テニスの4大大会・ウィンブルドンが、28日に開幕する。選手たちはパリの赤土に別れを告げ、つかの間の休息もないまま芝シーズンへ突入。今年は全仏オープンからウィンブルドンまでの期間が2週間のみ。選手たちは真逆の特性を持つともいえるサーフェスに対し急ピッチでプレーの仕上げにかかる。
■フェデラーを支える芝での豊富な勝利経験
男子は、全仏チャンピオンであり、ウィンブルドンのディフェンディングチャンピオンでもあるノバク・ジョコビッチ(セルビア)が第1シードで登場。今大会で優勝すれば、ロジャー・フェデラー(スイス)とラファエル・ナダル(スペイン)が持つグランドスラム通算20勝、シングルスタイトル数歴代1位の記録に肩を並べることになる。
続いて第2シードにはダニール・メドベージェフ(ロシア)、第3シードに全仏オープン準優勝のステファノス・チチパス(ギリシャ)が名を連ねた。第4シードにはドミニク・ティエム(オーストリア)が入る予定であったが、前哨戦のマジョルカ・オープンで手首を負傷し欠場を発表。2018年Nitto ATPファイナルズのチャンピオンであるアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)が、そのポジションを担う。
ウィンブルドンで8度の優勝を成し遂げているフェデラーは第6シードとして存在を輝かせる。フェデラーは今年に入り2度の右膝手術を経験。毎朝1歩目の感覚をチェックし、一日を終えるころには「明日の調子はどうだろう?」と今まで不要だった心配が39歳の彼を時折不安にさせているという。
だが全仏オープンでは、あの宙に浮いているような柔らかなステップで軽快に動き回り、鋭いストロークを相手コートに突き刺して順調に4回戦へ進出。ここでフェデラーは冷静に自身の体の状態を見極め、ウィンブルドンに向けて4回戦を棄権し休養を取った。その効果もあり「全体的には良い仕上がりだ。芝のコートでは常に自信を持っている」と勝利を見据え再発進。前哨戦のノベンティ・オープンでは若手のホープでもあるフェリックス・オジェ=アリアシム(カナダ)に2回戦で敗れるも、「すべての試合を情報として受け止め、それを解明する必要がある。なぜそれが起こっているのかを理解する必要がある」とウィンブルドン本番に向け、正しいフィードバックからプレーをより改善してくることだろう。いずれにせよ彼が言っている通り、今までに積み上げてきた芝での勝利経験が今大会優勝に向けて彼を支える指針となる。
■マレーはワイルドカード枠で参戦、「ビッグ4」の戦いに注目
そして2度チャンピオンとして輝いたアンディ・マレー(イギリス)が、ワイルドカード枠でホームコートへ戻ってくる。シングルスでは2017年以来の出場。彼もまた股関節の手術を複数回受けてからの復帰となったが、今季は新型コロナウイルス陽性になったこともあり試合数をこなせず、ツアー大会は計5試合しか戦っていない。試合勘や体力面では、やはり完全ではないことを認めつつ、練習で好感触を得られていることから「いずれ何か起きるだろう」と粛々とトップへの返り咲きを狙っている。前哨戦であるシンチ・チャンピオンシップスでは、3年ぶりの芝での試合に臨み1回戦勝利後には涙を見せた。そこには様々な感情が入り混じっていたようにも思う。実際に引退の文字も脳裏の片隅に居座っていることだろう……。だが、彼のテニスへの愛は今も変わらず燃え続ける。
「僕がまだプレーしている理由は、テニスが好きだからです。もし目標が世界一になることだけだったら、3年前怪我をしたときに引退していたでしょう。怪我からの復帰は、そう簡単ではないが、この一瞬を楽しみたい。日々、自分が健康であることに集中して目の前の試合を乗り越えていくことができれば、まだまだハイレベルなテニスができると思っています。そしてできる限り長くプレーしたいと思っているよ」
第2シードのチチパス、第4シードのズべレフをはじめ、アンドレイ・ルブレフ(ロシア)、マッテオ・ベレッティーニ(イタリア)など「ネクストジェン」と呼ばれる若手選手が活躍することは濃厚だが、「ビッグ4」として一時代を築き上げたフェデラーとマレーの元王者としての戦いぶりには常に注目していきたい。