「うれしいです! うれしいです! うれしいです!」。田中将大はメジャーデビュー、そして初勝利を挙げた試合後のTVインタビューで、そう三度繰り返した。
TVインタビューでは「緊張しなかった」と答えてはいたものの、MLB公式サイト上には通訳を介し「緊張していた。うまく集中できず、試合に入り切れていなかった」とコメントしている。
それも止むを得ないだろう。MLBのTV中継でさえも田中が公式戦初マウンドに上がる際、入団からこの日まで田中フィーバーに触れ「ついに田中タイムです! 時間は20時!」とやや興奮気味に伝えた。
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田中の最大の武器はスプリッター。1995年から2000年までニューヨーク・ヤンキースに在籍、1999年に完全試合を達成、通算194勝、2668奪三振を記録した名投手デビッド・コーンは「田中のスプリットは現在、世界最高のボールだ」とコメントしているほど。
■7回3失点の好投でメジャー初勝利を挙げる
2点もらって初のマウンド。2005年にヤンキースでメジャーデビューを果たした先頭のメルキー・カブレラに対し投じた田中のメジャー初球は、93マイルのストレートでストライク。しかし、外のスライダーを挟んだ3球目、スプリットが高めに抜けた完全な失投をカブレラは見逃さない。深い右中間に飛び込む先頭打者ホームランとなった。
田中も「完璧な失投。それにしても、カブレラは良いスイングだった」と振り返っている。
2回の裏も本来の田中の投球ではない。1死後2本のヒットに一塁マーク・テシェイラのエラーにより一死満塁とされると、9番のジョナサン・ディアスに三遊間を割られ、2点を献上、逆転を許してしまう。しかも1死1、2塁のピンチ。迎えるは先頭打者ホームランを放っている1番カブレラ。しかし、ここを初対決で痛打されたスプリットで空振り三振に切って取ると、2番のコルビー・ラスマスをスライダーでファールチップの三振に仕留めた。
ここからは田中らしい投球が戻る。3回の裏に4番のエドウィン・エンカルナシオンに二塁打を打たれた他は、ほぼ完璧。これ以降に許したヒットは7回まで内野安打一本のみ。終わってみれば、7回を被安打6、3失点、自責点2、8奪三振、無四球とまずまずの結果にまとめてみせた。
「2回以降、速球を増やしたのが良かった」と田中は振り返った。トロント・ブルージェイズのジョン・ギブソン監督は「彼は本物だ。彼のいくつかの失投を我々はしっかり仕留めた。しかし、それは打つべくして打つボールだった。彼はマウンドに残り、力強さを取り戻した。その後は見事にやられたね」と称賛した。
アメリカで大きく報道されることはない。しかし、これで田中は楽天時代に挙げた99勝と合わせ、自身通算100勝を達成。そして2012年8月26日から続く、レギュラーシーズン中の連勝記録を29へと伸ばした。
田中の真価が問われるのは、まだまだこれから。しかし、この日のような粘り強いピッチングで、ぜひ全米の野球ファンを唸らせて欲しいものだ。
それにしても、デレク・ジーター不在。試合を締める投手がマリアノ・リベラではない…というのは、元ニューヨーク在住者として、まだ違和感をぬぐえないな。
Yahoo!ニュース個人2014年4月6日 掲載分に加筆・転載
著者プロフィール
たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー
『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。
MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。
推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。
リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。
著書に『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』、『麗しきバーテンダーたち』など。