イクイノックスと母チェッキーノの「点と線」 樫の女王チェルヴィニアは、なぜ桜花賞大敗から“華麗なる逆転”を実現できたのか【オークス】

■桜花賞挑戦は大きな意義をもつ

チェルヴィニアはその延長戦にあった。アルテミスSを勝ち、阪神JFは体調が整わないことを理由に回避。3番手追走から上がり33秒3で突き抜けたアルテミスSはチェルヴィニアにとって、少し走りすぎたのかもしれない。

若いアスリートと同じく、体の成長以上に気力で力を出しすぎてしまうのは、止められない。その分、リカバリーにしっかり時間を使わないといけない。チェルヴィニアにとって、阪神JFを走らず、しっかり休養したことがオークスにつながった。

そんなローテを可能にしたのもアルテミスSを勝ったからだ。2歳秋までに重賞を勝てば、賞金面でクラシック出走は確定する。優先権も賞金加算も必要ない。オークスでみせた美しい走りは、アルテミスSを勝ったことがもたらしたといってもいい。

6月デビューから重賞を勝ち、春へ。暮れのGI回避は誤算だったかもしれないが、結果としてオークス勝利への布石となった。チェルヴィニアは3歳春まで中9、10、22週と歩んだからこそ、オークスまでの中5週にはポジティブな感触しかなかった。

と言いつつも、レースを使わなければ前へは進めない。人間もサラブレッドも成長するためには経験が必要だ。サラブレッドは叩き良化という考えは、これほどローテーションに気を配る今でも関係者の根底にある。大舞台の経験は強くなるためには避けられない。チェルヴィニアも13着とはいえ、桜花賞出走は外せない道だった。

最後は進路が狭くなり、無理をさせなかったが、大外枠からマイル戦の速い流れのなか、なんとか逸る気持ちをコントロールしていた。桜花賞での抑制の効いた走りへの挑戦が、オークスでの外目をリズムよく走る姿につながった。

ステレンボッシュは馬群でわずかに行きたがった。上がり600mは同タイムであり、序盤のわずかな差が結果に影響したなら、桜花賞挑戦は大きな意義をもつ。あの大敗に意味がある。やはり競馬は点ではなく線であり、それをたどる時間こそ珠玉のひとときだ。

チェルヴィニア/2024年オークス(C)Toshihiko Yanagi

チェルヴィニア/2024年オークス(C)Toshihiko Yanagi

■偉大なる名牝たちを追いかける資格

チェルヴィニアのオークスを語るなら、母チェッキーノを語らないわけにはいかない。その母ハッピーパスとともに二代にわたり藤沢和雄調教師が管理した。ハッピーパスは春2冠4、7着に終わり、チェッキーノはクラシック制覇を宿命づけられた。3戦目のアネモネSを制し、桜花賞の出走権をつかんだが、レースの後の疲れを理由に回避し、フローラSからオークスへ進んだ。

大外を力強く伸びるも、馬群を割ってきたシンハライトの末脚にクビ差敗れた。若駒の回復を優先させた歩みといい、大外を伸びる走りといい、チェルヴィニアは母の生き写しのようだった。

ただ一つ違うのが結果だ。母を超えた娘の未来は明るい。なぜなら勝ち時計2分24秒0より速い記録でオークスを駆け抜けた馬たちは、ジェンティルドンナ、アーモンドアイ、ラヴズオンリーユーなど、みんな牡馬相手に互角以上の成績を残したからだ。チェルヴィニアには偉大なる名牝たちを追いかける資格がある。

クラシックは2歳6月から3歳5月の1年間で一つの結末を迎える。その青春の1ページにどんな道を刻んでいくのか。チェルヴィニアが歩んだ道は母から続いた答えの一つであって、決して正解でもない。結果につながる道はいくらでもある。

ホースマンたちは、懸命に馬の個性にあった最適な道を探し、様々なアクシデントに悩み、それを乗り越えていく。クラシックの価値は関係者の研鑽が支えている。我々は来月には次の物語の1ページ目をめくる。その主役たちは繊細なサラブレッドのさらに柔い心身を競馬場で懸命に表現していく。

多彩な血統背景をもった若駒たちがどんな道をたどり、その走りはどう変わり、どこまで逞しくなっていくのか。そんな視点でクラシック戦線をとらえてみよう。必ずや若駒たちの成長を実感できるはずだ。

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著者プロフィール

勝木淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬ニュース・コラムサイト『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)などに寄稿。

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