野口啓代の語る新種目「コンバインド」の面白さ…初代アジア王者に輝いた女王の目線

スポーツクライミングで10年以上に渡り世界トップレベルで輝き続ける女性がいる。TEAM auに所属する野口啓代(のぐち あきよ)選手、29歳だ。

2018年シーズンはボルダリング・ワールドカップ(W杯)で中国の重慶と泰安、さらに母国開催の八王子まで3連勝し、W杯通算勝利数を21勝に伸ばしている。

また、オリンピック正式種目に採用された「コンバインド(複合)」では、第1回コンバインド・ジャパンカップ(岩手・盛岡)とアジア選手権(鳥取・倉吉)を制し、史上初の国内王者に輝いた。

「いい一年だった」と振り返る野口選手は、スポーツで社会貢献する女性を応援する『Woman in Sports(ウーマン・イン・スポーツ)』アワード(ウィメンズヘルス主催)において、注目アスリートに与えられるウィメンズヘルス特別賞を受賞。

そんな彼女に11月27日の授賞式後、新種目のコンバインドについて、さらに自身の話をうかがうと、10代選手も多いスポーツクライミング日本代表を牽引する先達としての意外な一面を知ることができた。

野口啓代選手(TEAM au)

スポーツクライミングは3種目

まずスポーツクライミングという競技について簡単に触れておく。ホールドと呼ばれる突起物を頼りに壁を登って順位を競うのがスポーツクライミングだ。

IFSC(国際スポーツクライミング連盟)が認定する公式大会では、ルールの異なる3つの種目(ボルダリング、リード、スピード)と、3種目の総合力が必要になる複合(コンバインド)の計4種目がある。

ボルダリング(Bouldering)

ボルダリングとは、5mほどの壁に設けられた課題(ルート)の登った数、トライの回数を競う種目。一般的に決勝では4課題が用意され、1課題につき4分間の制限時間がある。

リード(Lead Climbing)

リードは、12m以上の高度がある壁を6分間でどれだけ登れるか、高さを競う種目。ロープで安全を確保しながら登っていく。

スピード(Speed Climbing)

スピードとは15mの壁を二人同時にスタートして、登る速さを競う種目だ。瞬発力が試されコンマ数秒の争いになる。ホールドの配置は毎回同じ。

コンバインド(Combined)

コンバインドは、上記3種の複合競技だ。スピード、ボルダリング、リードの順番で競技を行い、各種目の順位を掛け算してポイントを算出することで順位を決める。

コンバインドはどんな種目?

ーーー今回はウィメンズヘルス特別賞おめでとうございます。

野口啓代選手(以下、野口):ありがとうございます。クライミング界や競技以外で受賞したことが私自身初めてなので、なんで私なんだろうって。受賞された素晴らしい方々の中で、本当に思っています。

ウィメンズヘルス特別賞を受賞した野口選手

ーーーそれは野口選手が今注目すべき選手だからですよ。さてクライミングでは2018年シーズン、6月のコンバインド・ジャパンカップ(岩手・盛岡/優勝)、9月の世界選手権(オーストリア・インスブルック/4位)、11月のアジア選手権(鳥取・倉吉/優勝)と3回コンバインドの大会を経験されました。そこから感じたことはありますか?

野口:コンバインドはとにかく疲れますね。スピードもオリンピックのルールに合わせて始まったので、今までやってきたことと違う部分もありますし、一日に3種目なんてやったことがなかったので体力的に追いつかない部分もあります。

3種目あると練習も分散されるので、これまでのボルダリングとリードのレベルも一時的に落ちてしまいました。3つのバランスを取るのがすごく難しくて。最初は、というか今でも苦労しています。

ーーー同じクライミングでもそれぞれ特徴が違いますから、観てるだけでも大変そうに感じます。

野口:陸上競技でいう長距離と短距離のように、3種目はぜんぜん違います。(スイム・バイク・ランを行う)トライアスロンみたいな3種目なので体の使う部分や気持ちの入れ方、登るリズムも違ってきます。

ーーーでも観客は楽しめますよね。二人同時スタートのスピード、ダイナミックなムーブ(動き)があるボルダリング、どこまで登れるか緊張感のあるリードと見所も変わってきます。

野口:一人で3つやるのは面白いと思います。やっぱり人によって必ず得意不得意があって、私の場合はボルダリングが得意でスピードはあまり得意ではありません。

それを知っている人には、私が苦手とするスピードのタイムがちょっとでも良くなったら「苦手なところ頑張ったんだね」ってわかってくれて。得意なところでは1位を狙っていくプレッシャーもあります。

ーーーコンバインドを観る場合の注目点はどこでしょう?

