振り返る

 

【競馬】アーモンドアイGI9勝や無敗の三冠馬誕生など 2020年の中央競馬を振り返る
アーモンドアイ (C)Toshihiko Yanagi

■インターネット会員が50万人増え、JRAは売り上げアップ

2020年のカレンダーも残りわずか。早くも一年を振り返る時期となった。今年の出来事を語るとき、新型コロナウイルスを外すことはどの世界でも不可能だろう。スポーツ界も然り。東京オリンピックの延期を筆頭に、数多くの胸躍るイベントが中止、無観客を余儀なくされた。スポーツファンにとっては、まさに「コロナ憎し」の一年だった。

中央競馬(JRA)も無観客開催、場外馬券場の営業停止という前代未聞の事態を強いられた。無人のスタンドに響くファンファーレは虚しく、歓声のないゴールはサイレント映画を観ているよう。そこには現実世界からかけ離れた、受け入れ難い不条理が漂っていた。

それでもJRAはすべての開催を決行。その英断と関係者の努力に深く敬意を表したい。しかも、その甲斐あって無観客となった2月29日から11月末までの売り上げは前年比で860億円増となった。インターネット投票の会員は50万人も増えたという。

■無敗三冠馬の今後の活躍にも期待したい

売り上げ好調の背景には、スターホースの存在が大きい。コントレイルデアリングタクトはそろって無敗の三冠馬となった。コントレイルは父ディープインパクトと親子二代での快挙だ。デアリングタクトにいたっては、ジェンティルドンナアーモンドアイも達成できなかった無敗の三冠。牝馬として史上初の偉業だった。

競馬の大きな魅力は、強い馬と同時代を生きられることだ。強い馬が強い勝ち方をしたときにファンは感動を覚える。ディープインパクト、オルフェーヴルナリタブライアンシンボリルドルフの姿を人生の記憶帳に刻みつけた人は多いはずだ。2頭のスターホースと過ごすこれからの数年間は、競馬ファンにとって大きな喜びとなるに違いない。

そして、コントレイルの福永祐一騎手、デアリングタクトの松山弘平騎手には、絶対に外国人ジョッキーに手綱を渡さない覚悟で騎乗を続けてほしい。ヒシアマゾン中舘英二テイエムオペラオー和田竜二のような記憶に残るコンビになることを期待する。

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■アーモンドアイが演じた圧巻のクライマックス

スターホースといえば、アーモンドアイの活躍が際立った。牝馬限定のヴィクトリアマイルを楽勝したものの、安田記念グランアレグリアに子供扱いされたときは、女傑の輝かしいキャリアもここまでかと観念した。

しかし、物語のクライマックスはこれからだった。天皇賞・秋では鮮やかに抜け出して大目標の八冠を奪取すると、中3週で行われるジャパンカップへの出走を表明。関係者の勇気には感謝で頭が下がる思いだった。

しかも、「無事に回ってきてくれ」というファンの内心をあざけるかのように、あの豪脚を惜しみなく披露。無敗の三冠馬2頭を置き去りにして有終の美を飾った。強い馬が強い勝ち方をする。競馬の醍醐味を遺憾なく見せてくれた、競馬史に残る名場面だった。そして、レース後に見せたクリストフ・ルメール騎手の涙も心を打った。

九冠という大記録を破る馬は、将来、現れるのだろうか? そんなロマンを残像にして、彼女は夕暮れのターフを去っていった。

■牡・牝混合G1 10レースで、牝馬が8勝

女性活躍社会は政権が達成できない難題だが、競馬界はあっさりとそれを実現してしまった。12月20日までに行われた芝の牡・牝混合GIレース(除3歳牡馬クラシック)は10レースあったが、そのうち8レースを牝馬が制した。

なぜ、これほどに牝馬優勢なのだろう? ひとつ考えられるのは、牡・牝混合レースでは、牝馬の斤量が2キロ軽くなるというルール。かつては牡馬と牝馬に能力の差があったが、調教技術が向上した現代では、その差はなくなったと指摘する意見がある。人間の社会でも、今や性差による能力の違いはない。

もうひとつは、牡馬の大将格と目されたサートゥルナーリアブラストワンピースの不振と、対照的な名牝の活躍。牝馬の8勝のうちアーモンドアイが2勝、グランアレグリアが3勝(安田記念、スプリンターズステークスマイルチャンピオンシップ)を上げた。グランアレグリアは重馬場の高松宮記念でも猛烈に追い込んで2着に入り、短距離GIをほぼ完全制覇する大活躍だった。

さて、来年もこの傾向は続くのか? 男性諸君、いや牡馬諸君、2021年はもっといいところを見せてくれ!

■今年もルメールの独断場 最多勝騎手は当確

ジョッキーではルメール騎手が自身2度目の年間200勝達成でリーディングを確定するとともに、GIを8勝(12月20日現在、以下同)と、まさに独断場となった。天皇賞・秋からジャパンカップまではGI4連勝だった。いい馬に乗っているからといえばそれまでだが、一筋縄でできることではない。

さらに菊花賞アリストテレスでは、コントレイルの斜め後ろをピタリとマークするえげつない騎乗でプレッシャーをかけ、あわや逆転の見せ場を作った。このあたりもさすがと唸らせる手綱さばきだった。

一方、武豊騎手はここまでGIタイトルはなし。同期の蛯名正義騎手が引退を表明したが、まだまだ老け込んでほしくない。残るホープフルステークス有馬記念での奮起はあるのか? 武騎手はホープフルステークスでヨーホーレイク、有馬記念でワールドプレミアに騎乗予定だ。

そのほかでは、3歳牝馬のソダシ阪神ジュベナイルフィリーズを制し、白馬初のGI馬となった。これは世界の競馬史上初の“快挙”だったそうだ。ちなみにソダシとは、サンスクリット語で「純粋」を表す。クラシックでの活躍も期待したい。

ここまで、うれしいニュースが多かった2020年の中央競馬を振り返った。2021年は再び観客席がファンで埋まって、新しい感動をみんなで分かち合えることを心から願いたい。

著者プロフィール

牧野森太郎●フリーライター

ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」(産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。