5月30日、ジュンク堂書店池袋本店にて『FOOTBALL INTELLIGENCE』刊行を記念した岩政大樹さんのトークイベントが開催された。
岩政さんは鹿島アントラーズ時代、Jリーグベストイレブンに3年連続で選出された選手。その後はタイのテロ・サーサナ、日本に戻りファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCに所属。2018年に現役を引退した。
国内外のサッカーリーグで活躍した岩政さん。現在は解説や執筆活動のかたわら参加型コンテンツ『PITCH LEVELラボ』を開設するなど多方面で活躍中だ。
イベントは、『FOOTBALL INTELLIGENCE』の編集を務めた森哲也編集長と岩政さんが出席。Jリーグチームや選手の名前を挙げ、リアルな目線で本の内容について触れていった。
トークショーとサイン会の終了後、編集部は岩政さんに詳しく話を聞いた。
他人の物差しを外してみると
ー:スポーツ選手の本は、語り下ろし(選手のインタビューを文字起こしし、編集したもの)が多いかと思います。岩政さんはなぜご自身で執筆なさったのでしょうか?
岩政さん(以下、敬称略):人がやらないからです。タイや岡山、関東リーグに行ったことも関係していますが、世間の当たり前に囚われたくないんです。世間の「なんとなくの一般論」が当たり前であるべきなのかをよく考えます。
岩政:今は、スポーツ選手が自分で本の文章を書かないのが当たり前ですけど、自分で書けるならば書けばいいんです。他人の物差しを外してみると「面白いじゃん、それいいじゃん」と思えるので。
ー:いつからそのような考えが生まれたのでしょうか?
岩政:もともとです!どっちかって言うと、ずっと天邪鬼だから。人が「こう」って言ったことを「いや、本当にそうなのか?」って考えるタイプ。
岩政:あとは、人がやっていないことをやっていきたいという考えはずっと持っています。自分がやれると思ったことなら、周りがやるべきでないと思うこともやります。30歳を過ぎてからは怖さもなくなりましたし。
―:30歳を過ぎてからなぜ変わったのでしょうか?
岩政: 「CBは、1チームに長く在籍してチームを強くする存在である」っていうことが僕の中のロマンとしてありました。鹿島に入った時も、日本代表になることよりも「鹿島で長く活躍する選手でありたい」という思いの方が強かったので。
岩政:でも、30歳を過ぎたくらいで気持ちに変化がありました。サッカー選手は30歳で引退も見えてきますし、「引退した時に人間としてたくさんの幅を持っていたい。鹿島で経験していないことをたくさん経験したい」と思ったんです。
岩政さんの主張は揺るがない。他人の選ばない道も積極的に選んでいく自分の様子を自嘲気味に「天邪鬼」と呼んでいたが、それは強い意志に裏付けされたものであることが感じられた。
実際、今回のトークショーでも、Jリーグや各国のリーグを見ていて思うところがあると吐露。
岩政さんは、“似たような経験をもつ人たちで新しいものが生まれるのか”という疑問があるとのこと。「自分が監督をするならば、自分の知らない世界や違う価値観をもつ人と組みたい」と話し、自分の知らないことを知っている人と組むことに可能性を見出していた。
相手の心理に入り込む
トークショーの中で「ツイッターは意見交換の場であるべきだと思う」と話した岩政さん。
これについて詳しく話を聞くと「違う立場や目線の人と話すなかで、お互いのイメージが合わない議論が始まるのは致し方ないし、この差がないと意見交換も始まらない」と答えてくれた。
ー:そこの差を埋めるために何を心がけていますか?
岩政:僕自身がベテランと呼ばれる選手になり始めてから、若手の選手にどう声がけをしていこうと考え始めたんです。その時からずっと同じことをやっているんですけど、相手の心理に入り込むことを心がけています。
岩政:相手のストーリーを理解して、その感覚を意見交換で理解することが大切。難しいんですけど、人の話って、どうしても自分のフィルターを通して解釈しようとしてしまうんですよね。
岩政:タイに行った時に、鹿島で経験してきたフィルターで相手のことを捉えて、意図を伝えられないことがありました。でも、「相手の心理に入り込もう」として話すと、意外と伝わるんです。
学生時代は教師を志していたという岩政さん。この頃の感覚は、プロになってからも物事や人を捉える時に大きく影響していると教えてくれた。
「とっつきにくい」と思われるのも嫌だから…
岩政さんのイメージといえば「研究熱心」。少し「とっつきにくい」と思われる部分があるかもしれない。
また、ときに岩政さんはツイッター上でファンと熱く意見交換することもある。その様子を見ている人たちは、「物事を深く追求する」「眼の前に全力を注ぐ」人だとも思うだろう。
ー:私は、岩政さんについて「研究熱心」というイメージを持っています。実際はどういった性格なのでしょうか?
岩政:自分で言うのもなんですけど、結構当たっていると思いますよ。でも、天邪鬼だからそれは見せたくないですね。昔からですけど、努力している面を見せたくないとは思います。
岩政:「とっつきにくい」と思われるのも嫌だから、なんとなく抜け感は出したいですね。そこから発せられる表面上の部分は「すこしの柔らかさ」「しなやかな強さ」のイメージでいたいです。
サッカー選手としてのキャリアもあり、知的なイメージもある岩政さん。実際に話してみると、確かに気兼ねなく話をしてくれるギャップを感じられた。
我が道を行くが、決して独善的ではない。真面目さの中にどこかおどけた雰囲気まで醸し出す。話を聞けば聞くほど、強烈な意志の強さと独特な優しさを持つ方であることが分かってきた。
今後の進路については「まだ考え中」。自らを「天邪鬼」と呼ぶ男は、ファンをあっと言わせてくれる活躍を日本サッカー界に見せてくれるかもしれない。
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