野口:スピード、ボルダリング、リードの順番で競技が進むのですが、スピードが終わって最初の順位がついて、ボルダーが終わって2種目の合計の順位がついて、最後のリードで優勝が決まります。

起承転結ではないですけど、優勝までの過程が目で見てすごくわかりやすいと思いました。

(決勝に進出できるのは6選手だが)やっぱり最初のスピードで6位とかになったら優勝が厳しくなり、上位3人くらいに絞られます。ボルダーが終わった時点では上位2人くらいに絞られちゃう。

決勝で6選手全員がリードも行いますが、「この人か、この人が金メダルだ」という状況で迎えるリードは観客としても勝てる人が絞られているのでわかりやすいです。

リードで壁を登る野口選手

ーーー選手の立場では、どういう点が面白く感じますか?

野口:3つそれぞれ思い入れというか、私にとってのリード、私にとってのボルダー(ボルダリング)、スピードと全部違うのですが、すべての要素が全部うまくいかないと優勝はできないと思います。

だから得意なところは伸ばすし、苦手なところもしっかりやる。自分の競技への取り組みであったり、ちゃんと苦手な部分にも向き合わないと勝てないのが面白いです。

ーーー世界選手権のコンバインドでは野口選手と男子の原田海選手(はらだ かい/日新火災)のそれぞれ4位が日本代表チームの最高位でした。野口選手から見て、日本人選手はどこを伸ばすことでコンバインドも強くなれると感じますか?

野口:スピードはどの国のトップ選手も経験が浅いので、今も同じ速度で成長していると思います。私は日本人選手はリードをもっと頑張らないといけないと感じています。

リードは歴史の長い競技。特にヨーロッパの選手はリードが得意ですが、今の日本には経験の長い選手がいません。

コンバインドは最後の種目がリードになりますし、最後で勝てないとそこまで1位争いをしていても、リードで優勝が決まっちゃう。

最後が苦手だと勝ちづらいというか、そこまでの流れで優勝するには最後のリードを伸ばすべきかなと思っています。

コンバインドは観る側にとっても掛け算

筆者はプライベートでコンバインド・ジャパンカップを観戦するために盛岡へ行った。ボルダリングとリードの大会はそれぞれ何度も現場で観ていたが、コンバインドは「一日に3種目も観られてちょっとお得かも」程度にしか考えていなかった。しかし、大会はとにかく面白かった。

コンバインドは種目ごとの成績を掛け算して、そこから算出されたポイントで順位を決める。観る側にとっても掛け算だと感じた。「スピード×ボルダリング×リード」と各種目の魅力を掛けることで、競技としてのパワーが何倍にもふくれ上がるのだ。

来年はジャパンカップに加え、東京・八王子で開催される世界選手権などでもコンバインドが観戦できる。そしてTOKYO2020に繋がる。スポーツクライミング観戦に興味がある人はぜひコンバインドの大会も会場へ足を運んでほしい。

(インタビュー後編「野口啓代が素顔で語るこれからのこと…オリンピックや結婚、後輩との関係についても」に続く)

野口啓代(のぐち あきよ)

TEAM au所属のプロフリークライマー。1989年5月30日生まれ、茨城県龍ケ崎市出身。身長165cm。

2008年に日本人女性初となるボルダリングW杯優勝を成し遂げ脚光をあび、翌2009年には年間総合優勝。以降2010年、2014年、2015年と通算4度達成している(2018年は2位)。

ボルダリング・ジャパンカップは2005年第1回大会から9連覇、通算11勝。2年に一度行われる世界選手権は今年ボルダリングで準優勝。リードも得意で今季はW杯最終戦で銅メダルを獲得。

地元茨城では龍ケ崎ふるさと大使として親しまれている。

《text & photo Hideyuki Gomibuchi》

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