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【全仏オープン】棄権の裏にあった素直さとジレンマ 大坂なおみが再び輝くために

【全仏オープン】棄権の裏にあった素直さとジレンマ 大坂なおみが再び輝くために
全仏初戦に勝利し笑顔を見せた大坂なおみだが、当分は休養予定(2021年5月30日)(C) Getty Images

■真意を知らずに起きた不一致

大会側が「選手は会見に応じるのが義務である」と主張するのであれば、選手も意見を主張する権利がある。双方の協力のもとにテニス界が大きくなり大会成功に繋がっているのだから、もう少し歩み寄るべきではなかったのだろうか。真意を知らずに起きた不一致から、少し喧嘩腰のようになってしまった感じは否めない。大会側も真の主張を聞かずに、選手が大会を棄権するまでに追い込んでしまったことが残念でならない。

そして、彼女がこれまでに開いてきた何百回もあろう会見の中で、取材をしてきたジャーナリストたちはいったい何を聞いてきたのだろうか? 試合の感想はもちろん毎回聞かれることだろう。真面目に選手の成長していく姿を追ってくれる記者も多くいるだろうが、選手にとって答えづらい質問も飛ぶことがあるという。それは女性プレイヤーにとってセクハラにも感じる質問もあると聞くから驚きだ。

悪気があるのかないのか、選手の感情を踏みにじるような質問もある。実際に、セリーナ・ウィリアムズも敗戦後に「なぜあの場面で凡ミスをしてしまったのか?」など少し意地悪な質問を受け、涙で会見場を後にした。記者からすれば、まっすぐに聞きたいことだったのかもしれないが、敗戦後の選手からすれば極限状態で戦った後には酷な内容だろう。凡ミスと見られたショットも、ポイントを成功させるために打ち放ったワンショットであり、相手にプレッシャーをかけるべくリスクを負って勝負したかもしれないからだ。選手自身も、この出来事を言葉で伝えられるように努力できる日もあれば、やはり困難な日もあるだろう。

■素直な性格と背中合わせのジレンマ

しかし、メディアの力で多くの人への認知が広がったことも事実である。試合の詳細を知りたい人もいるし、プロの考えていることを文字で知りたい人もいるはずだ。大会の広報部隊の活躍も大きいが、Webメディアや新聞紙面の影響力が大きいことは間違いない。

今となれば、大坂もこの問題について言及するタイミングを間違ったと陳謝しつつ、今大会に対してナーバスになっていたことを打ち明けている。会見に対しては「私はもともと人前で話すことが得意ではなく、世界のメディア相手に話す前はとても大きな不安に襲われます。本当に緊張するし、あなた方に出来る限り最善の答えを出そうとすることにストレスを感じてしまう」と本音をこぼした。

そう感じるのも、世界で自身の発言が大きく報道され、影響力の大きさを自覚しているからだろう。そして彼女はどんな質問にも答えようとする素直な性格であるがゆえ、ジレンマが起きる時があるのかもしれない。

アスリートはよく心身ともに強靭だと思われがちだが、もちろん繊細な心を持ち合わせている。メディアトレーニングを受けている選手も多いが、意外にも「心の病」に悩む選手は多い。最近ではSNSでの誹謗中傷にメンタルバランスを崩す選手も数多く出ており、社会問題にもなっている。そして、このハードスケジュールのなか勝ち負けが続く生活に重圧や息苦しさを感じ、うつ病のような症状が出てしまった選手を筆者は何人も知っている。