野球の世界一決定戦「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC」(WBC)が3月8日、いよいよ開幕する。待ちに待った6年ぶりの大舞台、MLBに革命をもたらした大谷翔平ら新時代のスーパースターたちが、母国の威信をかけて世界最高峰の激闘に挑む。
待ち受けるのは、歓喜か絶望か。はやる気持ちを抑えつつ、まずは過去の名場面を振り返り、来るべき日に備えよう。
◆【WBC】特集:“史上最強”侍ジャパンが世界一奪還へ 対戦カード・日程・放送予定・メンバー一覧
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■日本版ドリームチーム結成
田中将大と斎藤佑樹が甲子園決勝で壮絶な投げ合いを演じた2006年、世界戦略を目論むMLBが主導権を握り、WBC第1回大会が開催される運びとなった。日本代表の指揮を執るのは、世界の王貞治。当時、ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜は出場を辞退、イチローとの共闘こそ実現しなかったものの、上原浩治や松坂大輔らプロ野球の精鋭が集結したドリームチームには誰もが心躍らされたことだろう。
日本代表は、第1ラウンドで韓国に逆転負けを喫するも、2勝1敗の2位通過。第2ラウンドでアメリカ、メキシコ、韓国と準決勝進出の2枠をかけて争うことに。アレックス・ロドリゲス、デレク・ジーター、ケン・グリフィJr.にロジャー・クレメンス。圧倒的な存在感を放つMLBオールスター軍団。死闘を極めたアメリカとの一戦と言えば、あの忌まわしい記憶が鮮明によみがえる。
■世界の球史に刻まれた「世紀の大誤審」
第2ラウンド初戦、対アメリカ。両者譲らず同点で迎えた8回表のワンプレーが、この試合の運命を大きく左右する。1死満塁、岩村明憲がレフトへ浅いフライを打ち上げ、三塁走者の西岡剛がタッチアップ。勝ち越しのホームを踏むも、離塁が早いとバック・マルティネス監督からの抗議を受け、球審のボブ・デービッドソンが判定を覆したのだ。
「ボーキング・ボブ」。度々不可解なボークを宣告するため、皮肉を込めてつけられたデービッドソンのあだ名は、彼の難儀な性格をよく表していた。MLBの審判は自己主張が強く、ベテランになるほど傲慢な判定で試合をコントロールしようとするきらいがある。西岡に落ち度はない。繰り返しリプレーが流され、世界中に真実が晒されても判定が変わることはなく、日本代表の決勝点は幻と消え、9回裏にサヨナラヒットを浴び力尽きた。
アメリカの、アメリカによる、アメリカのための大会と揶揄され、中立国の審判を立てなかった弊害も論じられた。デービッドソンの愛国心がもたらした過ちなのかは定かではないが、掴みかけた大金星がこぼれ落ちたことだけは、紛れもない現実であった。