■「外に出なさい」と言い続けたい
では、長年スペインで活躍してきた佐伯さんのように、日本人が海外の環境に日常的に身をおいて、そのノウハウを日本に還元することで、多様にサッカーを養う力を身につけられないか。
この問いに対して佐伯さんは、海外に出ることの重要性を説きつつも、これまでの日本で築かれてきた慣習を大きく変えるのは簡単な作業ではないと語る。
「海外に出ることはとても貴重なことだと私は思いますが、受け取る側にもよると思うので、『出る。いた。住んでいる』はイコール『知っている。分かる。優秀』ではない。ただ、ひとつ別の視点が生まれるというのは人間としてとても大事なことで、若者たちには『外に出なさい』とは言い続けたいと思います。
ただ、そのために少数の人たちが大多数の日本のスタンダードの中に入ってなんとかしようとしても、物事は変わらない。これまで、例えば(イビチャ・)オシムさんのような優秀な海外の指導者たちが日本に招聘されてやってきましたが、日本のサッカー界は大きくは変わってないわけです。これはなぜかというと、やはり少数派で何かをできるわけがないということなんです」。

選手に指示をする佐伯夕利子さん 写真:本人提供
■決定的な違いとなる「場」の少なさ
また、2018年に特任理事に就任し、2020年からは常勤理事としてJリーグに携わってきた佐伯さんは今の日本の問題点について「場」がないことも挙げ、プレーするための環境の少なさがスペインとの決定的な違いだと感じたという。
「(日本は)これまで30年以上成長してきたけど、この先で伸び悩んでいる理由はここにもある気はします。(スペインは)例えば400人くらいしか人口がない村でもサッカー場が必ずあるんです。
街づくりの設計で私がいつも言うのは、教会ですね。あとは昔でいう意見交換ができる、テラスやバルが立ち並ぶ中央広場のような空間。それから演劇、歌劇を行うことができる劇場。そして闘牛場があってのサッカー場。この5つは必ずあるんです。サッカー場が必ずあるのがスペインは武器だなと思います」。
多様な発想を生み出すための包括的な環境と、フットボールに親しむためのスペースの少なさ。佐伯さんの話から日本のサッカー界だけでなく、スポーツ界全体にもつながるような現状の課題が浮き彫りになった。
これはそれぞれの国がおかれた現在の環境や、これまでの背景が異なる中で、単純に比べられることではない。それでも、これから日本のサッカー界が発展、成長していくためにこれらのテーマがついて回るのもまた事実である。
この事実を受け入れたうえで、サッカーやスポーツに関わる人々がどう課題と向き合っていくのか。一筋縄ではいかないものとして、問題が突きつけられている。
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取材・文●井本佳孝(SPREAD編集部)











